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禍話リライト 「届く女の写真」

※こちらは別アカウントにて公開していたものの再掲となります。

人の気持ちが分からないから起こった出来事って。
大抵ろくな方向に行きませんよね。
それをさらに拗らせちゃったら、
もう、そりゃあとんでもない事になるんですよ。


その話をしてくれた方、Sさんって言うんですけど。
ある時、Sさんが大学のサークルのメンバー5、6人と、酒を飲んでいる時。
酔った勢いで肝試しに行こうって話になったそうです。

で、どこ行くどこ行くってなった結果決まった所が。
まぁ、とある民家、なんですよ。なんですけど。

そこで亡くなった方がいるっていう噂があった家なんです。

いや、家の中で亡くなった訳でも無いし、
そこに住んでる方が何らかの理由で
亡くなったとかっていうんじゃなくて。

全然その家とは関係ない男性が不法侵入して、
敷地内の物置だか納屋だかで、
手首切って死んでるっていうんですよ。
で、彼の傍には遺書があって。

自分の身にこのような不幸があって
もう嫌でいやでたまらなくなりました
色々さまよって、ここにしました

みたいな事が書かれてたらしいんですよね。
そうですよね、そんなの住民の方からしたら、
完全にもらい事故みたいなものじゃないですか。
で、気味が悪い、こんな所にはもう住み続けたくないって
彼らは引っ越しちゃって空き家になっちゃったんですよ。

そしたら。

今度は、そこで女性が首を吊ったそうなんです。
彼女の傍にも、遺書があって。

たくやさんのあとをおいます

そう、書いてあったそうです。
でも。
先に亡くなったあの男性。

たくや、って名前じゃないんです。

まぁその"後追い心中"は彼女の頭の中にだけにあった話、
妄想の類なんだって事が後で分かったんですけど。
でもそんなの、もっと気味が悪いじゃないですか。
そんな事があって、余計にその家には誰も寄り付かなくなってしまった。

――っていう噂、あくまでうわさが流れている所に、
行ったんですよ。Sさん達。
薄暗い夕方の中で、スマホの地図を片手に皆でぞろぞろと歩いていた時。
あ、あれじゃないですか、とメンバーの1人が指さした敷地には。

何も変哲もない、普通の一軒家と。
その側に大きな朽ちかけた木製の物置があったそうです。

何かの小屋のようにも見えるそれは、
子供であれば10人は軽く詰め込めそうな大きさでした。
壁に使われている木の板はささくれ立っていて、
ところどころ変色していたようで。

結局。
そのまま手で開けると怪我しそうだから、
肘で小突いて中に入ろう、という話になって。
ちょんちょん、と恐る恐る肘を軽くドアの部分に当てて、
とりあえず扉を開けると。

ぎぃ。

中は外側以上に腐食していました。
ところどころ床が抜け落ちてゴミやほこりが舞っているから、
中には入れそうにもなくて。
だから仕方ないから、ここから見るしかないか、って、
スマホのライトを照らした先に。

ぶらん、と。

ロープがぶら下がっていて。

その時彼らの頭の中にフラッシュバックみたいに、
あの噂がぱっと出てきて、
Sさん達はパニックになって、逃げ帰ってしまったそうです。
ただ、帰り道で次第に冷静になってきた時。
あれ、もしかしたらいたずらだったんじゃないですかって話になって。

