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禍話リライト 「たまり水とふくみ水」

※こちらは別アカウントにて公開していたものの再掲となります。

うーん。
やっぱり情念の話になるんでしょうかね。これも。
 
まぁ、どういう事かって言うとですね。
例えば、人を破滅させる感じの人とか。
貢がせるだけ貢がせて、全く罪悪感無いような人とか。
そういう人って身の回りに一定数いるよねって、そんな話をしていた時に聞いたものなんですけど。

話をしてくれた方、Oさんの幼馴染もいわゆる「魔性の男」だったらしくて。
恋人を作っては別れて、次の恋に行く。
そんな彼の行動を見る度に、
Oさんはこいつには本当に罪悪感なんてものが無いんだなぁって、
変に感心したのと同時に、
彼に恋愛感情を抱いていなくて良かったと安堵もしていたようです。

それで、Oさん達は高校は別々の所に行っていたんですけど、
偶然大学で再会して、共通の友人も何人か出来たりとかして、
まあそれなりに楽しくやっていたそうなんですね。

ある時、その友人から、
「彼が体調崩してるらしいから、ちょっくら元気づけてやろうぜ」と。
そんな感じの連絡が来たそうなんです。

あいつが体調崩すなんて珍しいなと思いながらもOさんは二つ返事で了承して、
男女数人と一緒に、適当に度数が弱めの酒とか、おつまみとか。
まぁこれくらいのものならあいつも口に出来そうだよな、っていうものを買って、幼馴染の家に向かいました。

Oさん達を出迎えた彼はやつれた雰囲気もなく、顔色もいたって普通で。
ただ、彼が言うには「1か月、2か月くらい前から微熱が続いている」らしく。

「一応病院で検査もしてもらんだけどさ、異常は見つからなくて。
逆に先生からは気持ちの問題なんじゃないですか、
心療内科に行かれてみてはどうですか、なんて言われちゃってさぁ」

罪悪感すら抱かない彼に、そんな事あるのか?と。
これまでのいろんな出来事を思い返しながらOさんが考えているのを尻目に、
友人の一人が、まあそんな事良いからとりあえず飲もうって袋から酒を出し始めて、そうして『元気づける会』は始まりました。

そしたら、彼本当に体調が悪いのかってくらい飲むので、
じゃあお前もう大丈夫だなって感じで、
結構遅い時間まで盛り上がっちゃったそうで。

で、2時とか3時あたりになって、
もう遅いし幼馴染の部屋が広かったっていうのもあって、
雑魚寝して朝までいよっかって話になったんですって。

Oさんが目が覚めた時、時間はだいたい4時前だった、といいます。
飲み過ぎたのもあって、トイレに行きたくなってしまった彼女は、皆を起こさないようにそっと部屋を出て。

それで、用を足して手を洗おうと洗面所に向かった時、あれっと思ったそうなんですね。
というのも。

洗面所に、栓がしてあって。
そこに、3分の2くらい、水が溜まっていたっていうんですよ。
まぁそれだけだったら、あぁ水が溜まってるな、で済むんですけど。

どす黒く濁っていたそうなんですね。水が。
例えるなら、そう。


金魚がいなくなった後もそのままずぅっと放置してたらどんどんきたなくなっちゃった金魚鉢のなかみ。


みたいな。


だからOさん、すごくびっくりしちゃって。
誰かが気持ち悪くなって吐いちゃったのかなとか思ったらしいんですけどそういう感じでも無くて。
じとりとした気持ち悪さを感じながら、でも流石にそのままにするのもなんだかいけないような気がしたので、栓を抜いて、黒い水を全部流したんだそうです。

ごぼごぼごぼ、ごぼごぼ、と音を立てて消えていったそれを見届けつつ、
何だったんだろうあれとか、色々思いながら部屋に戻ると。
幼馴染が起きてたようで、体を起こしてこちらを見ていたそうです。

