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#2 手紙

 待てど暮らせどお返事がないものですから、こちらから二通目を投函することにしました。

 あなたは一体どういったお積もりなのでしょう。私には理解できません。あれほど周りが止めたにも関わらず、あなたは私どもを無視して、卑怯にもやっておしまいになったわね。その責任をどう考えていらっしゃるのかしら。あなたは身勝手にも犯行におよんで、ケタケタと笑いながら私を見たのです。そのあとあなたは不敵に「大地は私の足の下にくりひろげられる新聞にすぎない」と言い残して、両手でドアノブを回して、乙女チックに部屋を出てゆきました。あれが五年前です。私は先日の手紙を出すまで五年前もの間、あなたの犯した罪とこの言葉の意味を考えてまいりました。そのたびにあなたが立てた、あの、忌まわしいケタケタとした笑い声が耳に鳴るようで、私の精神はいつ崩壊するともしれませんでした。それと同時に、これは不思議なことですが、あなたの犯行と謎の虜でもあったのですから口惜しい限りです。

 この手紙をあなたは今読んでいるはずです。それはもうすっかりわかっていることなのですから、不在を決め込んだり行方知れずのていをでっち上げたって無駄の無駄の無駄ですよ。観念なさい。バカタレ。この前の手紙だって読んだことはわかってるんですからね。此度の手紙は何も前の分の催促ではございません。言うなれば、ご挨拶です。あの日、あなたは最後のおはぎを食べてしまった。遠慮の塊という奥ゆかしい文化を蹴散らすように、重々しくぼってりとしたおはぎをその汚らしい二本の指でつまみあげ、二口で食べてしまった。あのおはぎは遠慮の塊として皿にあった状態では、誰のものでもなく、同時に皆のものだったのです。それを神聖をあなたは侵犯した。あなたのこの犯行の動機について私はこの五年間考えました。そして漸くたどり着いた結論は「小腹が空いたから」というものです。どうです。図星を突かれてチビッていることでしょうね。それから、あなたが残した不可解な言葉。あれはアンドレ・ブルトンの『溶ける魚』の一節ね。探りあてるまで苦労しましたよ。けどワケのわからないあなたのことですもの。シュルレアリスムに傾倒していたのにも納得です。昔のあなたの持ち物のなかからこの類の本が山と出てきました。犯行現場にワケのわからない言葉を残すことは、あなたにとっては浅薄なシュルレアリスムだったのでしょうね。しかもその言葉がシュルレアリスム作品からとられている分、二重にシュルレアリスムだとでも思ったのでしょう。でもね、そこにシュルレアリスム作品の言葉を置いたのはあなたの大きな誤りなのよ。そんな言葉を選んだことで、シュルレアリスムとしての関連性が生じてしまって、それは一つの統合となるのよ。その意味であなたのシュルレアリスム性は損なわれているのよ。詰めが甘いのよ。バカタレ。あんな言葉をわざわざ選んでくるなら、もっと「焼き魚の布団まわし」とか「空気プリンター」とか言ったほうがよっぽどマシなのよ。くだらない。ということで、爆弾を送ります。だいたい読み終わるころに爆発する爆弾です。その都合の良さについては、そういう風に書きぁそうなるのよ。バカタレ。
 では、さようなら。私のおはぎと五年間。

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