「あんなぼろぼろの建物にロープだけ残ってるって、普通に考えたらちょっとありえないですよね」
「確かに。そっかぁ、俺たち騙されちゃったのかぁ」

そういえばあれほっそいロープだったよなぁ、
もう子供が飛びついたらすぐ切れちゃうよなぁ、って。

ちょっと和らいだ雰囲気でサークルに戻って、
その場にいた人達に肝試し行ってきた、って一連の出来事を話したんです。

ただ、結局俺達がやった事って不法侵入だし、
もうそういう場所行くのはやめようって結論になって。

「今度からこうさ、公園とか。河川敷を歩くとかさ。そういうのが良いよ」

うんうん、そうだねもうやめようって皆もうなずいて、
そうやって話もまとまって、この話は終わりました。

終わったはずだったんですよね。

2、3日後。
Sさんがサークルで何するでもなくだらりとしていると、
メンバーの1人が気まずそうな顔をしながら来て、声をかけてきました。

「ん、どうかしたの」
「いや、あの、いるじゃないですか。ほとんどサークル来てないあの子」
「あぁ……いるね、あの幽霊部員ちゃんね」

そしたら彼女、もっと深刻そうな顔になって「あの子この間いたんですよ」って言うんです。

この間、このあいだ。
どういう事、とSさんが聞いた所。
どうやらあの物置に肝試しに行ったという話をしている時、その子もいて。
彼女がやっているブログで、主語や場所は明言していないものの、
肝試しに行ったSさん達を馬鹿にしているような文章を書いていた、と。

で、その言ってくれた子があまりにもへこんでいるから、
そんなにショックな内容が書かれてあるのか、と
彼はどうしても気になってしまったらしくて。
そのブログ見せてくれないか、ってお願いして彼女に見せてもらうと、
確かに書いてあるんです。

所属してるサークルで肝試しに行った奴がいて、みたいな、
そういう前振りは書いてなくて、
あくまで一般論として書いてあるんですけど、
廃屋に行くような奴は不法侵入だし馬鹿だ、だとか、
ロープなんかに騙されるなんて馬鹿馬鹿しいだとか書いてあるので、
あぁ俺達の話してるなってSさんは一発で分かりました。

ただ、Sさんは非難された事への怒りよりもおぉ、結構言うんだなぁみたいな驚きの方が強かったそうです。

「あの子がそんな子だなんて知らなかったなぁ」
「その気力をサークル活動にいかしてほしいよねぇ」

そんな感じでいない彼女をちょっと茶化した後に、
まぁ彼女滅多に来ないからいいよ、放っておこうってなって、
その日は終わったんだそうです。

それから1週間くらい経って。
Sさんがサークルの活動場所へいつものように向かうと、
ブログの事を相談してきた彼女が他の女の子数人と一緒にいきなり、
相談があるんですって、Sさんに話しかけてきたんだそうです。

「メールが来るようになったんです、あの子から」

神妙な顔で見せられた彼女の携帯の画面には、

嫌がらせとかやめろ

とだけ書かれたメールが映し出されていました。

「うーん、嫌がらせ……サークルの誰かからブログの話を出された、とかそういう事なのかな、え? 俺以外の誰かにもこの話したの?」

そう確認すると、相手は首を振りました。
どうやら最初は彼女達も、自分達の知らない時にあの子がサークルにきて、他の人から件のブログについて何か言われたのかなと思ったそうです。
でもあまりにもそのような類のメールが結構な頻度で届くので、
ある時、電話番号を知っている子が彼女に電話をかけて、
どういう事なのか確認をしたんだそうです。

すると、「そういう嫌がらせされても怖くないぞ」といった趣旨の答えが返ってきたそうなんですね。

そういう稚拙な事をしてもただのトリックだから。

あぁいう写真はいくらでも簡単に合成で作れるから。

全部作れるから。




だから、そんな事されても怖くない。

「……って言われたらしくて、でも全然私達身に覚えなくて」
「ちょっと待って、彼女は結局どういう事を言いたいの?」
と、そこで先輩が話に入ってきました。
先輩だけではありません。いつの間にかSさん達の周りには他のサークルメンバーが集まってきて、話の行方を見守っていました。

そして、その幽霊部員の子曰く。
そのブログを書いた後から、彼女の部屋のドアポストに、
誰かが直接写真を入れてくるようになった、そうなんです。

そして詳細は教えてくれないものの、
どうやらそれは心霊写真の類らしくて。

「で、私たまたまその子の住所知ってたから、お前が中心となって協力してやってるんだろって言われたんですけど、
私やる訳がないですし、皆さんもやってないですよね?」
電話をかけたその子の問いに、
皆は口をそろえてしらない、そんな事する訳ないと言いました。

