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久しぶりの更新となりましたね~。

仕事に毎日手一杯で、休日に美術館に栄養補給に行ってはいるものの、なかなか更新する時間がありませんでした。(言い訳)
今回の展覧会は、“疲れたときには甘いもの”的な感覚で、疲れた心にしみる「美しいもの」を観に。
以前もアンティークジュエリーの展覧会記事をあげていることでもわかるかと思いますが、工芸好きとしては、やはり、職人の手仕事の極みとして、ジュエリーの世界は外せません。高額で希少価値の高い、ハイクオリティーな宝石を主役に、それを引き立てるために技術力を結集している、いわゆる一点制作もののハイジュエリーも、もちろん素晴らしいですし、決して一般市民風情が手に入れることの出来ようはずもない究極の美を愛でて、ため息をつくのももちろん楽しいものですが、今回の展覧会のタイトルにある、「コスチュームジュエリー」の世界もまた楽しいものです。
そもそもの用語説明として、「コスチュームジュエリー」という言葉自体が、一般的にはまだ馴染みが薄いものではないかと思いますので、先ずはその意味合い、定義から。
コスチュームジュエリーというのは、「宝石や、貴金属を用いたファインジュエリーに対して、それらを用いないで作られた、イミテーションジュエリーのこと」という風に定義されています。そう言ってしまうと、なんだか「なーんだ、偽物か。」という風に受け止められてしまうかもしれませんが、(実際観ているカップルの男性がそう呟いているのも耳にしましたし。)これらのコスチュームジュエリーには、女性の服装の歴史や、その変遷を含めた様々な時代背景、工業技術の発展に伴う素材の移り変わりなど、複雑に関係して影響し合う様々な要素や、当時の流行やデザインの移り変わりなどを語る上で欠かせない生き証人としての役割があるのです。
コスチュームジュエリーは、読んで字のごとく「コスチューム」、つまり服装に合わせてデザインされたもの。ですので、皆様お馴染みのファッションデザイナーである、シャネルや、クリスチャンディオール、イヴ・サンローランや、バレンシアガなどの名前が随所に出てきます。もちろん本人が制作しているわけではなくて、それぞれのメゾン(工房)所属の専属のデザイナーが、その衣装に合わせたデザインでジュエリーを作っているのです。
あくまでも服が主役で、コスチュームジュエリーはその服をもっと美しく見せるためのアイテムですから、必ずしも本物の宝石や、貴金属を使って制作する必要性はなく、また、男性が女性に「与える」権威の象徴の付属品としてのジュエリーとは異なり、女性が、自身で働いて手に入れたお金で、自分自身で楽しむために購入する服に合わせて装着する装飾品ですから、手に入れやすい価格帯であることもまた、大切な要素の一つでした。
そこでジュエリーの素材として登場してくるのが、当時の最新技術を活用した、ガラスや、合金、プラスティック素材などでした。また、高価で貴重な真珠に替わって、人工で真珠の輝きを再現した模造パールなども、様々なデザイナーが使用しています。ちなみに、この模造パール、じつは、明治時代末期に日本に伝わってから1937年頃まで、その品質の良さで、ヨーロッパ諸国や、アメリカなどに輸出されて、多くのデザイナーが使用していたというのは意外に知られていないかもしれません。
コスチュームジュエリーの素材として多く使われていたもので、他に意外と知られていないものとしては、いわゆる新素材としてのプラスティックでしょうか。はじめにジュエリーとして利用され始めた「ベークライト」は、ベルギーの科学者が開発した合成樹脂で、1909年に特許取得、加工のしやすさや発色性の良さなどで1960年代ぐらいまでは多く使われていました。1930年代に開発された効果アクリル樹脂の一種であるルーサイトも、あまり馴染みのない素材でしょうか。こちらもアメリカのデュポン社開発で1941年特許取得の新素材で、強度の高さと、アップルジュースと呼ばれる透明度が特徴的です。他に知名度の高い樹脂素材としては、セルロイドがあげられますが、この展覧会で調べるまで、私はセルロイドの原料を知りませんでした。・・・・綿花が、原料だったんですね。
その他にもコスチュームジュエリーの世界では、様々な新素材などを取り入れて、様々な美しさを展開していきます。また、現在では製造方法なども謎となってしまったチェコのサフィレットガラスや、放射性物質で有名なウランを着色料に使用したヴァセリン硝子(ウランガラス)等も、現在は製造されていない素材となっています。
科学技術の進歩が、武器や兵器の開発ではなく、こうした平和的な方向に活用されていくのは嬉しいですね。
さてさて、ついつい工芸好きとしては、新素材や技術といった面について語ってしまい、前置きが大分長くなりました。そろそろ展示について話しましょう。

まず目につくのが、ポール・ポワレのデザインの夜会マスク。・・びっしりと刺繍された、硝子のビーズで表現されているのは、「たこ」(オクトパスの方ですよ。)タイトルが深海なのでまあ、わからなくもないですが、かなり注目を浴びることが出来るというのは間違いない。ビーズ刺繍の密度と、輝きが凄い作品です。
この、ポール・ポワレという人物、何をした人かといいますと、1906年頃に、それまでの女性のファッションで必須であった「コルセット」を使わないスタイルのドレスを世に生み出した人物なのです。ウエストをギリギリと締め付けるコルセットは、当時の女性の体調不良などの原因となったものでもあり、それからの解放というのが、当時の女性にとってどれほどのインパクトであったかというのは想像に難くありませんよね。ほかにも髪型をシンプルにしたり、年々巨大化していた帽子をシンプルなターバンやヘアバンドにしたりと、ファッションの世界の変革者でもありました。
同時代のデザイナーでもある、ココ・シャネルの方が、日本では馴染みがあるかもしれませんね。彼女もコルセットを使わず、ウエストを強調しない「シュミーズ・ドレス」で一躍モード界の寵児になりました。
シャネルのコスチュームジュエリーを制作していたのは、職人のオーギュスティン・グリポワでした。今回の展示では、そのグリポワの率いる工房の作品が出品されています。

他にあまり日本で走られていない人物としては、スキャパレッリでしょうか。イタリア生まれの彼女は、ポール・ポワレにその才能を見いだされて、アメリカからフランスへ。一躍ファッションデザイナーとして活躍した彼女のコスチュームジュエリーは、花や、葉、木の実や動物などのデザインで、素材をうまく生かしたセンスを感じるものです。

そして、私がコスチュームジュエリーと聞いて、まずその名前を思い浮かべるのが、ミリアム・ハスケルと、そのデザイナーであった、フランク・ヘス。アメリカ生まれのハスケルは、先の3人とは異なり、服のデザイナーではなく、「コスチュームジュエリー」の専門店をニューヨークに開いて成功していきます。洗練されたフランクヘスデザインのコスチュームジュエリーが観たくて、展覧会に足を運んだと言っても過言ではありません。是非とも、この展覧会で、「綺麗なもの」のエネルギーを浴びて、リフレッシュしていただきたいものです。

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