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80年代、90年代の名曲と共に見る夢 韓国ミュージカル「光化門恋歌」あらすじ、感想※ネタバレあり


韓国ミュージカルレビュー2本目は、"광화문연가"(光化門恋歌)"

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▽わたしのお目当て、ギュウォルハ

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登場人物&キャスト

ミョンウ
過ぎ去った恋を歌う作曲家
人生の最後の瞬間、ウォルハと共にする時間旅行のなかで
若かりし頃を思い出す

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ウォルハ
"縁"を司る未知の存在
人生のの残り60秒のミョンウの思い出を案内する

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スア 
ミョンウの初恋
過去のミョンウとの思い出を忘れ
今は平凡に暮らしている

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シヨン
ミョンウのそば、一途な妻
落ち着きのない後輩だったが時が流れるにつれ
ミョンウを配慮し、理解する

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過去のミョンウ
青く、純粋だった若いころのミョンウ
まだまだ考えも整理できておらず、照れ屋だった

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過去のスア
しっかりしていて明るい、ミョンウの初恋
不条理を我慢できず、愛よりも現実への問題意識を選択する

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ジュンゴン
学究的で、冷静な理性を持ったスアの大学の先輩
年を取るにつれだんだんと現実的になる

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"彼ら"
時間旅行を手伝う未知の存在たち
ウォルハと共に思い出を見せ、ショーも歌も披露する

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アンサンブル

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スウィング
(ミュージカル出演者の誰かがけがなど何らかの理由で
出演できなくなった場合に代理で出演する。
アンサンブルから主役まで、どの役でも出演できるよう
全てのキャストの動きを把握している)(調べた)

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ストーリー(ネタバレあり)

作曲家、イ・ミョンウは死ぬ1分前である。緊急医療室に運ばれ、最後の心肺蘇生を受けている。そんな彼(彼の魂、意識ともいえるかもしれない)は、"記憶の空き家"を訪れていた。そこには、"縁"をつかさどる、謎の人物、ウォルハが彼を待っていた。

「美しい思い出は、美しいままに。絡まってしまった記憶は、ほどいてあげよう」

そうして舞台に現れる大きな5つの額縁。ここに一枚ずつ記憶の絵を飾って、絡まってしまった記憶をほどいていくのだとウォルハは説明する。中央の額縁に写るのは、ポニーテールの女性の後ろ姿。ウォルハはこれがお前の大事な初恋か、と茶化す。

舞台に現れる過去の記憶は、今のミョンウが"考えて"いる場面たちである。初恋の話に触れられ、絡まってしまった記憶なんてどうでもいいとウォルハを拒絶するミョンウだったが、目の前には30年前の自分が現れる。

徳寿宮でスケッチをしている高校2年生のミョンウは、そこで1つ上のスアと初めて出会うことになる。純粋で、人見知りで、少しヘタレ気味な過去のミョンウに対して、サバサバとしてはっきりした性格のスア。これがミョンウの初恋であった。

スアが先に大学に進学し、ミョンウが高校3年生のとき。クリスマスのデートで訪れたスケートリンクに、軍隊と大学生のデモ隊がなだれ込んでくる。軍隊は、その場にいる大学生と思しき人物を容赦なく殴打し、連行していく。そして、スアもその標的となってしまう。ミョンウは恐怖のあまり、一人逃げて(隠れて)しまうのであった。

スアが出所する日、ミョンウが迎えに来ていた。留置所の中で出会った、学生デモ隊の先輩の影響を受けたスアを、ミョンウは内心快く思わないまま、明日入隊することを伝える。

「世の中のことは大人が何とかしてくれる」というミョンウと、同世代が殴られ、連行され、拷問を受ける姿を見て自分だけ何もしないなんてできないと、学生運動に身を投じるスア。ミョンウの入隊以降、2人はすれ違い、別れてしまう。

兵役休暇中、マッコリ通りでスアに会うものの、最後は拒まれてしまい、酒を浴びるほど飲んだミョンウ。ふらふらのところを、後輩、シヨンに声を掛けられ一緒にクラブへと繰り出す。

