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西成ガギグゲゴ【七人の侍 ジャブ】

Supremeの服をさり気なく着こなし、お洒落な被り物をのせてる
毎日来るのに着こなしている服が違う
古着や新作などの服をさらりと着こなすその人物は、私の店ピカスペースに訪れる
七人の侍の一人、ジャブさん
陽気な赤の自転車に乗りながら、これまた陽気に酒を飲む人物である
お気に入りのマイク・タイソンのTシャツやボクシング関係のTシャツを来ている時は、さらに陽気で
シャドーボクシングをしながら入店してくる時も良くある光景である
ジャブさんも古参のお客さんで、6年程の常連である
日に何度も訪れるのがジャブさんの飲み方だった
「はるちゃん サッポロ!!グラス2つ」と言い
必ずその都度わたしと乾杯する
「この店は、波動が良いな」
「はるちゃんが波動がいいからかな」
「必ずサクセス出来るね」
そう言って笑った
ジャブさんも深みのある良い笑顔をする一人だ
この新世界近辺に長く住んでいて、新世界市場の繁忙期の話などしてくれる
幼少の頃から、新世界にはおやじさんと一緒に来てたみたいだ
かなりこの近辺の歴史には、詳しくジャブさんから教えられる事はおおいい
わたしのお店のピカスペースは、新世界市場の商店街の中にある
新世界市場は、100メートル程の商店街なのだが、その中に当時溢れる位お客さんがいたらしい
これは、市場内の商店主からも聞いたときがある話だった。
本当にすさまじい黄金時代だったらしい
大型のスーパーの出現などにより、少しずつお客さんは流れて行った。
ピカスペースは市場の南側にあるのだが、わたしが8年前に初めて来たときにはすでに南側のほとんどはシャッターが閉まっていた
まさにシャッター商店街だった
新世界一帯は、串カツのメッカであり、かなりデコラティブなお店が集まっている。、
ビジュアルもゴチャゴチャしててその中心に通天閣がそびえ立つ
かなり面白い雰囲気で、人々も良く訪れる観光地である
朝から飲む安い立ち飲み屋もいっぱいあり、昼頃には完全に出来上がってる人々を良く見る場所でもある
この新世界市場だけが、とりのこされている様だった。
わたしはこの感じが好きだったし、この場所に可能性を感じていた
ここ数年のインバウンドの特需により、通天閣&新世界は外国人旅行者、特にアジアの方々がおおく来るようになった
新世界近辺のマンションやアパート、人の気配のしなかった物件は、どんどん民泊かHOTEL、串カツ屋に変わって行った
新世界市場は、通天閣まで徒歩30秒と言う好立地にもかかわらず、ガラガラの商店街だった
そこに当然、目を向ける人達が出てきた
中国マネーが瞬く間に入りこみ、新世界市場内だけで、5~6軒の民泊が出来た
ピカスペースの隣にも民泊ができた
商店街的には、お店になってもらいたい所だが、民泊が増加した
シャッターから真新しい玄関になっていった
そんな中、商店街的に待望だった新規のお店が、近々2店舗南側にオープンする予定である
これは、本当にうれしい
新世界市場は、大きく衰退した時代から新しくうねりはじめている
それは、ここで商売をしているわたしもまざまざと感じている
個人的に懸念している所もあるが、新世界市場が盛り上がる事はうれしい事である
衰退から発展へと新世界市場は、移行している様に思う
当然、ジャブさんもそれを感じている様だった。
「はるちゃん、そろそろサクセスできるんじゃない」
そう最近、ジャブさんは良く言った
ジャブさんは、ボクシングが大好きな事と自称カメラマンと言っていた
口癖は「必ずサクセスできるよ」だった
ただ、まったく謎の人物だった
独特の距離感の持主で、口調もおだやかで丁寧
言葉のセンスも良く
淡々としていた人物だった