というのも、彼女の住所は部員名簿には記載されておらず、
学部が同じほんの一部の人間しか住所を知らなかったから当たり前といえば当たり前だったそうで。

結局先輩や部長とも話をして、
もしかしたらあの子は精神状態が不安定だから、
あぁいう攻撃的なブログや電話やメールをしてしまったのかもしれないね、
っていう結論になって、
これ以上何かあったら部長かが対応しようって話にね、
なったそうなんですよ。

なったそうなんですけど。

それから1週間も経たないうちに、
メールや電話の頻度がぐんと高くなったそうで。
これはもう駄目だってなって、
その日はサークルの活動をせずに
その子の対処をしようってなったんだそうです。

そもそも考えたら、入ったらいけない所に行って、ばか騒ぎして、
それをさも武勇伝のようにここでべらべらと喋った事はいけない。
いけないし、それが彼女の精神をおかしくさせてしまったかもしれない。

だから写真の件も含めて、きちんと事実を確認する為にも。
1回、もう1回電話をしてみようかってなって。
拗れ始めたら俺が代わってどうにかするから。
Sさんはそう言って前に電話をかけた女の子に頼んで、
電話をかけてもらいました。

少しの沈黙の後。

「あぁ、もしもし、私だけど」

どうやらあの子が電話に出て、
でも早速話は拗れはじめる様子を見せ始めて。

「うんうん、うん。や、いやホントにやってないって、やってないから。
ねぇ、やってないんだって」

"嫌がらせ"をやってる、やってないの話になってきて、
Sさんがあぁこれは代わるしかないかなぁ、なんて言おうかなぁと、
ぼんやりと考えていると。

うん、うん。上の方がちょっと空間が空いてて?

どうやら彼女がどんな写真なのか聞いたようで、
あぁ確かにどんな写真か聞いてなかったなぁと、
注意深く彼女の言葉を聞いていると。

「上の空間には何もないんだ、ふーん。で?
え? うん。女性が下の方に写ってて?
その女性は知らない女性で?
その女性が目だけ上を見ているの?」

なんか、すごい怖い事言ってるな。

Sさんは急激に背筋になにかぞわりとしたものを感じて、さらに。

「で? なんか周りを? ボロボロの木材が囲んでる?」

ぼろぼろの、木材。

その言葉に、その時全員が、ん?となったそうです。

それって、もしかして。

メンバー同士が顔を見合わせていると、
何かひどい事を言われたんでしょうね、
電話をしてくれている子が声を荒げ始めて。

「あぁもうちょっとさ、もうさ、私さぁホントにやってないし。今日ね、サークルにいるからね、だから証明できるんだからね」

そうやって電話画面をスピーカーにして、
「ねぇ皆やってないですよね!」って自分達の方を向いてきたんだそうで。
Sさん達は今スピーカーにしちゃったんだ……とどぎまぎしながらも、
口々にやってないよ、うんやってないんだよって、
電話越しの彼女に向けて言ったんですって。

でもこれ埒が明かないなぁって思ったSさんは、
言葉を慎重に選びながら電話をしていた子と代わる形で、
そのまま彼女に話しかけたそうです。

「あのね、俺らね、そういう写真のいたずらはさ、やってない、やってないんだよ。で? そのぉ、ボロボロの木材で? 作られたであろう建物の中に女性がいて? でちょっと上部の空間が空いてるような写真で? その女性は目だけ上の方見てるっていう写真が? 2日に1回とか来るの?」

『2日に1回来るんですよ』

そこで初めて彼女の声を全員が聞いたそうです。
とても早口で、静かに怒っているような、そんな口調だったといいます。
Sさんはその言い方から、あぁこれ自作自演じゃないなって確信して、
自分でも情けないなと思うような声色で彼女に向かって話しかけました。

