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四追いの効用

私が本格的に連珠を勉強し始めたのは2017年の夏で桑名七盤勝負に出る為であった。囲碁将棋どうぶつしょうぎは元々やっていて、チェス・バックギャモン・オセロ・連珠は入門者。この中でどう考えても向いてそうなのは連珠だな、と思った。

というのも将棋と連珠は速度を争うゲームとして非常に似ていて、連珠は序盤から詰む、詰まないの終盤戦が始まる。王手や詰めろ、一手隙きなどの概念はそのまま連珠に応用できる。将棋の読みの力を培ってくれたのは詰将棋だ。連珠も詰め連珠をひたすらやろうと決意した。

詰将棋は好きな勉強法で、人並みに唯一やったものと言えるかもしれない。プロになる前は符号だけで解いたりとか、符号を言ってもらって何の持ち駒があるかを当てるという練習もしていた。自分なりに難解作にも挑戦していた。その時に得たものとしては

・脳内盤

・読みの体力

・これをやったんだという自信

解けても解けなくても頭の中でスラスラと駒が動くようになる効果があった。だが駒に比べて石はどれも同じに見える。脳内石に慣れるために、詰め連珠を毎日寝る前に解くことにした。何日か挫折した日もあったもののこれまで600日以上続いている。その多くは短手数の実戦型を得意とする中山八段の四追いと呼ばれる作品だった。

最初の頃は続けるためにツイッターに報告するようにしたり、日付が変わりそうになったら路上でも解いてたが、次第に習慣化するとめちゃくちゃ疲れている時以外は苦もなく取り組めるようになった。

私が四追いで得たものは以下のものである。

1.脳内盤

2.読みの力や詰むのではないかと察知するセンサー

3.自分が確実に取り組んだことへの自信と安心

4.自分の置かれてる状態やバイオリズムを知ること

1〜3は詰将棋の経験で効用を既に知っていた。4は簡単なものを繰り返す習慣で今回初めてわかったことだ。

連珠の読みは体調や睡眠不足、メンタル状態に恐ろしく作用される。手が全く見えずにレートが50一気に下がった日に生理が始まった、なんてこともこれまで多々ある。毎日同じレベルの問題を解いてると、自分の今の状態が段々とわかるようになってきた。今日は疲れてるな、じゃあ明日は体調をメンテナンスしよう、など方針を立てやすくなった。

悩みがあり迷子になっている時も、とりあえず日々の日課をすれば精神が落ち着いた。四追いは次第に私にとって読みの力を得る以外のところで欠かせないものになっていった。

過日、四追い選手権という解図力を競う大会があった。前日と前々日に400問ずつ解いたのだが、実は仕上がりは上々では無かった。石が並ぶ速さはいつも以上にノロノロとしている。ただ昔と違って置かれた石が明らかにクリアに見えてはいた。最初の頃は霞がかかったようになっていた脳内盤が、クリアになってきたのは嬉しかった。

スピードは遅くても盤面は見えてるから、当日は焦らず丁寧に回答して遅くても正当率を上げようと方針を決めた。実際その通りの結果となり、緊張で心は乱れつつもどこか落ち着いて臨むことができた。

連珠をやっていく中で、不安はつきものだ。対局は怖い。自分が正しい手を選んでるか、正しい取り組みをしているか、わからない。でも一番不安なのは、自分が今どういう状態かわからない不安だということを将棋の頃の経験で知っていた。自分を知ることができないと、むやみに他人と比較して不安は増大してしまう。

四追いは私にとって自分の状態を知り、次の方針を立てるための命綱というのが最も重要な効用だ。勝つ為の力になっているかは直ぐにはわからない。実戦で何度も簡単な四追いを見落としてるのを目撃されてる筈だ。私よりはるかに少ない練習量でも手が見える人は多い。それに始めはショックを受けてたが、人は関係ないと思えるまでに今はなった。私は私と向き合うために四追いをやっている。



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