保持力トレーニングについて

前回の記事「保持力について」の続きとして保持トレについて書きます。


「保持力」の定義と「押さえる力」との区別

まずは前回記事の最後に定義した内容の確認。

「保持力」とは、肘より先の身体能力で、各保持形(クリンプ/ポケット/ピンチ/スローパー)時の指〜手首の関節固定力及び筋腱靭帯組織の耐久力。
「保持力」と「ムーヴ」は相互に補完し合うものである。

次に「押さえる力」のここでの定義です。

「押さえる力」とは、主に体幹部の力を利用して姿勢コントロールすることによって加重のベクトルをずらすなどしてホールドを押さえ込むこと。

詳しくは別記事にて記載します。


保持トレ(フィジカルトレーニング)の前提


以下はトレーニングの一般的な原理(自然界における法則)・原則(多くの場合に当てはまる基本的な規則/法則)です。

要するに「原理」はトレーニングによって身体に起こる現象、「原則」はトレーニングの効果を出す為に守るべきとされるルールのことです。


過負荷の原理 → 筋力向上の為にはある程度の負荷を与えないといけない。(例:歩いているだけで走るのは早くならない)

特異性の原理 → トレーニングには種類があり、それぞれによって向上する能力が変わる。(例:マラソンの練習をしても100m走は早くならない)

可逆性の原理 → トレーニングを長時間中断すると能力値はトレーニング前のレベルに戻っていくこと。(ただし一度向上したレベルに再度戻す事は一度目よりはるかに容易になることが多い)


漸進性の原則 → 少しずつ負荷を高めて行く事で徐々に能力を上げる。(ポイントは「少しづつ、確実に」。いきなり負荷を上げると組織を痛める)

全面性の原則 → 特定の部位や特定のワークのみに偏らないようにすること。(偏ったトレーニングは結果的に身体全体のパフォーマンスを制限することに繋がる。)

意識性の原則 → 行っているトレーニングの意義を理解して取り組む事でトレーニング効果が増す事。(単純に消費カロリーを増やしたいなどの場合は構わないが、クライミングのような複雑な身体運動の為のトレーニングには必須)

個別性の原則 → 身体スペックには個人差がありそれぞれに最適なトレーニング内容は異なる。これを間違えると効率の良いトレーニングにはならない。

反復性の原則 → その他の原則を守り優れたトレーニングを行っても、ある程度継続しなければ効果は出ない。身体が変わるには時間がかかる。


上記の原理原則をふまえた上で続きをお読み下さい。


基本的なトレーニング方法

保持力のトレーニング方法としてもっともオーソドックスなのは「ぶら下がり」です。トレーニングしたいホールディングでとにかくぶら下がるのですが重要なのはホールディングとぶら下がりフォーム、負荷の大きさと量です。

この記事ではホールディングとぶら下がりフォーム(特異性の原理)について細かく説明します。


クリンプ/ハーフクリンプ/オープンハンドのホールディングについて

以下にそれぞれのホールディング時の指掌の形状と意識するポイントを確認しましょう。

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いわゆるカチ持ちと呼ばれるものです。(クリンプは英語での名称)

親指を人差し指から中指にかけて被せることで五本の指全てでホールドを押さえつける事が出来ます。細かいホールドに対して最も対応しやすいホールディングですが各関節の角度がキツいので構造的に(関節唇や腱鞘等)故障しやすいのがデメリットでしょうか。中級者まで(関節周りの組織がある程度育つまで)の間はホールディングフォームの練習は必要ですが、負荷を大きくするトレーニングは避けた方がよいでしょう。

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ちなみに親指は上から被せる以外にも人差し指の横面に押し当てて小指側と挟むパターンもあります。このパターンでは指の間の隙間を閉じる事をより強く意識することができます。これにより指一本一本がバラバラに働くのではなく纏まって一つの大きな固まりを作りやすくなります。基本的に指同士は近づけられる方が強い力が出せます。


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こちらは日本語名称は知りませんがハーフクリンプと呼びます。指の第二関節のみを曲げ他は伸ばします。基本的には親指を人差し指には当てません。特徴としてはフルクリンプに比べ各関節の角度が緩くなるので故障リスクはかなり下がります。また外頃したホールドに対しての対応力が大きい等メリットの多いホールディングです。ただしホールディングフォームに慣れていないうちはこの形状を維持したまま加重することが出来ないことも多いです(特に人差し指が伸びてしまう)。最初は体重をのせず反対の掌に当てるなどしてフォームを作ることに慣れてみましょう。


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こちらはオープンハンド。指の本数や組み合わせが色々あります。指の第一関節より先を引っ掛ける様な持ち方で特徴としては手首や前腕の筋肉を力ませる必要が無いので身体の動きに追従しやすいです。またクリンプでは指の関節周辺の故障が多いですが、こちらは指から肘にかけての腱/筋肉の故障リスクが高いです。

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小指は他の指よりも短いのでほとんどの場合第一関節より先のオープンの場合届かないと思われます。余った小指は掌側に巻き込み親指と押し合うようにすると力が込めやすくなり保持感が増します。(力が出しやすい分故障リスクは上がるとも言われますので注意です。)


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これは「鷲爪持ち」。指先を立ててホールドに押し当てています。クリンプに近いのですが指先の爪との境目周辺のみがホールドに接するので設置面積が小さく加重の圧力が集中するためとても痛いです。メリットとしてはフルクリンプよりも故障しにくい事とインカットホールド対して肘が上がっても保持し続けやすいと言った所でしょうか。


ぶら下がりのフォーム

前述のホールディングに関しては「ぶら下がり」のトレーニングが基本になります。まず先にぶら下がりの三つのパターンについて説明します。

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こちらが「保持力」単体を鍛えるのにおすすめのフォームです。基本的に指の設置面の真下に重心が位置するようにポジションします。肩甲骨のポジションについてはこちらの記事も参考にします。(写真のフォームは脱力強めのVerです。)二枚目画像矢印のように小指側から背中にかけての筋肉のつながりを意識します。具体的には小指側から少し絞り込むように腕は少し外旋させます。


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二つ目と三つ目のパターンは重心線に対して頭の位置を前後にずらした場合です。

二つ目は引きつける場合は必ずこのポジションになります。

三つ目はガストンのトレーニングの際に使用するポジションと捉えています。

それぞれ保持面に対しての加重は少なくなるので、これらのフォームは「保持力」単体のトレーニングではなくポジショニング/姿勢のトレーニングの際に使います。


トレーニングの対象となる能力

ここでは大まかに分けて「筋肥大」「筋動員率向上」「無酸素性代謝能力向上」「コンディショニング」に分ける。

それぞれの目的に合わせて負荷や量を調整するが長くなるのでここでは説明を省き、別記事「保持力トレーニングの具体的メニュー」にて詳しく説明することとします。










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