「なに、どうしたの」
「いや、なんか水が溜まってたんだよね。だ、誰か、なんか、したのかな、いや分かんないんだけどさ」
「うーん、俺は知らないなぁ」

そう彼が言うので、
あぁそうなんだって、なぜか当時のOさんは納得して。
まだ気持ち悪さが残る中、また横になったそうです。

そうして酒も入っているのもあって、
とろとろとしたここちで眠りこんでいると。
こつん、と。
背中に何かが当たっている感覚がしたっていうんです。
それはまるで、立っているひとのつま先が当たっているかのような感じで。
Oさんはあぁさっきの私みたいに、トイレに行きたくなったのかなぁ、
誰が私の後ろで寝てたっけなって、半分眠りながら思ってたそうなんですけど。

そのひと、ずっとそこから動かないてくれなかったそうです。
だからずっと背中につま先が当たったままなんですね。

だんだんOさんはいらいらしてきてしまって、
気持ち悪いな、もう行けばいいのに何を遠慮してるんだって、
起き上がってその人を見たら。


全然知らない女性が立ってて。


ここにいるメンバーじゃない、
大学の友達でもない人が、
自分のそばに立ってて。

しかもよく見たら口が膨らんでるんですよ。そのひと。
Oさんはその時冗談めかして、彼女の事をふぐみたいなって言ってたんですけど。

今にもそのなかみがこぼれ落ちそうなくらいに、
口にいっぱい何かを限界まで含んで、
時折うっ、うってえずきながら、女性が立ってて。

もうOさんはパニックになっちゃって、何も出来ずに彼女を見つめていると、後ろから別の人の気配を感じたそうです。
なのでばって振り向いたら、あの幼馴染がまたまっくらな部屋の中で体を起こしていて。


「俺は円満に別れたと思ったんだけどなぁ」


そこで意識がふっと途切れる――とかだったら、
ある意味良かったんですけど。
Oさん、気絶出来なかったらしくて。

そのまま、今起こってる出来事から目をそらすように横になった後も、
少なくとも30分は背中のところに感触があったって、
ずっと立ってたらしいんですけど。
あるタイミングですうって引いたらしくて、恐る恐る背中の方を見たら、
もうその女性はいなくなっていたそうです。

良かった、と緊張でばきばきにこわばった体をゆっくり動かしながらあの幼馴染の方を見ると、静かに寝息を立てていて。
気が気でなくなって、
もう寝る寝ないの問題ではなくなってきてしまったOさんは、
外が明るくなるまでそのまま横になっていたそうです。
 
7時、8時あたりになると皆ぞろぞろと起き始めて、
問題の幼馴染も体を起こし始めたので、
速攻で捕まえてちょっとちょっと何昨日のあれ、って聞いたら、ただ一言。

「全く記憶にない」と。
ただ、それだけ言われたそうです。

まぁその後何事もなく会はお開きになったんですけど、
その時の体験がトラウマみたいな感じになっちゃったので、もう雑魚寝が出来なくなったし、
フェリーとかも多分乗れないですねって感じで、
Oさんはちょっと笑って。

そして最後、
あの口を目いっぱいに膨らませた「彼女」について、
どうお考えなんですか、と私が聞くと。

その幼馴染の、恋愛関係の話で。
人が死んだとか、そういう話は、
Oさんは聞いてないそうなんですけど。

例えば、死んでやる、みたいな感じで。
ちょっと極限状態まで行っちゃった人は、過去にいるんじゃないのかなって。
その思いが、あの時に出てきちゃったんじゃないかって。


確証はないけどなんとなく、そう思っているんです。


そう言ってOさんは話を締めくくりました。


この文章は、青空怪談ツイキャス『禍話』中で話されていた話を軸として、自分なりの解釈、加筆編集を加えたものです。
また、当リライトの題名については禍話wikiに記載されていた題名を使用させていただいております。

【禍話アンリミテッド 第一夜】
(2023/01/07放送 25:45辺りから)

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