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本家の後継 6 長所の品格

幼いころ自分の家の環境が、良いとか悪いとか、そんな概念すら無かった。

他の人より不幸だとか、貧乏だとか、親が恐ろしいとか、

身の回りで、ただそれが起きる出来事だった。

自分の生きている世界が、全世界。

自分の見たこと、聞いたことが真実。

昔の自分と今の自分。

おんなじ世界を見ているのに、自分というフィルターが違いを生みだす。

覚めた言い方をすれば、立ち位置っていうのかな。

願わくば、私に幸せというフィルターをかけさせてください。


この話は、自分自身の人生を振り返って、その苦悩の中を生き抜いてきた話です。実在する人物が登場するため各所に仮名を使わせていています。


真一の娘

長女よしこ。12才。

次女みつ。11歳。

三女、富子。8歳。

四女、隆子。4歳。


近くに住む真一の妹、私たちからすれば叔母が心配して、たびたび様子を見にきてくれたのが、私たち姉妹には有り難かった。

次第に年頃になる女の子の体のことなど、真一にとってはとても煩わしく、男の自分には理解できないことでした。

まるで汚らわしいものを扱うように、口汚い差別的な言葉を年端もいかない子供に言い、同時に聞くに耐えない言葉や、下品な言葉を浴びせ、時には暴力をふるった。

内容としてはもう、音声にしたら「ピー」「ピー」だらけ。

文章にしたら塗り潰し「⚫️⚫️⚫️」だらけになってとても文章にはできません。


そんな真一でしたが、誰にでも嫌われていた訳ではありませんでした。

家族としては最低だと感じていましたが、他の人の話を聞くと、いろいろと真一を慕っていたひともいました。

大人としての思いやりや、社交辞令のようなものも含まれてはいると思いますが、立場が違えば、良いところとして見えたのかもしれませんし、表面的にしか見えない所の奥に何かを感じていたのでしょうか。


真一は本家の長男として生まれた。

後継が生まれて、両親はさぞ嬉しかったことだろう。

真一は父親を戦争で亡くしている。

自分のところにも徴兵検査がきたが、視力低下を理由に徴兵を免れた。

(大人になって、NOメガネで自動車免許をとったということは・・・。怪しいぞ。)

本家の後継を亡くしたくないという、真一の母の気持ちがそうさせたのか、あるいは、本人の母を思う気持ちがそうさせたのかどうか・・・。どの道、その後すぐに終戦を迎えることになりましたが。

真一の父、隆雄は良く冗談をいって仲間を笑わせる人柄で、人に好かれるタイプだったらしい。

実は、まさ子の母は隆雄みたいな人と結婚したいと思っていたというから、何ともまあ複雑だ。

隆雄が出兵するまで10年、一緒に生活して、少なからずそんな父を見ながら育ち、父のようになりたい憧れを持っていたに違いない。

しかし、それは隆雄の内面から来る人柄あってのこと、真一の内面の何かの欠乏が隆雄とは同じような人柄にはさせなかったようだ。

田舎の人ならば良くいる人のように、真一もまた山歩き、山菜採りなどが好きで、沢山とってきては、知人や親戚に分けてあげていた。

そんな時に喜ばれたり、お礼を言われるのが、日頃感じている自分に対する批判的な空気を和らげる役目をしていた。だから、外面は良いという結果になったのかもしれない。

頭が悪かったとかではない。

困っている人が居れば、手を貸してあげるということもしていた。

しかし、自分を良く見せたいがために、家族を犠牲にした自分本位な形になった。

家族の生活費が無くなっても、他人に酒や遊びを奢ってやったり。

流行り物をいち早く手に入れ自慢したがった。

タバコも酒も飲めないほど落ちぶれた、と言われたくないという変な見栄をはった。

人をよく笑わせようとしていたところは父、隆雄からの遺伝かもしれないが、内容が下品だったし家族を笑いの種にしたのは、いただけない。

そして間違った威厳を保つために家族を虐げてきた。


また、こんな一面もあった。

出稼ぎにいって、一杯飲み屋などに通っていたせいか、いろいろな料理に味をしめて帰ってきた。実家の田舎では口にすることのない料理。

好奇心旺盛なのと、手先が器用なのと、酒好きが見事な手を組んで、自分の酒の肴を手作りした。おのずと、珍しい食材にお金もかかるし、珍しい肴を食べに来る輩も増えた。

才能が発揮される場面を間違った悪い手本である。


真一の才能に集まった、ハエのような連中が喜ぶような下品さに磨きがかかっていき、それを見ていた私たち姉妹の人間性にも、知らず知らず下品さが染み込んでいきました。

まるで言葉を覚えるように。

(読者に不快な思いをさせる表現が出てきたら、それは父のせいだと言い逃れしようと思う。)


自分のベースの思考の基準となるものが、周りの人によって影響を受けて行くのを子供のうちは選べない。

自然に耳にしてきたことは、自分の思考の一部として吸収されていきます。

そして将来、反射的にあんなに嫌だった親と同じことをして自己嫌悪に陥ったりします。

私も、とても苦しんでいた時には、自分が体験してきたことを条件反射のように、頭の中で再生し始めていたのだと思います。その本当のカラクリが分からずに。

無垢な赤ちゃんから、次第にいろいろな色に染まっていくそれぞれの人々。

真一と四姉妹、隆子はその後も苦難を重ねます。


この続きは、また次回に。










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