ラジオ

 「ラジオを聞いてます。好きなんです」と答える。会社の上司から普段は何をしてるの?と聞かれた時、合コンで質問された時、飲み屋でめんどくさい男に絡まれた時。

 「何をきくの?」と興味もなくとりあえず質問を続ける人(話聞いてる俺優しいでしょ?女はこういう男が好きでしょ?の気持ち見え見えだったよ、ごめんね)や、「ふーん、珍しいねぇ。他は何が好きなの?」と、ラジオが好きの一風変わった女が、他にどんなカルチャーを出し個性を主張してくるのだろうという気持ちで聞いてくる人。めんどくさい女にあたっちゃったなあという感じで話をずらし、そそくさと席を変える人。いろんなはんのうがみえる。

 私も知らない人に、ラジオが好きと言って話が盛り上がるとは思わないし、そこを突き詰めたところで私のミーハーなラジオ好きが露見するだけなので詳しい人にも当たりたくない。ただ、この話をすると、次に会った人は必ず「ああ、ラジオ(が好きな)の子ね」と覚えていてくれる。ここで私が話したいのは、別にラジオ好きと言えば相手に印象を残せますよというモテ技でもなければ、私は変わった女ですよ.という主張でもない。

 テレビが好き、YouTubeがすき、半沢直樹は面白い、鬼滅の刃が流行ってる。と言ったように、動画の話を上げたところで相手の印象には残らない。一方で、音声メディアはまだまだその認知度が低さから、その分相手に物珍しさを感じさせる。

 ラジオ、テレビ、YouTubeの順に世に出てきたにも関わらず、音声メディアの認知度は低い。(認知度ではないか、人気度か?)かつては、誰もがラジオに耳を傾け、生活に必要な情報を、自分の好きなパーソナリティの話を、初めて聞く面白い話を、さまざまなわくわくをラジオから得ていた。しかし時代とともに廃れ、今やラジオがある家庭は少ない。

  おもしろいと思ったものをタイムリーに、かつテレビほど厳しく規制されず届けられ、さまざまな年代のさまざまな人々のさまざまな好みが入り混じり、好きなものを好きな時間に見れるという手軽さでYouTubeが人気を博しているのは、素人目に見ても容易に分析ができる。そして、YouTubeがテレビからの派生映像メディアであることも。

 では、ラジオからの派生音声メディアはなにか。公共の電波(FMや AM)にのらず、好きな時間に好きなものを書くことができるもの、それがPodcastではないだろうか。

 動画メディアの唯一の欠点(?)は、動画があることだ。映像を見なくてはいけない。寝る間際に見てしまったらオワリだ。深夜になっても関連動画を見続け、どんどん脳は活性化する。満員電車で動画を見ようものなら、サラリーマンからの舌打ちは避けられないだろう。一方、Podcastは音声だけなので満員電車でも嫌がられず(トークで吹き出したりしなければ)、落ち着いた声のラジオでは寝落ちもできる。

 また、顔も知らない相手の生活や、日常の出来事。リスナーたちの悩み事をきくと、知らない人にも関わらず少し親しみを感じてしまう。私も実際ポッドキャスターに会ったことはあるが、会った瞬間「いつも聞いてる声や!」と驚いた。そしてその相手に顔があることにもっと驚いた。親しみを感じすぎると、相手の顔を忘れ、ただ存在として相手を感じる。

 私がラジオを愛する理由は、その親しみである。相手がどんな仕事をしていようと、どこに住んでいる人であろうと、普段の人間関係がどんなものであろうと、耳から入ってくる彼らの声は、ただ彼らと言う人物を伝える。彼らが必要な情報以外の全てを持たないと、私自身も私と言う人間以外の全てを捨てて彼らに対峙できる。文字にするには難しいが、要するにプライドやしがらみを全て捨てた私という本質的な何かだけになれるのだ。

 私もいつか、誰かを裸にできるラジオを作りたい。