西成ガギグゲゴ【七人の侍 えるびす】
5年ぐらいになるだろうか
意外と上品で、ムードと世界観をもった男が常連になった
出会いを覚えている
男は、かなり泥酔した状態で、軒先を覗いていた
確か、音楽のイベントで音合わせをしている最中だった
「お金無いんだけど、聞いてていい?」
と聞かれたので、中にどうぞと促した
男は、ニコニコしながら聞いていた
しばらくして
「エルヴィス・プレスリー弾ける?」
男は、唐突に聞いてきた
演者のひとりがエルヴィス・プレスリーを奏で出した途端
男は立ち上がり全身を躍動させながら
歌いだした
あまりのパフォーマンスに演者一同も圧倒されて、その後
しばらくの間、男の即興LIVEが続いていった
素晴らしいパフォーマンスだったので酒を一杯ごちそうした
男は「Happy Night!」と言い残し消えた
その男こそが、のちのピカスペース七人の侍のひとり【えるびす】である
「はるー、この店は、いつも暇だな」と言い
ケーキやら酒のアテなどを買ってきてくれる
時には、店の机が良くないと言って、店の為に机を買ってきてくれたこともあった
「この前、旅行した時のおみやげ、はるに似合うと思って」
Tシャツやポロシャツをプレゼントされることも度々ある
基本それは、えるびすとお揃いなのだが
「これは、ママに」(わたしのパートナーのこと)
大量のケーキをもらう
かなり陽気な方で、パッと店が明るくなる
他のお客さんがいれば、お酒を全員に振る舞いだすのも、見慣れた光景である
女性がいれば、お酒を奢り、ひたすらLove Me Tenderを至近距離で歌う
相当な女好きである
酔っても陽気であり、ひたすら明るくなるから、えるびすが来てくれるのはかなりうれしい
毎回、新しいCD(エルヴィス・プレスリー)を持ち込んできて、
私のiTunesは、えるびすお気に入りのエルヴィス・プレスリーでうまっていった
えるびすがピカスペースに来るたびに、エルヴィス・プレスリーのことをどんどん知っていった
別にエルヴィス・プレスリーにはそこまで興味が無かったが、曲の内容や当時の背景、いかにエルヴィス・プレスリーが愛されたかを毎回聞かされた
わたしは、刷り込みにやられたのかもしれないが、エルヴィス・プレスリーを好きになってしまった
えるびすが居ない時でもエルヴィス・プレスリーを聞いている自分がいた
そこから、自分好みの曲も見つかってきた
その曲を、えるびすが来たタイミングで、必ず流すようにしてた
ファーストコンタクトで踊るか踊らないか
えるびすは、必ずといっていいほど踊っていた
「はるも中々エルヴィス・プレスリーをわかってきたじゃないか」
かなり上からである
わたしは、エルヴィス・プレスリーのプレイリストを作った
そのプレイリストは、自分好みとえるびすの好みをミックスさせたプレイリストだ
5年と言う歳月をかけて熟成させていった
いわばエルヴィス・プレスリーを通してのえるびすとの2人の軌跡である
人間は共通の好きなものを通してわかりあえる
わたしは本当にエルヴィス・プレスリーに興味が無かった
それが、えるびすとの出会いにより興味を持つようになり、好きになった
どのタイミングでえるびすがピカスペースに訪れるかはわからなかったが、マイクとマイクスタンドをすぐ出せる場所に移動させた
えるびすがピカスペースに入った瞬間に、プレイリストを流しマイクスタンドを立てた
えるびすは微笑みながら
「今日はやらないから」
「今日はやらないよ」と言いながらも
マイクスタンドを握りしめマイクを掴んだ
歌い出しとともに、えるびすはエルヴィス・プレスリーに入った
この入店直LIVEは、変わらない2人のコンタクトである
グッドヴァイブスの時は、照明を落としてミラーボールを回転させる
援護射撃により、えるびすのボルテージが上昇しだすと
ボディランゲージの切れが良くなる
遠心力で軸のバランスがおかしくなりだす
そのえるびすダンスが、本当に素晴らしい
何もかもの条件が満たされた時、えるびすのハマり方は完璧だった
わたしは、この素晴らしいLIVEをみんなに見せたいと考えるようになった
えるびすの個人的なLiveにわたしは、ひたすら立ち会ってきた。
話の途中だろうが、お気に入りがかかれば歌い踊り出す
大勢のお客さんの前で歌っているイメージだろう
悦に入ったえるびすLiveは、本当に素晴らしかった
