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Richard SinclairとFender Jazz (その1)

先日、Richard Sinclair在籍時のCaravanの希少な映像を見つけたので投稿してみたのだが、そういえばRichardって、いつもFender Jazz Bassを弾いているのでは(タイプは時期によって微妙に違うけど)とふと気づき、じゃあその変遷を辿ってみようということで、Richardがベースを弾いている映像を見ながらあれこれ論じてみることにした。noteでアカウントを作ってみたものの、何を書くか方向性がまだ定まっていないためニッチな切り口になってしまったかもと我ながら思いつつ。


1969年: Caravan “Place of My Own”

Richardがベースを弾いている恐らく最古の映像は、CaravanがファーストアルバムCaravan(1968年)を録音した翌1969年、Beat Clubに出演した時のものと思われる。Caravanは同番組で、デビューアルバムの1曲目Place of My Ownを演奏している。

なお、Beat Clubとは、1960年代半ばから1970年代初頭まで西ドイツで放映されていた音楽番組で、サイケ、プログレ、ハード・ロック等、当時「アート・ロック」と総称されていた中でも後世に名を残したバンドの多くは一度は出演したのではないかというくらい豪華な出演者で、今となっては資料的価値も高い。そんなアートな時代の音楽に合わせるかのように映像技術もアートで、画像エフェクトを入れまくっているのが今となっては邪魔な感もするが、それも含めて当時の歴史的資料と言うことにしよう。

話をPlace of My Ownに戻すと、先に「演奏」とは書いてはみたものの、実際には、レコードの音に合わせた口パクである。番組自体もまだ白黒放送で画質が悪く、かつこの曲はPye Hastings (g, vo)がリードボーカルを取っているため、Richardが大きく映る機会があまり多くないのが残念である。

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本体の形状及びサンバーストと思わしき色合いから、恐らく次に紹介するGolf Girl演奏時と同じFender Jazzだろう。ちなみに、左のPye Hastings (g, vo)が弾いているギターはRickenbackerの600 seriesと思われる。

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同ビデオで、RichardがFender Jazzと一緒に大きく映っているシーン。帽子の右側にスカーフらしきものがびろーんとぶら下がっているが、本人なりのファッションだったのかもしれない。なおここでは、背景にファーストアルバムのジャケット画像がオーバーラップしており、Pye Hastings本人(左端に背中だけ登場)のすぐ右にアルバム写真でのPyeがうっすらと映っているので、あたかも幽体離脱したかのようである。

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帽子を被ってご出演のため、Richardの顔がまともに映っている画像が少ない中、ご尊顔アップを拝める数少ないシーン。その前のシーンの従弟Dave Sinclair (key)の残像が、左側に幽霊のように残っている。ファーストアルバムのジャケット写真(当時20歳)にて早くもRichardの前髪はすだれ髪となっているようにも見えるが、この時点では若ハゲ対応というよりは、ファッションとしての帽子だろう。


1971年: Caravan “Golf Girl”

上記の2年後、同じくBeat Clubで収録されたものだが、番組がカラー放送化され、かつ口パクでなくスタジオライブに変わったのが嬉しい。ここでは、Caravanの3枚目のアルバムIn the Land of Grey and Pinkの1曲目及び2曲目を演奏しているが、いずれもRichard Sinclairがリードボーカルを取っているため、ご尊像をより多く拝めるのもありがたい。ご多分に漏れずいかにもBeat Clubな画像エフェクトも満載である。

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まずはGolf Girl。ベースは2年前と同じFender Jazzのようで、特に改造も加えずに使っているようである。変な柄のタンクトップにロングスカーフ首巻きというファッションが、若気の至り感を漂わせている。前髪全体にボリュームを寄せているため、すだれ髪に不自然さがなく安心である。Pye Hastingsは前回Rickenbackerを弾いていたが、今回はFenderの12弦ギターからオクターブ弦を外して6弦にしたものを使っている。後で紹介する1972年の演奏でも同じギターを用いており、当時のお気に入りだったのだろう。


1971年: Caravan “Winter Wine


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続いて、サードアルバムA面のハイライトとなる名曲Winter Wine。イントロのアコギによる3フィンガーアルペジオは、原曲においてもPyeではなくRichardが弾いているのだが、このスタジオライブでもPyeにイントロは弾かせず、Richardがギターとベースを持ち替える妙技を見せる。とはいえアコギでの伴奏を止めて背中に回す数秒間、楽器が何も鳴らずPye Hastingsのかすれたコーラスだけがスタジオに流れるため、原曲の構成を知らない人がこれを見たら、何が起こったのかと一瞬訝むだろう。

