それぞれの地獄

私は吃音という障害を抱えている。

どんなものか説明は省くけど、簡潔に言えば、頭で思った事を話そうとした時、ランダムで最初の言葉が発せない。どもる。(気になったら調べてね)


小学生の時は、週一で言葉の学校に通って、発声練習をしたり、メンタルケアをして治そうとしたけど、一向に治らなくて。

学芸会とか人前で話す場だと余計に緊張しちゃって声が出ない。

小学1年生以来、学芸会では一言も言葉を発せなかったな。

母親がちゃんと先生に伝えてたから、無理に発言する場とかはなかったけど、周りの同級生は理解できない異質な存在に、遠回しにいじめたりしていたのだろう。

修学旅行の写真、私の顔だけズタズタに切られたりしてたな。(なんでケロッとしてたんだ私)


あ、そういえば。
小学生時代、私に執拗に嫌がらせしてた男の子に成人式の会場で奇しくも再会した。
「あの時はごめんな、好きの裏返しだったというかさ〜」
ってヘラヘラ話す目の前の人の顔は覚えていない。人って心から呆れると真っ白になる。
給食の配膳で私の分だけぐちゃぐちゃにしたり、消しカスとか雑巾投げてきたり、小さい事だけど、本当に悲しかったんだよ。




中学生になっても、新年度とか環境が変わる場だと特に悪化しちゃって、国語の音読の授業は私だけ飛ばしてもらったりしてた。

僕は〜、から始まる文章、「ぼ」がいえなくて、絶対に読めなかったな。

伝えたいことが頭に浮かんでいるのに、言葉が詰まって話せないもどかしさが悔しかった。


同時に本を沢山読むようになった。

「くるま」がいえなくても、「じどうしゃ」と言い換えればいいように、とにかくボキャブラリーを増やせばいいんだと学んだのだ。

あとは自分の気持ちを伝えるのに、文字を使うのも得意になった。

文章なら、焦らず詰まらずに思ったことが伝えられる。


本をめちゃめちゃ読んで、書く練習をしてた私は読書感想文で常に賞を取るようになった。


ちなみに自分の名前もつっかかりやすいから、自己紹介が嫌いだった。

名前、なんていうの?

って質問。恐怖。
他の質問なら、言葉につっかかっても、「なんだっけ〜、えっと、」とかワンクッション置くことで、そのまま勢いで発せる事があるけれど、名前を忘れたフリはできない。

会話の途中で、本当は分かってるのに、分からないふりをして相手にヒントを伝えて、言えない言葉を当ててもらったり、えっとね…って言葉が出てくるまで時間をかけたり、そういうのしんどかったな。

友達の名前がふと言えなくなって、「さっきまでここに居たさあ〜、」って名前覚えられない人になるのも、ごめん。本当はちゃんと覚えてたよ。


今も治ったわけじゃないけど、さすがにボキャブラリーも揃ってきて、大体は言い換えで何とかなる。

たまに変な言い回しするねって言われるけど
天然キャラでどうにかなる。

固有名詞で言い換えられない言葉は、忘れたフリ、分からないフリ。

誤魔化して生きるのが、上手くなった。


頭の中で色々と思ったことがあったとしても言わずに飲み込んでしまうのも、たぶん吃音で染み付いた悪い癖。これは治したいな。




誰もがそれぞれの地獄を背負っている。

プブリウス・ウェルギリウス・マロ



幼い私の世界は間違いなく地獄だったし、

でもそれが普通だった。そして今もその延長線にいる。


友達にカミングアウトは基本しない。

昔言ったことがあったけど、そのあとの会話で言葉に詰まったとき、大丈夫だよ、とか、気を使われるのが1番しんどい。

みんな私が吃音を持っているからといって、離れたりはしないだろうけど、かわいそう、と思われたくない。

これが私の普通だから。


吃音があって良かった、なんて言えるほど受け入れては無いし、なければ良かった、とずっと思うけれど。


みんな何かしら地獄を持っているのだろう。


それがどんなにしんどいかは私には分からないけど。


あの人もあの人なりの地獄を背負っているかもしれない、そう思うと少しだけ人に優しくなれる気がする、
そんな話。


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