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  • クトゥルー神話 リレー小説「A Last New Year」

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    「哲学者の薔薇園」によく集まる仲間たちによるクトゥルー神話のリレー小説。邪神のご加護があらんことを。イアイア!

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クトゥルフ系短編「因果の霊糸」引用案件・簡易出展一覧

別途note上に掲載の短編小説「因果の霊糸」ネタ元リストです。 文字数カウント対象となる本編には含めず、一応、ここに独立させて置いておきます。 サイトは違いますが、内容自体には特に食い違い等はございませんので、下記リンクよりご覧ください。 https://kakuyomu.jp/users/osada/news/16818093078486388348

    • 因果の霊糸

      (8) 「亜樹、亜樹。来たわよ」  良く通る声が午後の日溜りに反響する。  何度目かの強めのノックのあとで、内側からぎぃ……と躊躇いがちに、扉が開かれた。 「そんなに激しく叩かなくても、聞こえてるよ」 「出て来るのが遅いのよ」  外の日差しに何年か振りで当たったように眩し気に眼を瞬かせる亜樹は、大学に通っていた頃に比べて少し窶れたようだった。髪の毛も随分とぼさぼさで、少し目が充血しているようだ。髭は薄いので細面はそれほどむさ苦しくなってはいないが、よれた黒いTシャ

      • 因果の霊糸

        (7)  さらにどれほどの時が流れたのか、もはや全く分からない。あくまでも体感の上でだが、一年や二年でないのは確かだ。  十年や二十年でもない。  千年、万年ですらないだろう――。  それだけの異常な年月を費やすならば、百パーセント不可能と言われる事柄も、あるいは可能となる――便宜上、成功率がゼロパーセントと断言して差し支えない事案でも、例えば小数点第一万位にして初めてゼロではない数字が現れるならば、厳密にはそこに確固たる可能性があるのだ。  目の前に、何ともあやふ

        • 因果の霊糸

          (6)  しばらくして、はっ、と亜樹は気付いた。 「一体……何が……!?」  目の前には――混沌の顎と化して自分を咀嚼した筈のものの姿があった。 「ど、どういうことだっ……! なぜ、僕は……!」 「さすがに気付くか――」  マイノグーラは微妙に姉の面影の残る、眼鏡を掛けた元の悪魔的な姿に戻っていた。その口から諦めたような、気怠げでやや投げやりな調子の言葉が漏れる。 「……何度も失敗して、振出しに戻ってるだけよ。前回の失敗は無かったことになった。亜樹の『本質』を過

        クトゥルフ系短編「因果の霊糸」引用案件・簡易出展一覧

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          因果の霊糸

          (5)  女妖魔の力で、彼等を丸く囲んだ透明の結界は亜樹の望む方向に進んだ。彼方にひと際強烈な光を放つ〈因果の霊糸〉の束が、もはや捩れた綱となって何本も入り込んでいる〈黒点〉が見えた。実際に入り込まないことには、ある〈黒点〉がいかなる存在に通じているのか、マイノグーラにも基本的には分からないようだが、ここまで強烈に〈因果の霊糸〉を集める〈黒点〉と言えば、あまねく狂信者どもの崇拝を恣とし、宇宙的にも極めて名の知れた邪神、大いなるクトゥルーの窖に違いないとのことだった。なれば自

          因果の霊糸

          因果の霊糸

          (4) 「姉さん……何で……どうやってここに……」 「何でじゃないわよ、何やってんのあんた、こんな地下にいたら生き埋めになっちゃうでしょ、早く逃げて! ……なんてね」  どこか様子がおかしい。言動と仕草が微妙に合っていない……口で言う割には全然急いでも慌ててもおらず、祖父と亜樹だけの秘密であった筈の地下室の入り口の扉の前に、ただ両腕を組んで突っ立っている。振動がさらに激しくなり、大量の書籍がぶちまけられ、『黒の教典』や『妖神乱舞』、『東洋藝術に於けるオッココク崇拝の手引

          因果の霊糸

          因果の霊糸

          (3)  蝋燭に照らされた四隅で香が炊かれ、その内側五か所に甲殻類の殻を砕いた細片、深皿に湛えた獣血、そして中央には三角形に近い特定の形状をした、薄桃色や白色のある種の布片が呪物として捧げられている。その周囲には既に紫めいた色合いの霧のような、淀みのようなものが渦巻き始めているのが見えた。  亜樹は白墨を練り込んだ塗料でコンクリの床に描いた魔法円に立ち〈ヴーアの印〉を結んだ。その左手を淀みの方向……呪物たる供物の配されたその上方へと掲げ、長々と唱え続けていた祝詞の締めにこ

          因果の霊糸

          因果の霊糸

          (2)  亜樹は――亜樹少年は、上階と同じくらいに広い地下室の四隅めいた天蓋付きのスペースに据えられた、柔らかな革張りのソファの一つに埋もれ、部屋の中央を眺めていた。  目眩く七色の光輝があった。祖父の詠唱と共に現れる、半人半妖半透明の魔人めいた姿があった。それらは決して室内に炊かれた奇妙な薫香や、ある種の薬物、あるいは神秘的行為に過剰傾倒することによるトランス状態が生み出す幻ばかりとは思えなかった。  それらが夢まぼろしだと思うこと自体が、無識者の愚かな妄想でしかない

          因果の霊糸

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          (1) 「亜樹、亜樹。来たわよ」  良く通る高い声が午後の日溜りに反響する。  声の主は年季の入った古びた褐色のオーク扉を拳でどんどんと叩いた。ノッカーは壊れて久しく、金具を受ける獅子の意匠の虚ろな瞳が空しく宙を見据えている。インターホンの類はない。  二十代後半から三十代前半か、すらりとした紺色のパンツスーツを着こなして、胸元には赤色のルビーが瞬くループタイを留めた、フリル付きの白地シャツが覗いている。控え目にアイシャドウを施した二重瞼の双眼に、真鍮めいた色合いの細

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          創作料理

          ■ブタとボケナスの味噌炒め(231002) 側道沿いに木瓜の実が大量になっている。 最初は青い(緑)が、熟れてくると黄色くなってくる。黄色くなったものを食べてもレモン並みに酸っぱい。ただし食感や風味はリンゴに似ている。より熟れてくると、赤味がついても来るのだが、若干は酸味が引いて、舌で殆ど感じ取れないレベルの甘みが増しているのかも知れないが、酸っぱい方が依然としてダントツに勝っている。 酢豚ではないのだが、この酸味と肉が合うような気がした。 そこで豚肉とあえてみることにし

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