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イントロだけ別録りして編集で繋げば良かったのにとも思うのだが、Beat Club側が一発録りしか認めなかったのだろうか。その他にも色々代案はあったと思うのだが…

① ギターのPye Hastingsがイントロで何も弾かず暇してるじゃん?
 →Pyeのギターは基本的にピック弾きなので、たぶんこの3フィンガーアルペジオを完コピできなかったのだろう。なお、1990年のCaravan再結成ライブでWinter Wineを演奏した際は、このイントロはPyeが簡略なコード弾きに変えて弾いていた。不惑を過ぎた大人になると、お互いこだわりを捨てて割り切れるようになるのかもしれない。

② ギターとベースのダブルネックを使えば、持ち替えの時間を最小にできたのでは?
 →この部分を弾くためだけに、4弦ベースと6弦ギターのダブルネックという特注品を作るカネは当時まだなかったのだろう。そういえば、2010年にRichardが来日した際、ステージで6弦ギターと4弦ベースのダブルネックも使っていた(Winter Wineを弾くためではなく、ループエフェクトを使って1人で多重即興演奏を披露していた)。

③ むしろアコギアルペジオを最後まで弾いてバンド演奏に繋ぎ、ベースが遅れて入ってきても良かったのでは?
 →その方が自然な感じもするが、歌も頭から入るため、歌いながら後からベースを差し込むのが難しかったのか。

ちなみにこちらが、後年Richardが使うようになった、4弦ベースと6弦ギターのダブルネック。たぶん、来日時に弾いていたのもこれだったような。ヘッドにブランド名が付いていないことから、恐らくどこかのギター工房に特注で作らせたのだろう。

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話が脇道にそれてしまったが、原曲を聴いたことがある人はご存じの通り、この曲のハイライトは、Dave Sinclairの長いオルガンソロとRichardのベースが絡み合うところで、このライブ演奏でのオルガンソロパートでも両者による名演を聴くことができる。Richard独特のうねうねとしたベースラインは、本サードアルバム、具体的にはWinter Wineでのオルガンソロとの絡みの中で確立したと言ってもよいのではないだろうか。Winter Wineの1曲だけでも語れることは多いのだが、話が前に進まなくなるので、また別の機会にしたい。



1972年: Caravan "Nothing At All”, "The Love In Your Eye”, "Waterloo Lily”, "Songs & Signs”

[注:元のリンク先動画が消えていたので、別の動画にリンクを貼り直し。]

先日も紹介した、Caravanの4枚目のアルバムWaterloo Lily期のレアなライブ映像で、スイス・モントルーでの収録。Dave Sinclairが一時脱退しSteve Millerがキーボードを担当した時期に録音されたWaterloo Lilyは、Steveのジャジーな演奏スタイルがCaravanの曲調と違いすぎるいうことで黒歴史扱いされがちだが、Caravanとブルースロック色濃いDelivery (Steve Millerが在籍していた) がこの時期に混じり合い、そこから分裂して片やHatfield and the Northに、また片や第2期Caravanに発展していったという経緯を踏まえると、本アルバムの評価はまた違ってくるだろう。

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なお、Richardのベースは、同じ形状のFender Jazzながら、これまでのサンバースト柄からナチュラルカラーに替わっていることがわかる。指弾きにピックガードは不要ということで、元々付いてたピックガードを自分で外したようである。上の写真でベースがラメ状に光っているが、これはピックガードを止めていたビスを外した跡の凹みに光が乱反射しているからのようである。なお、本稿はRichardのベースの歴史を追ってみようというもので、頭髪を論うつもりはなかったのだが、当時24歳にしては、すだれ髪が進んでいるのが心配になってしまう。

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この角度からだと、ピックガードを外したビス跡の凹みがよくわかる。光線のせいかもしれないが、ベース本体の表面がまだら模様気味にも見えるので、もしかしたらナチュラルカラーのFender Jazzに買い換えたのではなく、前から持っていたFender Jazzのサンバーストの塗装を剥がしたとも推察できるが、これだけだと断定まではできない。

ともあれ、このナチュラルカラーのFender Jazzは、1970年代を通じ、改造も加えられつつメインのベースとして愛用されていたこと、またその後もメイン機としてFenfer Jazzを愛用していたことを、各時代の映像を見ながら追っていきたい。話が長くなりそうなので、3回ぐらいに分けて続きを書くことにする。

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