シヨンと付き合うことになったミョンウだが、スアのことがなかなか忘れられずにいた。それは、彼の作る曲たちにあまりにもよく表れていた。そんなミョンウの姿や曲に、「今一緒にいる自分は何なのか」と泣いて怒るシヨン。そんなシヨンに対して、ミョンウは「ごめんね」としか言えないのであった。

その後ミョンウとシヨン、スアと学生デモ隊の先輩、ジュンゴンがそれぞれ結婚する。

時が流れ2002年ワールドカップ。観戦客が盛り上がる地下鉄の中、あの頃より大人になったミョンウとスアが再会する。「曲、聴いてるよ」というスアの言葉以外、特に会話は続かず、次の駅で降りていくスアの後ろ姿を見守った。

ミョンウにとってスアとの思い出の場所、光化門。ミョンウはここでも、夫と訪れていたスアと再会する。久しぶりに会えてよかった、と握手を求めるスアの手を、ミョンウは何も言えぬまま握り返す。

一つ一つ、ウォルハと共に記憶を思い出し、整理していくミョンウ。自身の最も大切な思い出は初恋のスアに違いないと確信していたミョンウは、絡まってしまった記憶に気づく。

「違う、会ってない。」

「別れてからずいぶんと時間が経ったあとに、光化門で会ったのが、それ以来最初で最後だった。」

「休暇中にスアに会いに学校まで行ったけど、どれだけ待っても彼女には会えなかった、マッコリ通りにも行っていない」

「地下鉄の中も、そのとき空いていて…向かいにスアがいればいいのにと、ふと思っただけだ」

美しい初恋の思い出を曲に書いているうちに、実際の記憶と幻想が絡まってしまっていたことに気づくミョンウ。

そんなミョンウが次に思い出すのは、漢江大橋での、妻、シヨンとの時間だった。

「あなた、死んだら歌の歌詞のように、星になるの?」「星になって、あの初恋の人と暮らせばいいわ」というシヨンに、自分が死んだら、さっさと再婚したらいい、と言うミョンウ。

「でも、君がほかの男と暮らすのを見るのは嫌だから、星になっても、そのときは一人で曲を書くよ」ミョンウの書く曲のなかの女性が自分ではないことをずっと傷として抱えていたシヨンは、涙を流す。そんな彼女の手を、「ごめんね」と握るミョンウ。

視点が変わり、ベンチに座っているその日のシヨンの後ろ姿が現れる。ウォルハは、「どこかで見た光景だね」とミョンウに笑いかける。最初に"記憶の空き家"の中心に飾られたポニーテールの女性の後ろ姿、それはシヨンだった。

「美しい思い出は、美しいままに。お前の本当の"縁"は彼女だったんだ」というウォルハ。ミョンウもまた、自身が本当に愛していたのは、ずっと隣にいてくれた、妻のシヨンであることを思い出す。

ウォルハの導きにより、美しい思い出と大切な現在を整理したミョンウ。病院のベッドに横たわる自身の肉体と、そこに寄り添うシヨンの姿を最後に見届け、この世を去る。


一部曲紹介

ミュージカル「光化門恋歌」はジュークボックスミュージカル(大衆によく知られている音楽で構成されたミュージカル)である。劇中で使用されている曲の一部を紹介しようと思う。本当に歌詞がいい。

깊은 밤을 날아서(深い夜に飛ぶ)

우리들 만나고 헤어지는 모든일들이
어쩌면 어린애들 놀이 같아
슬픈 동화속에 구름타고 멀리 날으는
작은 요정들의 슬픈 이야기 처럼
그러나 우리들 날지도 못하고 울지만
사랑은 아름다운 꿈결처럼 고운 그대 손을 잡고
밤하늘을 날아서 궁전으로 갈수도있어

出会い 別れるすべての出来事が
子供たちの遊びよう思える
悲しい童話の中 雲に乗って遠くに飛んで行く
小さな妖精たちの悲しい物語のように
それでも私達は飛べもせずにいるけれど
愛は美しい夢のように きれいなあなたの手を握って
夜空を飛んでお城にだって行けるさ



