見出し画像

蛍光灯を見るしかなくて

なんでもない普通の一日になる予定だった

でも気になってた写真展

明日で終わっちゃうからって、とりあえず向かった

しばらく読んでなかった本を持って

いつもより早足で歩いた

曇ってる、風のない日

写真展と本と

別に意図してなかった二つが

偶然合わさって

心を覆いつくす波になった

深い青か、もう黒に近いような

波の中

無防備で入ってしまったら

めくりすぎちゃった蓋から出るみたいに

感情が溢れ出て

そうなったら止める術もなく

そのままその波に流されていく

苦しさも、怖さもない

ただ悲しいような

そうやって流されていって

写真と言葉の力に圧倒された

小さな心は

あらがうこともなく

ただ無数の形のない波に覆われて

そのまま流されていく

その写真や言葉が直接訴えようとしたものと

そうじゃなくて、どこか自分の中で押さえていた

ないものにしようとしていた感情が

この機会に一気に出てきて

全部一つの波になった

そんな気がする


帰りの地下鉄

本がやめられなくてまた読んじゃって

観光客の中、泣くわけにもいかないから

引き潮みたいな乾いたエスカレーターの

天井の蛍光灯をじっと見た

あの冷たさで

溢れ出たものを戻して

改札くぐる頃にはまた感情をフラットに戻して

普通の一日だった人みたいに歩かないと