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世界の中にありながら世界に属さない

著者:吉福伸逸

出版社:サンガ

なぜ語るのか
第1章 四つの力
第2章 自我と成長
第3章 自己と社会
第4章 世界の中にありながら世界に属さない

著者の吉福伸逸氏は、カウンターカルチャー以降の精神文化を日本に紹介した思想家で、トランスパーソナル心理学を日本に導入したあと、日本を離れハワイに居を移し、カウンセラーとして多くの人材を育てた人です。その吉福人間学の集大成がこちらの本。吉福伸逸さんの遺稿という位置づけではありますが、遺稿といっても吉福さんが書かれたわけではなく、吉福さんの講演録をまとめたもの。

「自我の解体」を重要なキーワードに、

社会とは、成長とは、不安とは、をさらっと語っていく。講演録なので語彙も比較的平易だし、わかりやすいので、思想・哲学書が苦手な人でもスイスイ読めると思います。

印象に残った部分を抜粋しておきます。何かどう言葉を紡いでも自分の気持ちや意見がちゃんと伝わる気がしない、その点では不思議な一冊でもあったので、解説はしません。そして、新しい考え方や発見があるというよりは、そうだよね、という共感に満ちた内容だったということも記しておきたいと思います。

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ぼくは、必要だからセラピーをやっているんです。求めてセラピーをやっているわけでは全然ないんです。それはプロのセラピストやカウンセラーとしてやっていく上では、最も大切なポイントだとぼくは思っています。そのポイントさえ押さえておけば、人に本当に嫌われるセラピーができます。なぜ人に嫌われることが大切かというと、ぼくの考えるセラピーは、当人が絶対に認めたくないことを認めてもらうということだからです。「あんたがあんたのような状態で、今そこにいるのは全部あんたのせいなんだよ」とぼくは言うわけです。どんなに嫌なことが自分に起こっていたとしても、その嫌なこと、それをやっているのは社会でもなければ他人でもない、自分自身がやりたいからそういうふうになっているんだということなんです。

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不安にかられた自我は、他者と同じであることをよしとする傾向がある。だから、そんなに不安にかられてない自我は、他者と同じであることをよしとしない。ぼくは別に人と違うことをよしとするわけではないんだけど、社会に縛られて自分自身がそのことで苦しんでたくさんのことを抑圧している人をみるとき、それは冗談にしか見えないんです。

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多くの人たちがある特定のところまでくると自分自身で成長を止める作業を始めると強く感じたのです。(中略)

もちろん外から見るといろいろな変化が起きているように見えますが、実際の内面の深い部分では何の変化も起こさない。だからぼくは、多くの人の人生は、現状の自分を保つことに腐心するだけなのだと理解したんです。(中略)

ぼくのセラピーでは常に破綻することを勧めてきました。その人が今置かれている状況の中で破綻すれば、成長とは呼べないまでも変化があるからです。

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ぼくの考えている自己というのは定義不可能でどこにその境界線があるか言えなくなってしまうんですね。感覚的にも、それは呼吸のように膨張・収縮を繰り返しながら柔軟に動いているものですから、どこまでが自己でどこからが自己ではないかということは言えない。

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おすすめ度 ★★★☆☆

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