ギターがずっと好きになれなかったわけ
なんともしょうもないと思われても仕方ないのだけど、私は高校時代からギターに苦手意識…というか、拒絶反応が長らくあった。
客観的には、生のギターって、とても美しい音色を持っていて、親しみを感じやすい響きとシルエットがある。
私もそれは当時から認識していたのだけど、でもやっぱり、あの音を聴くと、とある人物を思い出してしまって、後味がよくないのだ。
高校3年になる時、ある男の子に告られ、半ば強引に、表面だけお付き合いすることになってしまったのだけど、とにかく嫉妬と付き纏いが激しかった。
今ならストーカーということになるかもしれない。
この場に、覚えている詳細を綴るのも、40年近く経った今も未だに寒気がする一方なので、その息苦しい日々のことは想像にお任せしたいのだけど、その彼は、いつもギターを抱え、辺りかまわず私に(私の家の前であっても)、フォークソングの恋の歌や愛の歌を、弾き語りし始めるのだ。
恥ずかしいし、気持ち悪いし、自宅なのに居心地が悪く、発狂したくなったのは言うまでもない。
さらにバツが悪いことに、たまたま一緒にいたところを(私はもちろんイヤだった)、口の軽かった同級生に目撃されて、卒業するまで、学年中で噂話と、私へのからかいが治まらなかった。
また、数日に一度は「郵送」でラブレターが届くし、自分は経済的な理由で大学に行けないからと言って、同級生に対する僻みや愚痴の手紙まで届いていた。
彼とのことがなければ、高校時代は多少、懐かしい思い出になっていたかもしれないけど、もうあの1年間は、記憶から消したいくらい、おぞましい1年だった。
高校を晴れて卒業し、大学も卒業してその数年後に私は結婚して、ようやくその頃の心の縛りから解放された。
夫には、そのことは結婚して30年間、一度も触れていないけど、もうその必要もないだろう。
どこからともなく届いた風の便りによると、その彼は、一度は結婚したと聞いたが、程なくして独身に戻ったという。
気の毒ではあるけど、一癖ある人だったから、なんかわかる気がする。
もちろん彼から見た私も、一癖あったことは間違いない。
あの頃、彼にはかなり冷たい対応をしていたのは、紛れもない事実だし。
そんなわけで、ギターには、忘れたいのに忘れられない強烈な思い出がある。
幸い、この数年ほどで、ギター弾きの好い人たちとの、多くの出逢いや関わりがあり、だいぶ当時の嫌気も払拭されてきたように思う。
もう二度と彼に会うことはないと信じて、純粋にギターの良さを味わい、失われた35年を取り戻していけたらと願う。