いま話題のフリーランス法や生成AIについても解説!『クリエイターのためのトラブル回避ガイド』
フリーランス・事業者間取引適正化等法が2024年11月1日に施行されます。「発注時にはっきり金額を提示してもらえなかったら?」「”データ、もらえるよね”と要求されたら?」etc. 実際にトラブルに出合ったらどのように対処すれば良いのでしょうか。
『クリエイターのためのトラブル回避ガイド』はトラブルへの対処法だけではなく予防策もまとめた実践的な法律書です。具体的なトラブルをタイプ別にまとめたり、各プロセスに潜むトラブルをQ&Aで解説しているので、法律に苦手意識を持つクリエイターの方にも分かりやすい入門的な内容になっています。本書で取り上げている事例の一部を紹介します。
延々と続くクライアントからの「直し」にはどう対処すればよい?
クリエイターにとって「直し」は最もつらい作業かもしれません。効率的
に乗り切るためには、事前の方針作りはもちろん、その都度、クライ
アントと十分に確認し合うことが大切です。
安易な修正は引き受けない
先方の事情や作品のことを考えれば、ある程度の直しはやむを得ません。ただ、あまり安請け合いしてしまうと、どんな直しも当たり前のように思われてしまうリスクもあります。想定していた範囲を超える修正の場合は、スケジュールや制作費に関する見直しの交渉も視野に入れて話し合いましょう。
伝言ゲームにしないために
修正があまりに多い場合は、クライアント内で多くの人が関与して意思決定が上手くいっていない可能性があります。先方の担当者も困っているはずなので、解決策を一緒に考えるというスタンスが大切です。場合によっては、クリエイターが調整役として間に入ることも、ひとつの問題解決であり、重要な仕事です。
最終決裁者と会えるのは大きなチャンス
進行していくなかで、先方担当者の直属の上司とは別に、社長・役員・部長などの最終決裁者が関わる場面もあります。これまでの進行が振り出しに戻ってしまうリスクもありますが、最終決裁者と直接打ち合わせができることは、逆に大きなチャンスです。
発注時にはっきり金額を提示してもらえなかったら?
特にフリーランスの場合、最もトラブルになりやすいのは、やはりお金
に関する問題です。見積書を交わしていない、約束の期日までに料金
が振り込まれていない、振り込まれていても金額が違うなど、様々な
ケースが挙げられます。
紹介案件の「落とし穴」
懇意にしているクライアントから別のクライアントを紹介されることもあります。ありがたいことですが、注意が必要です。互いに特別な受発注関係であることから、発注側は金銭面でも多少の無理が利くのではないかと勝手に考えたり、受注側は、あの会社(人)の紹介だからきちんと支払ってくれるだろうと安心していたりします。その結果、進行中に生じた認識のズレが徐々に拡大していく可能性があります。
安易に値引き交渉に応じない
相手が誰であっても安易な値引きに応じない。これが鉄則です。紹介案件で特別なサービスをしたいのであれば、値引きより、例えばカットイラストのクオリティを高めるなどの付加価値を提供し、質的なお得感を演出すると。つまり、「10万円を8万円にしてもらった」より、「10万円で12万円分の価値を買えた」とクライアントに思わせることです。これは最終的に客単価のアップにも繋がります。とはいえ、場合によっては値引き交渉に応じた
方がよい場合もあるので、臨機応変に対応しましょう。
下請法やフリーランス法を知っておく
下請法は、正式には「下請代金支払遅延等防止法」といい、フリーランス法(令和6年11月1日施行)は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。いずれも、取引上の弱者を様々な角度から保護することを目的とした法律です。これらの法律を知っているメリットは大きく、支払いに関するトラブルなど、いざという時に頼もしい味方になってくれます。
お金を回収できない状況に陥ったら
メールや電話で、さらには訪問して、未払い金の請求をしても取り合ってもらえない場合は、泣き寝入りせず、別の手段を考える必要があります。内容証明を送る、少額訴訟を起こす、無料相談が可能な「法テラス」を活用するなどの方法を検討しましょう。
「データ、もらえるよね」こんな要求をされたら?
クライアントから「このパンフレットのデータ、送っておいてね」なんて
言われると、お世話になっている場合などは特に、「まあ、いいか」と
送ってしまうこともあります。本当にそれでよいのでしょうか。
デザインの素材は、それぞれ別々の権利で保護されている
パンフレットに使われている素材の多くは、他人から借りたり頂戴したりしたものであり、そこには色々な権利が含まれています。写真やイラスト、文章などは著作権で、商品名やマーク類は商標権で、タレントやモデルならパブリシティ権で保護されていて、それぞれに権利者が存在しています。
さらに、そのデザイン自体に、絵画に通ずる鑑賞性があれば「美術の著作物」、また、会社案内、製品カタログなどの編集物で「素材の選択または配列に創作性があるもの」なら「編集著作物」とみなされ、著作権によって
保護されます。このように、ひとつのパンフレットでも、実に多種多様な権利の集合体となっているので、決して安易に、無許諾利用を誘発しかねない制作データの受け渡しをすべきではないのです。
クライアントはどんな法的根拠で著作物を利用しているのか
契約書がなく、利用許諾なのか、譲渡なのかも確認されていない場合、クライアントは一体どのような法的根拠で様々な著作物を使っているのでしょうか。この場合、著作権は権利者に残っていて、クライアントは一定の条件のもとに利用許諾を得ていると考えるのが現実的です。そして慣例的に、この許諾契約は仮に契約書がなくても、各著作物の納品行為のなかに暗黙のうちに包含されているというのが法的な見解です。ただし、利用可能な範囲についての明確な合意がない場合、納品された成果物を、どのような態様や目的で、どの地域で、いつまで使用できるのかなどが曖昧なままとなってしまうので、予め明確にしておきましょう。クライアントからデータがほしいと依頼されたら、そのデータをどのように使用したいのかを確認し、適切な手続きについてアドバイスすることが重要です。
著者:志村潔
1955年、山梨県甲府市生まれ。1978年、武蔵野美術大学造形学部卒業。広告制作会社、広告会社、SP企画会社などを経て、1986年、アートディレクターとして廣告社株式会社入社。クリエイティブ、マーケティング、営業、メディア、管理部門の各責任者を経験後、代表取締役社長就任。2016年退任。クリエイティブ部門で広告制作に関わった経験と実績を活かし「広告と知的財産権」というテーマで数多くのセミナー講師を手掛ける。日本広告学会会員。著書に『こんな時、どうする?「 広告の著作権」実用ハンドブック』(太田出版)、共著に『写真著作権』(太田出版)がある。
監修:虎ノ門総合法律事務所 近藤美智子・雪丸真吾