しかしLiveはほとんど、お客さんが居ない時ばかりであった
Live最中にお客さんが入りだすと、男性客が3人以上来たら止めてしまう
女性客だとそのまま続ける
ノリの良い女性客だと、そのまま至近距離で歌いながら、えるびすはわたしに目配せをしてくる
わたしは、直ぐにLove Me Tenderの曲に切り替える
そのまま、歌いながらえるびすは、スムーズにチークダンスにもっていく
素晴らしいエスコートである
御満悦したえるびすは、その後、女性客に奢りまくる
ある程度の条件が揃った時の、えるびすのパフォーマンスは本当に圧巻だった
ただその条件を満たすのが、非常に難しかった
えるびすは、めちゃめちゃシャイで繊細だった
完璧な状態にえるびすをもっていき、わたし以外の他者がえるびすのLiveに立ち会えるのは、稀だった
立ち会えた人達は、幸運であり、決まって全員大笑いである
しかも御機嫌のえるびすにより、その後の飲み代もタダになる
えるびすも笑顔で誰もが、Win-Winになる
ピカスペースで出せるお通しでは、最上級だった
中々出せないお通しだった
15才でエルヴィス・プレスリーの曲に出会い
およそ半世紀以上のファンである
エルヴィス・プレスリーに会いに20才でハワイに行き
実際にエルヴィス・プレスリーと会っている
エルヴィス・プレスリーが亡くなってから、直接お墓まで供養しにいっている
えるびすは、神戸出身でどこかの社長だったみたいだ、詳しくは聞いてないが、羽振りから見てそうかなと思っている
ピカスペースですら2万円近く一日で使うこともあるから、他のスナックやカラオケパブなら、いったいいくら使ってるのかわからない
女性が大好きで、女性ならすぐに奢り、フラッと消えたと思ったらケーキやらプリンなどの甘いものを沢山買ってきて、その女性にプレゼントする
「今から、これだから」左手の小指を立てて、いつもより小洒落た装いで帰る時もしばしばある
基本それは、カラオケスナックか新世界の立ち飲み屋のママ目当てなのだが飛田新地の女性に恋をして、15分だけお話をしてデートの約束を取ろうとしていたこともあった
しかも何度も
決して安くないのに
えるびすにとって、のれんをくぐった瞬間にエルヴィス・プレスリーが流れ出し、マイクを手渡してくれる店はここしかないと思う
えるびすはこの店を大層気にいってくれている
1対1のLIVEパフォーマンスなら思う存分、エルヴィスプレスリーを表現するのだが、誰か他の客が来るとやめてしまう
「はる、そろそろ帰るね」
そー言って帰ってしまう
私の前で見せるえるびすのパフォーマンスを、私はなんとか他のお客さんにも見てもらいたかった
えるびすに対しても大勢の前でLiveしてもらいたかった
えるびすは、店に来始めると頻度が集中してくる
その間、入店直Liveは絶対に怠らなかった
頻度が集中しだすタイミングで、日を跨ぎながらえるびすのボルテージを上げて行った
すべての条件をクリアさせつつキープさせて、5回ほど日程を決めて告知もしたが、「はるー、ジャンプスーツ着てくるからー」と言い残して当日に飛ぶ
どこか自責の念もあるのだろう
しばらくお店に顔を出してくれない
「はるー、ちょっと飲み行かないか?」と誘われて
新世界近辺のカラオケ飲み屋に行けば、「いらっしゃい ゆうちゃん」と言われていた
石原裕次郎をその店で何度も歌うからである。
えるびすは、かなり歌がうまいと思う
石原裕次郎なんかは、もうそのまんまである
身なりもきれいで黒のハンチングに冬でも胸をはだけたシャツを着ている
かなり上品である。
店側としては、これ以上無いくらいの上客である
本当に羽振りがいい
深酒をしているえるびすは、必ずピカスペースの出会いを話してくる
「あの時、無一文の俺に歌わしてくれて、その後に酒まで御馳走してくれて、はるーありがとう」
「俺にはね・・・・・・」
詳しく載せられないが、阪神・淡路大震災ですべてを無くしたみたいだ
義理堅く、人情味がある
えるびすのもうひとつの面である
その時は、急に訪れた
2018年の11月のイベントの日、お客さんも結構いて、ワイワイした日だったと思う
何がどうしたかえるびすは、お客さんがいる前で、ひたすらエルヴィス・プレスリーを歌って踊ってた
確かに若い女性客が多かったが、こんなに大勢がいるのに異常だと思った
お客さんの若い女性から、ほっぺにチューとかされて超ごきげん
えるびすフルスロットル!!!
