英語学習の宣伝文句「ネイティブ」について冷静に考える

英語学習のための情報を探しているとよく「ネイティブ」という言葉を目にします。

「ネイティブならみんな知ってる!英語フレーズ集」とか、
「ネイティブがあなたに本物の英語を指導します!」とか。

英語ネイティブとはすなわち英語を母語としている人のことですので、たしかに凄そうな感じがします。
ですが、「ネイティブ」の意味について冷静に考えた方がいいです。

冷静に論理的に考えればみな同じ結論に至ると思いますが、
このノートで言うことを最初にまとめてしまうと以下です。

  • 英会話の相手はネイティブだけか?
    「ネイティブならこう言う!」と聞いて学んだ言い方が、中国人とかイタリア人とかに通じる保証はあるか?

  • ネイティブに教わるのは有用か?
    日本語を勉強している人が「わたしは と わたしが の違いを教えてください」と質問してきたらあなたは的確に答えられるか?

  • ネイティブと言っても色んな国がある。
    例えばアメリカ英語とイギリス英語は違う部分もある。


英語はネイティブ以外の人も話している

非ネイティブにも伝わる話し方をすべき

地球の総人口に対して英語ネイティブの人達の割合はどのくらいでしょうか?
決してそんなに多くないはずです。

あなたがこれから出会う(あるいは今現在、日常的に接している)英語を話せる方たちは、英語ネイティブばかりでしょうか?

英語が母国語の人ばかりの国に住むなら話は別ですが、そうではなくネイティブ以外の人と英会話する機会がたくさんあるのであれば、ネイティブの表現が役立たない可能性は高くなります。

ネイティブが使うであろう表現として、例えば以下を挙げましょう。
Are you a dog person or a cat person?
(あなたは犬派?猫派?)

これを初めて知った時に「へーネイティブはこういうんだ!今度試しに使ってみよう!」と思うのは別によいと思いますが、
その試す相手がネイティブではない場合に、通じるか分かりません。

そういった表現よりも、中学の英文法を使いこなせている方がよほど便利で万能です。

中学英文法を使いこなせていれば
Which do you like dogs or cats?
と、より非ネイティブにも通じやすい言い換えができるはずです。

dog person という表現は相手が知らなかったらもうそこで終わりで、全然万能ではありません。

他にも前置詞の使い分けとかにも似たような事が言えます。
agree with と agree to の使い分けでググると
withが心の底からの賛成で、toの方が淡々としたイメージ
などと出てきますが、果たしてこの使い分けを非ネイティブの方々の全員が認識しているでしょうか。

また、英単語についても同じ事がいえて、あなたの話し相手があなたの知っている英単語を全部知っているとは限りません。
日本語でも難しい言葉があるように、ネイティブでも全部の単語を知ってる訳ではありません。

なので、会話してる時に
その単語はどういう意味?
みたいに聞き返される時もあると思います。

その時にもやはり、中学英文法などが使いこなせているほうがよほど役立つと思います。


ネイティブに近い発音が伝わりやすいとは限らない

twentieth (20番目) の発音、綴りをみると
トゥエンティース
みたいに思えそうです。

ところがこれはアメリカ英語だと
トゥエニエス
みたいに発音するそうです。

この話を聞いて「ネイティブがそう発音してるのだから、これに合わせて発音するべきだ!それ以外は全て間違いだ!」
みたいに考えるのは良くないかと思います。

日本人以外の非ネイティブも同じようにこれを
トゥエンティース
と考えてるかもしれません。
すなわち、
トゥエニエス
と発音している場合は、非ネイティブには伝わらないかもしれません。

「いや、それはネイティブの英語の発音を知らない奴が悪いだけだ!」
と考える方もいるかもしれません。
まぁ考え方は人それぞれなので自由な意見を持つべきとは思いますが、
コミュニケーションのために英語を使うことが一番の目的なのであって、
英語ネイティブに近づく事が目的になるのは違うのではないかなー
と個人的には思います。

また、別の視点ですが発音は結構な地域差があります。
アメリカ英語とイギリス英語では同じ単語でも発音や綴りが違うという話はよくありますし。
アメリカ国内でも地域によって方言的に結構違うみたいです。

そんな中で「これこそが唯一の正解だ!」みたいな考えを持つのは意味がないことかと思います。


ネイティブにとって簡単な表現 ≠ 非ネイティブにとって簡単な表現

ネイティブが日常的に使ってたり、簡単だと思う言い方が学習者にとって分かりやすいとは限りません。
ネイティブの感覚と学習者の感覚は違うのです。

例えば英語ネイティブに「なるべく優しい簡単な言い方で話してください」と言うと、
understand の代わりに
make A out が使われて、より分からなくなったりするというような話があるそうです。

日本語でも例えば小さい子相手には
「しっかり拭いてね」の代わりに
「ゴシゴシしてね」などとオノマトペを使って話したりしますが、
日本語学習者にとっては前者の方が分かりやすいそうで、
オノマトペは上級者になってから色々と学ぶそうです。


英語が上手いからと言って、教えることも上手いとは限らない

この文章を読んでいるあなたはおそらく日本語が上手でしょう。
ではあなたは日本語を教えることも上手でしょうか?