옛사랑(過ぎた恋)

흰눈 나리면 들판에 서성이다
옛사랑 생각에 그길 찾아가지
광화문거리 흰눈에 덮여가고
하얀눈 하늘높이 자꾸 올라가네
이제 그리운 것은 그리운대로
내맘에 둘거야
그대 생각이 나면 생각난대로
내버려 두듯이

白い雪が地面を降り
過ぎた恋を思い出して その道を辿る
光化門通り 白い雪に覆われてゆき
白い雪は限りなく空高く舞う
もう 恋しいものは恋しいままに
僕の心に仕舞っておこう
あなたのことが思い出されれば
そのまま放っておくように



 햇살속  여행(あの日差しの中、遠い旅)

우리가 만난 지난 모든날은 이제 사라지고
햇살속에 아무 표정 없는 저 햇살속에
우리 얘기 슬픈 얘기 남아 있어요.
지나가듯 빰을 스쳐가는 바람에 묻혀
잃어버린 얘긴 남아 있어요

僕らが出会った過ぎ去った日々は消えて
あの無表情な日差しの中に
僕らの悲しい物語が残っている
通り過ぎるように頬を撫でる風に埋もれて
失くしてしまった物語が残っている



"붉은 노을(紅い夕焼け)"

붉게 물든 노을 바라보면 슬픈 그대 얼굴 생각이나
고개 숙이네 눈물 흘러 아무 말 할 수가 없지만
난 너를 사랑해 이 세상은 너 뿐이야 소리쳐 부르지만
저 대답 없는 노을만 붉게 타는데
그 세월 속에 잊어야할 기억들이 다시 생각나면
눈감아요 소리 없이 그 이름 불러요
아름다웠던 그대모습 다시 볼 수 없는 것 알아요
후회 없어 저 타는 노을 붉은 노을처럼

紅く染まった夕焼けを見つめながら 悲しいあなたの顔を思い出す
俯いて涙が溢れ 何も言うことができないけれど
君を愛している この世界には君だけなんだ 声を上げて叫ぶけれど
あの何も答えない夕焼けだけが紅く燃える
あの時の流れの中で忘れるべき記憶たちがまた浮かんで来たら
目を閉じるんだ 音もなくその名前を呼ぶ
美しかったあなたの姿 もう二度と見ることはできない
後悔はない あの燃える紅い夕焼けのように


補足情報

ミュージカル「光化門恋歌」は、80~90年代の韓国のPOPバラードを開拓した、故イ・ヨンフン作曲家の曲で構成された作品である。歌手イ・ムンセの代表曲でもある、"옛사랑(過ぎた恋)"、"사랑이 지나가면(愛が終われば)"、"소녀(少女)"、"깊은 밤을 날아서(深い夜に飛ぶ)"、"붉은 노을(紅い夕焼け)"、"광화문연가(光化門恋歌)"、"기억이란 사랑보다(記憶とは愛よりも)"なども、故イ・ヨンフン作曲家によるものである。

歌手IUにより"옛사랑(過ぎた恋)"、"사랑이 지나가면(愛が終われば)"がリメイクされていおり、10代、20代のなかでも聴いたことがある人もいるかもしれない。(それももう四捨五入したら10年前と気づいて死んだ)(デカbangのカバーも有名らしいが最低最悪の犯罪者がいるので言及は避ける)

▽옛사랑(過ぎた恋)


▽"사랑이 지나가면(愛が終われば)"


実は、ミュージカル「光化門恋歌」自体は2011年が初公演であったが、2017年からはCJ E&M ミュージカルにより制作されており、タイトルと故イ・ヨンフン作曲家の曲で構成されている点以外、内容などは全く異なる。

TMIだが、2017年までの副題は '그 시절 우리가 새겨진 이곳'(あの時代、私達が刻まれたこの場所)だったのが、2021年、コロナ禍の今回の公演では '다 함께 부르는 그날까지'(皆で一緒に歌うその日まで)に変わっている。