これは異常事態だが行くとこまで行こう、えるびすを連れて行こうと思い
5年のあいだお互いに選別した、エルヴィス・プレスリーのプレイリストを流した
えるびすパフォーマンスLive開演だ
マイクスタンドを立て、照明を暗くした
歌い出しと共に照明を明るくした
5年間やり続けた2人のコンタクトを一寸の狂いも無く遂行した
ミラーボールを回転させて、えるびすにスポットライトをあてる
援護射撃により、えるびすのキレが増していく
お客さんの盛り上がりも全開
女性客から黄色い声援「キャー!! えるびーす!!」
共鳴する黄色い声援達「きゃー!! えるびーす!!」
躍動感がせりあがり、遠心力で軸がおかしくなりだす
えるびすダンスタイムになってきた
我慢できず抱きつく女性客
たがが外れていようとも、優しくエスコートするえるびす
チークダンスタイム
女性客、メロメロでほっぺにチュー
お客さんのレスポンスは上昇しっぱなし
完璧だ
半世紀以上溜めに溜めたそれは見事だった
ひとり家で深酒し、夜な夜なヘッドフォンをつけてひとり歌い踊りちらかした日々の蓄積は見事だった
武道館でひとり熱唱し、満員の客がステージに熱狂するイメージの蓄積も見事だった
えるびす天晴れ
「はるー 次あれなー!」
「合点承知」
完全に阿吽の呼吸、5年間会えば必ずしてきた事を、今までのコンタクトを、今この瞬間に!
「はるー!」
「えるびーす!」
見事なえるびす・プレスリーだった!
「はるー 全部おれが奢るから、飲み放題&食べ放題にしてー」
「明日払うからー!」
「みんなー飲め―!」
もうグチャグチャだったが、えるびすもお客さんも最高潮に達し楽しんでいた
レスポンスもあがりぱなしで最高潮を更新し続けていた
完全にエルヴィス・プレスリーだった
本人もようやく他者の前で、思う存分エルヴィス・プレスリーができて本望だろう
こんなにめでたい日は無いと思い、飲み放題&食べ放題にした
終電間際にお客さんは揃って笑顔で帰り
えるびすも大満足して帰っていった
満面の笑顔で「Happy Night!」と言い残して
なんだかえるびすとの5年間の集大成のような気がして
自分のことのようにスッキリし、余韻に浸った夜だった
誰も彼もが笑顔で笑い転げていた
あまりの熱量に女性陣は、女になってる自分自身に笑っていた
予想以上の大笑いを、えるびすは振る舞った
まさに「Happy Night」だった
えるびすがお客さんの前で完全燃焼してから1年が経とうとしている
最近エルヴィス・プレスリーを聞いてない
あの日を境にえるびすを見なくなった
2万円のツケだけ残して
Written by Haruki Kumagai
イマジネーションピカスペースWEB https://pikaspace.tumblr.com/