「わたしは」と「わたしが」の違いとか、
「いっぽん、にほん」の代わりに「いっぼん、にぽん」とはなぜ言えないのか
などなど、日本語を教えるための勉強をしていないと答えに戸惑ってしまう質問が沢山あります。

答えられないだけでなく間違った事を言ってしまう場合もあります。
実際に私が見た例を書きましょう。
HelloTalkという言語交換アプリ内でみかけた内容です。

そのアプリでは英語を学んでいる日本語ネイティブと、日本語を学んでいる英語ネイティブが交流出来ます。

そしてTwitterのような機能もあります。
そのTwitterみたいな機能内で日本語を学んでいる人が次の質問を書いてました。
「きれい と うつくしい の違いは何ですか?」

4件ほど返信がついており、最初の3件くらいは一様に
「同じです」「どちらも一緒」
という感じの日本語ネイティブ達からの返信でした。

私はその実際に2つの言葉を使っている場面を想像しました。
例えば夕焼けを見ている時とか、美人さんを頭に浮かべました。
そして、「まぁ一緒と言っていいくらい違いは無いんじゃね?」と考えました。
ところが4つ目の返信はこんな感じでした。

「きれいな部屋」「うつくしい部屋」で意味の違いが現れます。

たしかにー!!
と思いました。
最初の3件の返信は間違ったことを学習者に教えてしまったわけです。

そして似たような話の英語バージョンを聞いた事もあります。

ある人が英語ネイティブに
「look, see, watchの違いは何ですか?」
と聞いたところ
「同じだよ!」
と言ったそうです。

ですが例えば私(このノートを書いている人)はこの3つが同じではない事を知っていて違いを説明できます。
昨日映画をみた とか言う時に
I looked at a movie yesterday.
などとは普通は英訳しないことも知っています。

もちろんその英語ネイティブの人は日常的にはこの3つを無意識に使い分けているはずです。
ですがぱっと聞かれると間違えて答えてしまうのです。

他にも英語ネイティブには答えられない事があります。
ネイティブの人は英語を1から勉強した経験が無いので、どうやって英語を勉強したらよいかを答える事が出来ません。

私は英語を1から勉強したので
どのような勉強をすればよいか、そして
日本人がどういうところで躓きやすいか
などについて、自分の経験に基づいて話す事が出来ます。

英語ネイティブで日本語を出来る人は少ないでしょうから、こういった日本語の感覚をふまえた話というのはなかなか出来ないでしょう。

しかもこれらを全て日本語で説明できます。
英語初心者の方は英語で教わるよりも、日本語で教わった方が絶対に身になると思います。


ネイティブと言ってもいろいろ

一口に英語ネイティブとは言っても、色んな国があります。
アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど。

更に、英語が公用語の南アフリカ、インド、フィリピンなどと言った国々もあります。
こういったところで小さい頃から英語を聞いて話して生まれ育った子供達も英語ネイティブと呼べるかもしれません。

そして、ネイティブの使う英語が全ネイティブで共通している訳ではありません。

例えばアメリカ英語とイギリス英語では同じ単語でも綴りや発音が違ったりしますし、
「こういう場合にはどう言えば自然な言い方か?」も異なったりするようです。

iPhone の言語の設定でも、
・英語(アメリカ合衆国)
・英語(UK)
などと分かれていたりします。
他にも沢山あります。

iPhoneはアメリカで作られているので、ネイティブ自身も英語には複数の種類があると認めてることになります。

したがって、「ネイティブならこう言う」と覚えたものが実はアメリカでしか通じず、イギリス人相手には通じないと言うこともあるかもしれません。


「ネイティブ」が悪い訳ではない。単に目的や状況に応じて手段を選ぼうと言う話。

いろいろ書いてきて、最後にまぁ当たり前のことを言ってしまうのですが
目的に応じて使い分けよう
というだけの話です。

ネイティブの表現が有用な場面はあるでしょうし、
質問をする際にネイティブでなければ答えられないことは当然あるでしょう。
ですが、質問の内容によってはネイティブではなくとも単に英語に詳しい人であれば出来ることもあるでしょうし、
逆にネイティブでない方が良いという場合もあるでしょう。

「ネイティブ」という言葉を「最も優れた」みたいに考えてしまわないようにすればよいだけです。

「英語ネイティブ」とはただ単に「英語の母語話者」を意味しているに過ぎないのですから。

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