孤独4

ぼくもね3歳で引退したんだ
ぼくもねだってアイドルだったんだよ
だってそうだろ

こんなの人がやることじゃねぇ
やってらんねぇ、やっていちゃいけない、ぼくは悟ったんだ、アイドルは人じゃない、アイドルという生き物だ、それになる覚悟、人を捨てる気がないなら、アイドルにはなれない

ぼくはわかっていた、誰もアイドルになんてなってはいけない、人を捨ててはいけない、

そしてアイドルという生き物に心を奪われてはいけない

アイドルには必ず矛盾があるだろう
その葛藤を美化してはいけないし、
それに感謝してはいけない

人としての自分は捨てなければいけないのに確固たる自分を持っていなきゃ務まらない仕事、アイドル、人に生まれたぼくらにできることじゃない

ぼくも3歳まではアイドルだったし、
6歳までは無敵だった

6歳の誕生日に気づいた
この世界にはぼくしかいない

誰もいないんだ
ぼくの声は誰にも届かないし、

みんな心を奪われている
ここには人はいないんだ

ここは無人島に等しい



そんなこんなな社会だけれども

全員医者全員看護師全員保育士全員介護士全員料理人全員大工全員教員全員ホームメイカー全員で切磋琢磨時代、
そんな凄まじい時代が来るのよ、もうすぐ
言い訳できない誰かのせいになんてできない暇のない時代が来るよ、

美容師とかデザイナーとかね、全員ではなく、それについてのセンスのある人が力を発揮する場面はこれからもあるであろうし、メスを握れるような医者、誰かを治療してあげられるような医者は全員ではないであろうが、

しかし、誰かに助けてもらわなければならないような病気や怪我を負うような場面は数えるほどでいいだろう、自分が自分で自分の頭を使って行動すれば限りなくゼロに近づけられるような事柄だよ、いまは西暦何年だと思ってるんだ

治せる人の治せる力を発達させるために
病気を発生させまくってみてた時代はもう終わろう

無謀な挑戦など必要ないほどにぼくらの技術は進んだ、これからはこれまでの人々の数々の愚行を糧に一人一人が自分のために自分の頭を使い自分にとっての賢さを獲得しながら確実に生きて、確実に死んでいこうではないか


いまは全員エンターテイナー時代
我らはファンタジージェネレーション
手に入れると消える虚構しか得られなかった暗黒の時代が終わる



娘を絶望させない
息子を孤独に追いやらない
母になるよ

君を孤独から連れ戻す一人になるよ

孤独は自由なんかじゃない
限りなく狭い
一人分のスペースしかない
身動きの取れない世界だ



生まれる前に戻って言ってやりたいことってあるじゃない?

過去に戻ってやり直したいことがない人っているのかな

だから私は

私の息子が生まれる前に言っておかなきゃいけないことがあると思うんだ

あなたの娘があなたを軽蔑しなくて済むように

子どもが大人に憧れられるように
子らが大人を見本にできるように
かっこいい大人にならなければならないんだ

憧れの対象とされる
見本になる先輩がいる
期待し合える人と人が生きる世界で生きたい




幼い頃のぼくにはね、
医者は医者という生き物と、
教師は教師という生き物としてしか見れていなくて、
病院で先生と向き合うときは患者という生き物に、
学校で先生と向き合うときには生徒という生き物に、
ぼくは完全になっていて、

その先生たちにもぼくと会っていない時には別の顔があること、
ぼくにだってぼくという人としての自分があることを、
ぼくは見失っていたように思う

求められた役目を演じ終わり家に帰るとぼくはいつもくたびれていた

ぼくはいい患者で、いい生徒であったかもしれない
求められている生き物にちゃんとなろうと努めていたから

だけどぼくは相当に不器用であった

いまぼくが勤めなければならない役目はこれなんだと、ぼくは自分に言い聞かせていた



先生という職務が仕事であるならば
患者や生徒が受け持つ役目も仕事であろうとぼくは考える
ぼくはずっと真面目に仕事をしていた
しかしこの仕事に給料はない

ぼくに与えられる役目、誰かが受け持たなければならない重要な仕事、でも、数字は与えられない、誰も数えてない職務だから、誰も知らない、この働きは目に見えないままどこかに搾取され、ここからは消えていく、誰かに消費されている



アイドルに対して、
ぼくらには決して見せてくれない顔があることを、わかっていながら
その事実で騒いだり、傷ついたり、暴こうとするような人々がなぜそれをせずにはいられないのか、

その理由は
その人々には役目が与えられていないからだ
名誉ある生き物を演じる夢が叶わなかった者たちに与えられる役目は
たかる無数の人々だったんだ、それが与えられた役目だったんだ



役目を演じなくていい時代が来てる
自分を魅せなきゃいけない時代が来てる

行きたいところにふらっと行きたい、ひとりのひかり暮らし、明日を恐れずに今日を生きたい、戦争と虫歯と宝くじのない世界を夢想してみる。