📓私を満たしてくれるひと

「かぶりものおにいさん」

彼は寝言で、しかしはっきりとした口調でそう言った。

「かぶりものおにいさん？」
「うん……かぶりものおにいさん……」

直前まで話していた内容に少しだけ沿っていたので、なぜ彼がそんな寝言を言ったのかの想像はついた。
私の拙い話について一生懸命考えてくれた結果だと思ったら嬉しくなって、しばらく寝言と会話した。

「相性」というのはだいたい「無言」あるいはそれに近い状態のときにこそわかるものだと思う。
多くを語らなくても、だいたいなんとなくわかってしまうような感じ。

これは恋愛に限らずのことで、示し合わせたかのように同時に同じ食材にハマっていたりとかするともうただひたすらにラブが止まらなくなるし、それがまた同じタイミングで飽きたりするともう「運命とはこういうことである」とか思う。

逆もあって、たとえば、どれだけ説明しても、どんなふうに説明してもまーったくわかってもらえないとき。
こういう場合、わかってもらおうとか考えたり工夫したりする労力が無駄なことが多いので、早めに撤退するのが吉だと思っている。
「理解しあえるかどうか」というより、「理解しようとしてるか」という態度がみえない人っているよね。

それから、相手が「言わなくてもわかるでしょ」という感じの態度のときもそう。
「私はお前のママじゃねえよ」って思いながら「私はあなたのママではないのできちんとわかるように言ってもらわないとわかりません」って言う。
言わないときもあるけど。

先日、知人から「これ読み込めばわかるから」って言われて渡された資料の合計が５万字くらいあって、ていねいにブチ切れた。
ファイルも複数あって、どれとどれがペアになってるものかとか、どのファイルが一番大事なものかとかもこちらで探さなければならない状況だったので、非常に面倒くさかった。
そもそも「読み込まなきゃならない資料」ってなんだそれっていう感じ。
仕事できない人の仕事の仕方っていう感じだな、って思ったら、急にすんとさめちゃった。

世の中の不具合はだいたいコミュニケーション不足にあるんだけど、とはいえ「無言」あるいはそれに近い状態が心地よい場合っていうのがあって、そのときの気持ち良さといったら、それ以上のものはないんじゃないかと思うくらい気持ちが良い。

かぶりものおにいさんの夢を見たり、わさびについて語り合ったり。
私はこれからもこういうものを拾って生きていくんだと思う。