「いやでもね、あのぉ、俺らはホントにやってないしさ、あの、嫌がらせならさ、もうちょっとなんていうの、分かりやすい事をすると、思うんだよねぇ」

そんな感じでか弱い反論をした後にあれ、結構火に油を注ぐような事言ったかも、とSさんがもごもごとしていると、
向こう側が携帯を持って立ち上がったのか、
廊下を大股でどすどすと歩くような大きな音が聞こえて。

『今も! 誰かに ! 持ってこさせたんでしょう!』

部屋に、きんとするくらいの彼女の大声が響いて。
その場がしん、となりました。

『そうやって全員いるって嘘ついてさぁ! 今なぁ! 
ドアポストにカタン、って音して! 来たんですよ写真がぁ!』

……え?
いま、全員いるよな、ここに。

いよいよ雲行きが怪しくなってきて、
Sさんはしどろもどろになりながらも釈明をしようとして。

「あのね、ごめん、ごめん今ね、メンバー全員サークルにいるんだけどさ、だからさ、」
『え? なにこれ、ふん、なんなのこれ』

遮るように発せられた彼女の笑い声。
それはどこかあざけるような、見下すような声で。

どうしたの、何で笑ってるの、とこわごわ聞くと。

いや、今までずっと同じ写真が送られてきてたんですけど。
今来た写真、

女の目が正面向いて、私の方見てるんですよ。

これ全然意味分かんないんですけど、となおも馬鹿にしたような態度で喋り続ける彼女を尻目に、
その場にいた全員がぞくり、としたそうです。

だからSさんもちょっとしゃべれなくなっちゃって、それでも必死に、

「あの、えっと、今度は女の目が撮影者を向いている、
それだけが今までの写真と違うとこ、なんだね?」

と、確認を取ろうとすると。

リアクションが返ってこないんです。

それまで散々喚いていた彼女から、
はいとかうんとか、そういう返事すらも一切返ってこない。
電波が切れちゃったのかなとおーいと呼びかけていると、
何か聞こえる。
小さい声で何か言ってるんです。

で、音量をマックスにして、
まぁそれでもギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいの、
小ささだったんですけど。

男性なのか女性なのかよく分からない、
変な音程の声がずっとずっとぼそぼそ聞こえてて。

耳を澄ましてみると。

――――かる

――たらわかる

よぉくかんがえたらわかる
よぉくかんがえたらわかる

そう言ってたんだそうです。

皆一斉に切って切って切ってってなって急いで通話を切って。
もう誰が言い始めたでもなく、
今日はお開きにしよう、やめようって雰囲気になって、
その日はもう皆急いで家に帰りました。

それから。
その子はサークルをやめたそうです。

大学に退学の張り紙みたいなのは無かったらしいから、
大学はやめてないと思うんですけど。
まぁ結局、彼女自身がどうなったかは分かんないんですよね。

そう言葉をこぼしたSさんは、でも、と付け加えて。

あの声が自作自演だとしても。
あるいはそうじゃなかったとしても。
どっちにしても、なんていうか。

拗らせすぎてやばいですよね。

そう、話を締めくくりました。


――ちなみに、余談として。
あの日、Sさんが帰った後も悶々としていると、
弟さんがそんな顔してどうしたんだと聞いてきたので、
一連の出来事を全て話したんだそうです。
すると、彼はうぅん、と少し唸ってこう言ったんだそうですよ。

「や、おれさ。全然そういうホラーとか? オカルトとか?
興味ないけどさぁ」



なんかそれ、もう手遅れなんじゃないの。


この文章は、青空怪談ツイキャス『禍話』中で話されていた話を軸として、自分なりの解釈、加筆編集を加えたものです。
また、当リライトの題名については禍話wikiに記載されていた題名を使用させていただいております。

【元祖!禍話 第六夜 これが真のストロングだ】
(2022/06/04放送 1:06:30辺りから)

禍話 簡易まとめWiki

この話の中で件の物置の大きさを表現する為にある例えが使われているのですが、
その表現が個人的にツボで、その後のコメント欄の流れも相まって好きなので、是非聴いていただきたいなと思います。

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