カメラを撮る事も稀で、見せてもらう写真は、別段変わり映えの無い人物の笑顔ばかりだった
基本、その人物を好きになればその人物の背景や道中などが、気になりだし聞き出すのがわたしの流れである
ただジャブさんに限っては、謎のままで良いと思っていた
また聞き出すのもなんか野暮だと感じていた
それ位、ジャブさんの会話のリズムが心地よかった
昼間から酒を飲み
帰ったと思ったら、新しい服装に着替えてまた来る
他にお客さんがいれば、丁寧に応対しながら一緒にお酒を飲む
当然、そのお客さんにも奢る
またちょっとこの人とは、噛み合わないなと感じれば、お酒が残っていようとスッと笑顔で挨拶して帰って行く人だった
ピカスペースは、お客さんとお客さんの距離感がかなり近い
満員御礼になれば、次から次にお客さんを吸い込みだしてしまう
相席などは、当たり前になり椅子を移動させながら各々が話し込む
この状態になると私は、ひたすらお酒を出し軽いアテを出すだけになる
お客さん同士で盛り上がり、酒もすすむし売上もあがる
勝手に全てが廻り出す、最高のアテとは会話であると思ってしまう
この瞬間が好きで、毎日こうであれば良いと思うが、この店の場合は、完全に引きである
ピカスペースがぐちゃぐちゃに盛り上がってる時に、ジャブさんが来れば
何本も瓶ビールを注文し、顔見知りな人を中心にお酒を注いでいる
「はるちゃん 今日は楽しいな 儲けてなー」そう言って楽しんで行く
自分でさえもしばらくこの盛り上がりは、いらないと思うのにジャブさんは、
次の日、開店と同時に来て「もう一丁」見たいなノリで来る
そういう一面もある人だった
店をやっていると常連と言う枠が出来る
もちろん商売的には素晴らしい事だが、この常連にも程良い距離感と一週間に来る回数がある
勝手な事を言ってしまうが、その距離感と回数が丁度良い位の常連は、常連客である
その距離感と回数を超えてくるのが、七人侍の1つの共通事項である
ただ七人の侍の目当ては、わたしであり
客がいようがいまいが、何時でもタイマンを求めてくるのである
それなのに七人の侍のジャブさんの場合だけは、不思議と楽しい時間を過ごせた
ジャブさんは、来だすと来るが見なくなるとしばらく見なくなる
その塩梅も丁度よかったのかもしれない
4年位前にWBA世界フライ級タイトルマッチ
井岡一翔の世界戦にジャブさんから招待された
いつも通りボクシングの話で盛り上がっていたら、ジャブさんは井岡一翔のタニマチであるから
チケットを貰えると言っていた
一緒に行こうとなり、会場で待ち合わせて世界戦に立ち会えた
ジャブさんは、小さいコンパクトな椅子を取り出し、決められた席に座らず
慣れた様子で、通路の一角に陣取った
かなり良い場所で二人で見ていた
結果は井岡一翔の勝利で3階級制覇だった。
その時のジャブさんの喜びようはすさまじいものだった
ボクシングの試合は、初めてだったがかなり面白いのでオススメしておきます
特に入場シーンが素晴らしい
平日の早い時間帯から深夜遅くまで、赤い自転車でフワフワしている
「この人は、毎日何をしてるんだろうか?」
一切が謎だった
ただカジュアルで上品な人だった
酔いだすと時折、スピリチュアル系な事を言い出す
また、著名な人とのツーショット写真を見せてくれる
ガラケーの画質の良くない写真だが、ジャブさんは相当若く見える
ジャブさんは、50代前半だが、写真は20代位に見える
「はるちゃんは、良い波動を持っている」
「はるちゃんは、大器晩成型」
「必ずサクセスできる」
これは、ジャブさんに度々、言われる事柄である
前向きな言葉なので、言われるとうれしい
深く酒を飲み過ぎた時の、ジャブさんは陽気であるが、時折すさまじい顔つきで一点を睨みつけてる事が何度かあった
ちょっと怖いとこもあるな位で、あまり気にしなかった