雑記

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キム・ソンギュウォルハの回を2回観に行った。

わたしの初恋、わたしの青春キム・ソンギュ。
しっかりとした骨格と、バンド向きの歌声。
目が細く、どこを見てるのかよく分からないため
方向さえこっちを向いていれば目が合っていると解釈できるので最高。

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ちなみにこの歌詞シール("붉은 노을(紅い夕焼け)")かなり気に入っている。可愛い。(写真は公式インスタより)

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独り言

「レッドブック」、「女神さまが見ている」「光化門恋歌」の3本を見たわけだが、そもそも先の2作品と「光化門恋歌」はジャンルが違う気がする。

先の2作品はストーリーがあって、曲があるというイメージ。そして演劇の要素が強い。一方で、「光化門恋歌」は歌が先にあって、それを淡いストーリーで繋いでいるという印象だ。

そのため、ミュージカル初心者のわたしからすると2回見ても、確信を持てない部分が残る。特に、演劇要素の強い「レッドブック」は話が分かりやすいので、2回も見ればあれだけのボリュームでストーリーを思い出して書くことができるが、「光化門恋歌」はそれが難しい。舞台の演出も相まって、芸術的な雰囲気が色濃い。

コ・ソンウン作家は、ミュージカル「光化門恋歌」を"現在を悲観せず、よく見よう"という意図で書いたという。「過去と未来を偽物だとまでは言えませんが、本物ではない、現実ではないということは確かです。恋しいものは、恋しいままに置いておけばいいのです。恋しいものを今すぐに自分の隣に括り付けようと必死になる必要はありません。」とパンフレット中で語っている。

死ぬ1分前まで、どうしようもない過去、美しい思い出を抱いたままのミョンウ。最終的には、自身の本物の"縁"(記憶)を手繰り寄せるものの、その隣でシヨンがずっと抱えていた傷を思うと切ない。公式でも、シヨンの紹介を"最終的にはミョンウを受け入れ、理解する"とある。実際、学生時代にも、最後の漢江大橋でも、「イ・ミョンウ!あんたの好きにしなさい!」と叫ぶ。シヨンにとっても"本当の縁"だったからこそ、ミョンウの隣を守っていられたのだろうが…。(わたしは耐えられん)

愛や信念、当時は確信をもって生きていたものたちですら、人生が進むにつれ、揺らぎ、変質することがある。そのすべてをひっくるめて人生であり、コ・ソンウン作家や、ウォルハの言うように、"美しい思い出は美しいまま"に置いておきながら、現在を受け入れて生きることこそが大事であると…そう考えると、ミョンウは最後は少しは後悔しただろうか。いや、しろ。そうじゃないとシヨンが浮かばれない。

わたし自身はこの世に登場して25年目で、自分が愛した人を恋しがったり、信念が大きく変質するというのもまだ経験していない。そういうふうに振り返るような過去も大してないというのもあり、体感としてはあまりピンと来ていないというのが正直なところである。

なので、観劇してパッと浮かぶイメージは、"幼いころに聞いた、大人のよく分からない人生の話し"だ。「大きくなればきっと分かるよ」とだけ言われて、いまいち実感の伴わない、「そんなことあるのかなあ」と漠然と思いながら聞いていた大人の話し、あの感覚を思い出す。それをもう少しロマンチックに表現すると、"夢を(覗き)見ているような感覚"であろう。

一瞬、すべてのキャストがミョンウのためにだけ存在していて少し不憫になったりしたが、当たり前の話しである。だってこれは、ミョンウの死ぬ60秒前に見ている夢、意識の中なのだから。

作品自体の持つメッセージを実感的に受け取ることはできないが、不思議と幼いころを思い出す。そして、そんな不思議な夢を、何度も見たいと願うのである。映画や展示会でも感じたことのない、中毒性のある不思議なノスタルジーだ。

観劇しているあいだも、そしての時間を思い出す今も、夢の中にいるような感じがする、ミュージカル「光化門恋歌」、それは、幽体離脱をして見ているような夢。風景や出来事を静かに目撃する夢。故イ・ヨンフン作曲家の歌と共に見る、美しい夢である。


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