本家の後継 2 赤ちゃんの運命
近年、幼児が痛ましい結果になっているニュースもたびたび目にするようになり、心が痛みます。
自分ほど不幸な人間もそんなにはいないと思っていましたが、今、自分がこうして生きていることを考えると、まだましな環境だったのでは無いかとか、強運だったのではないかとか、色々と考えるようになりました。
前回、私が生まれる前の父母の話を書かせていただきました。
この話は、実在の人物が登場しますので、仮名とさせていただいています。
気ままで暴力的、酒乱な父親の真一。
引目があって自信のない割りに、頑固なところもある母まさ子。
一般的に多い兼業農家で、田んぼでは農協に出すわずかな米と自分のところで使う米と、季節ごとに食卓に上る野菜を育てていました。
前回の話から数年後、二人の間には子供が三人となっていました。
次こそは、後継となる男の子が生まれるだろうと期待していたにもかかわらず、まるで意に反するかのように三人とも「女の子」であった。
ある年の春になるころに、母まさ子は四人目を妊娠していることに気がついた。
まだ、身篭ったばかりであるが、姑である真一の母に報告した。
すると、こんな答えが返ってきた。
「ちょうど、生まれてくるのが稲の収穫時期にあたるから、人手がかかって大変な時期だから今回は諦めてくれないか。」
姑の言うことに反対出来るような時代でも無かったのもあるが、もうすでに三人の子供がいる。生活も大変だ。
もちろん真一も特別反対はしなかった。
まさ子は姑の言葉に従い、病院へと行き処置してもらった。
残念なことに、こんな場合に限って「男の子」だった。
この時の真一と真一の母の気持ちについては私は聞いていない。もしかしたら、自分達の方から「諦めてくれ」と言った手前、母を責めることが出来なかっただけだろうと推測される。
男腹、女腹という言葉を知っているでしょうか?
男の子しか生まれてこない人を男腹、逆に女の子しか生まれてこない人のことを女腹というそうです。
生まれてくる子供の性別を、女性の(嫁)の腹のせいにするなんて、なんて女性は肩身が狭くて、虐げられていたのだろうと思います。
母まさ子は三人続けて女の子だったので、「女腹だからもう女しか産まないだろう」と思っていた所に男の子を身篭ったので、真一も姑も希望が生まれた。
夏頃にまた再び妊娠がわかると、今度こそは「男の子」と期待し、母もまた名誉挽回とばかりに生まれて来るのを待ちわびていた。
2月。
雪深い日の夜、産婆さんが到着すると家族はお湯を沸かすように言われ、子供達は早く自分たちの部屋で寝るように追い払われた。
予定より日にちは過ぎていた。
予定と言っても今ほどの検査があるわけではないので、おおよその予定日なのだが、それでもだいぶ日にちが過ぎていた。
出産は初めの子より段々楽になると言われている。
しかし、どうも今回は違う。
なかなか出てこない。
産婆さんはベテランで慣れているとはいえ、だからこそ元気で生まれてこれなかったケースもたくさん見てきたに違いない。
難産だった。
まさ子は今までに経験しなかった激痛に、意識がどうにかなりそうになりながら、ようやく赤ん坊を産み落とした。
女を蔑んでいるバチがあたった!?
「女の子ですよ」
「・・・・」
小柄な、まさ子の体から丸々とした大きい女の子が生まれてきた。
予定日よりもお腹の中に長くいたせいか、体重が増え、大きく育ってしまったために難産になってしまったのだ。
真一は出稼ぎで遠くに働きに出ていたので、手紙で出産の知らせを受けた。
「女の子が生まれました。」
「出生届を出しますから、名前をつけてください。」
真一は、あんなに期待していたのに手紙を読んでガッカリした。
同時に怒りが湧いてきた。
生まれた時にその場にいたら、産婆さんから赤ん坊を奪いとって殺していたにちがいない。
しかし、自分は遠くにいるのでそんなことは出来なかった。
酒を煽るくらいしか。
真一から、まさ子に手紙の返事が届いた。
子供につける名前はどこにも書いていない。
まるで殺人予告のような内容だ!
しかし、すぐに帰らないのはわかっている。
まさ子はもう一度、真一に手紙を書いた。
今度は返事が来るまで時間がかかった。
ようやく名前が付けられたが、出世届けの提出期限が過ぎていたためにどうしたら良いのかと思い、健診にきた産婆さんに相談した。
「じゃあ、生まれた日を、もっとあとの日にずらしましょう。」
ここで、女の子の本当の誕生日は消えてしまった。
(星占いの結果が変わってしまうじゃないか。どうしてくれるのよ!)と思ったかどうかは定かではない。
これが私、隆子である。
赤ん坊は、お腹のにいる時、周りの人の会話を聞いているそうです。
実は、会話だけでなく霊感のように、その心の中も感じ取っているとか。
母のお腹の中で、私はどんなことを感じてきたのか?
なかなか生まれなかったのは、自分が「女」で本当は望まれてないと言うことを知って、お腹から出たく無かったのかもしれません。
しかし、宇宙はそんな私が生まれて来るのを望んでいたのか、父の手に殺められることのない時期を選んで生まれさせてくれたのです。
自分に、そんな価値なんてあるのか・・・?
この続きはまた、次回に。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?