今年に入ってから、ちらほらジャブさんが店に通う様になった
わたし自身、店も営業しているが別件で忙しくなり、店を臨時休業する機会がおおかった
営業日より休業日が増える中、稀に営業してる時は、必ずジャブさんが訪れた
それがなんとなくうれしかった
もう一人の七人の侍の番頭さんが来て、2人で下ネタで盛り上がっていたらジャブさんが来た
ジャブさんと番頭さんは面識があり、七人の侍の中では、珍しく馬が合っていた
基本、七人の侍同士は、同族嫌悪では無いがあまり馬が合わなかった
かなりふざけた会話をしてたら、ジャブさんもノリだし3人で下ネタ大会になった
この際だからふざけようと思い
わたしはジャブさんにジャブを入れ始めた
反応はすこぶる良かった
ジャブさんはおもむろに立ちあがり、両手で乳首を摘み
「ダブル乳首ー!!」と絶叫した
これは、素晴らしいと思い
3人でダブル乳首をしながら楽しんだ
「はるちゃん、必ずサクセスできるよ」
わたしは、返す刀でこう言った
「ジャブさん、今からセックス?」
「ナイスカウンター」と言い残しジャブさんは笑顔で帰っていた
会話には、リズムがありリズムがある会話が好きである
リズムの無い会話や一方通行な会話も嫌いではないが、毎回そうだと嫌になる
ジャブさんとは会話のリズムが合うのだと思う
ダブル乳首以来、何かの枷がとれたのかジャブさんとの距離感が和らいだ
アウトボクシングからのインファイトと華麗にお互いに牽制しあった
うまくコンビネーションが決まると膝をついてダウンしましたとお互いに笑った
営業日には必ず店に顔を出すようになった
酔いだすと、自らダブル乳首をする様になった
そこからは、ひたすらに下ネタになった
ざっくばらんな関係になろうと本人の素性には、一切触れなかった
こういう関係性も悪くなく、会話をボクシングに見立てるコミュニケーションが面白いと感じていた
ジャブさんも本当に良い笑顔をする一人だ
ジャブさんは、良く自分の服を私にくれる
体系的にまったく違うので、サイズのでかめの服をくれる
サングラスや靴、時計と色々持って来てくれるが、高価な物は断っている
お弁当を買ってきてくれる事も多々ある
本当に良くしてくれる
「はるちゃん いつもいつもありがとう」そう必ず言って帰って行った
陽気な赤い自転車に乗ったジャブさんをしばらく見なくなった
わたしは、別件で忙しくなり、店を1ヶ月近く休んでいたのだ
久々に新世界に帰ってきたら店の前に、ジャブさんがいた
「はるちゃん 久しぶりー」となりそのまま2人で飲んでいた
かなり陽気な時間を過ごしていた
「はるちゃん ダブル乳首なシャブしながらすると超気持ちいいぞ」
「はるちゃん シャブセックス超気持ちいいぞ」
いきなりだった
催促したわけではないが、そこからジャブさんは自分の素姓を話し始めた
溜まりに溜まってたのか、全てを吐きだして行った
ジャブさんは、かなり裕福な育ちだったようだ
おばあちゃんがかなりの有力者であり、おやじさんはそれを武器におおいに建設関係で成功された
ジャブさんは、当初は地上げ屋だった。
ただこのまま行くと危険と感じて、不動産の営業の方にシフトしていった
そしてみるみる頭角を現して行き、若くして成功された
育ちも良く、実家のバックボーンも完璧、イケイケだった為そこに目を付ける上層部の人達がいた
この青年にしよう
この青年を完璧にサクセスさせようとネットワークビジネスのフィクサー達が動いたのである
当時ネットワークビジネスが盛り上がりを見せていたが一般の人達にはそこまで認知されておらず
また認知している人達からのネットワークビジネスの評価は、半信半疑だったらしい
ネットワークビジネスの顔が欲しいと考えていた上層部の方々が、全ての条件をクリアしている若いジャブさんに白羽の矢が立ったのだ
見えていない世界は恐いなと感じた
そこからジャブさんは、完璧なサクセスロードにはいった、何もせずにいても
会う人から、称賛された
会う人物もかなりの人物だった
本当かどうか不明だが、スティーヴィー・ワンダーに誕生日に目の前で歌ってもらったらしい
おおくの芸能人に会う機会に恵まれた
著名な人達、スポーツ選手、華やかな日々が始まった
まさにサクセスロードをひたすら進んで行った
「ジャブくんは何もしなくていいから」そうフィクサーに言われた
何もかも用意され全てがジャブさん中心に廻り出していた
権利収入により、どんどん財も膨れて行った
表の顔になる人物とは、選別された一握りの人達が色々な条件をクリアした上でフィクサーによって選ばられる。
ある時、若かりし時のジャブさんがネットワークビジネスのトップにあたる人にこう聞いた
「どうやったら成功できますか?」
そうしたら、その方がジャブさんの所へ歩み寄ってこう言った
「バカ野郎ー!! 努力だよー!!」おおきな声で怒られた
その後、満面の笑顔で続けた
「努力だよ 努力しかないんだよ」と優しく肩をたたいた
500人近い人達が集まり、壇上にジャブさんが呼ばれ称賛される
壇上目線から見る、500人の羨むジャブさんに対する目線は、まさにサクセスした者でしか味わえない極みだった
富と名声を若くして手に入れたジャブさんのサクセスは、そんなに長く続かなかった
大き過ぎる富と名声は災いを呼んだ
少しずつ快楽の方へ傾倒して行くのである
酒、博打、女、それ以上も求めてしまい
覚醒剤の世界に入って行った
ひたすらに快楽の世界に沈んで行った
毎日がシャブセックスだった
その時のダブル乳首が今でも忘れられないらしい
強迫症状が出始めて、誰かに追われてる気持になり、度々タクシーで他県に移動していた
この症状が出始めると、後戻り出来ないみたいだ
しらふでは、いられなくなり覚醒剤の回数が増えて行った
全てを捧げる世界だった
自ずと破滅の沼にどっぷりと沈んで行った
500人以上が集まる中、ジャブさんはいつも通りに壇上に呼ばれた
そして大きな声でこう言われた
「君ー!! シャブやってるね!! もう駄目だな!! 君は破門だ!!」
その目は、突き刺さるものだった
壇上から500人の方を見た時、完全に崩壊したとジャブさんは言った
瞼の裏にあの光景は焼きついてる
一点を睨みつける険しい表情のジャブさんがそこにいた
そのまま完全にネットワークビジネスの表の顔から破門され、そのまま病院に直行した
数年の病院でのリハビリ生活と、家族の支えにより何とか覚醒剤を断つ事に成功した。
一度大きく失敗してしまった人に、この国は厳しい
ジャブさんは、人生のほんの一時にベルトを手に入れ、ベルトを失った
ジャブさんだけの意思だったのか、失ってから20年以上が経過している
その20年は想像を絶する日々だったのではないか
かける言葉がその時、わたしには見つからなかった
ジャブさんは、それからもピカスペースに度々訪れる
少し自虐ネタ見たいな感じで、当時の事をネタにしだしている
わたしは、合いの手を打ちながら、ジャブをいれている
フットワークのキレも良くなったんじゃないか
そうわたしからは見える
ジャブさんに対して今だにかける言葉は見つからないが、うっすらだが重なる世界がある
赤い自転車に揺られながら衰退から発展へとジャブさんは20年流れていると思う
ジャブさんは必ずもう一度、自分の意思で青コーナーからリングに上がるだろう
そこにフィクサーはいない
その時のファイティングポーズを是非見てほしい

Written by Haruki Kumagai
イマジネーションピカスペースWEB https://pikaspace.tumblr.com/

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