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モバイル通信の未来を占う[5,6,7]

おはようございます、こんにちは、こんばんは!
ちょっと異色の経歴(?)をもつ古川です。
様々な研究から得られた知見などをもとに「無線通信」を分かりやすく
丁寧に説明していきます!
[WiFiについてちょっと興味がある・・・]
[テクニカルな知識を習得したい]
そんな皆さんにお送りする大人の学び塾「古川塾」スタートです!!
今回は【モバイル通信の未来を占う[5,6,7]】。
これがどんな意味を持つ数字だか皆さんはわかりますか?

古川 浩
九州大学大学院システム情報科学研究院情報知能工学部門の准教授を勤めていた2008年、PicoCELA社を創業。2010年同大教授を経るも、事業拡大のため2018年3月に退職し、PicoCELAにフルコミットメント。大学と民間を行ったり来たり。九州大学に所属する以前はNECに所属、第3世代移動体通信の研究開発および標準化活動に携わる。古川考案の基地局選択型送信ダイバーシチ方式(Site Selection Diversity Transmit方式、通称SSDT)は3GPPならびに3GPP2において世界標準化された。SSDTの拡張方式は第5世代移動通信においても適用されている。全世界で70件以上の登録特許を保有、100編以上のジャーナル・国際学会論文等を出版。工学博士


5Gモバイル通信が20年春よりスタート

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過熱気味だった5Gフィーバーですが、いざ始まってみると静かに普及が進んでいる感があります。もちろん、コロナ禍の影響が大きな要因と言えるでしょう。2020年以降数年の間に、社会へインパクトを与えるであろうモバイル通信の趨勢を表現するシンボルとして「5,6,7」を提案してみたいと思います。それぞれ、次の意味があります。

「5」~5Gの普及
「6」~Wi-Fi 6の普及
「7」~Wi-Fi 6Eと呼ばれる6~7GHz帯の開放

まず「5」、5Gの普及について

5Gは高速・低遅延を売り物にしてスタートしましたが、5Gの本領が発揮されるのはミリ波帯と呼ばれる高い周波数帯を利用する場合です。
しかし、ミリ波帯の基地局整備は、いずれの通信キャリアにおいてもまだほとんど進んでいません。

ミリ波帯が利用できる端末もまだ市場では一部の機種に限定されています。
モバイル通信では未開拓の周波数領域なのです。
電波は光と同じ電磁波ですから、ミリ波帯はより光に近い周波数を持つ電波と言えます。(と言っても、光はけた違いに高い周波数ですが・・・)

光が見通し外へは到達しないように、周波数が高くなればなるほど、電波の直進性は顕著になります。つまり、モバイル通信で最も重要な「通信可能エリア」を確保することがとても厄介な電波なのです。
5Gでは、ミリ波以外にもサブ6と呼ばれる6GHz帯以下の新しい周波数帯が割り当てられます。これらのサブ6周波数とて、4Gまでの周波数に比べて高い周波数帯が割り当てられています。つまり、サブ6の周波数帯を使う5Gでも、電波の飛びは4Gよりも悪くなってしまうのです。
電波の飛びが悪いと基地局をよりたくさん設置しなければなりません。

政府は、日本の携帯通信料が高いと主張し、通信料金の削減を今後の政策の第一の柱に据えています。しかし、5Gの普及のためには膨大な設備投資を行わねばならず、通信料金低減のプレッシャーが与えられた下で、投資に見合った上積みの収益を上げられるのでしょうか?
モバイル通信ビジネスは、その誕生以来、今まさに大きな転換点を迎えて
いると言っても過言ではないでしょう。


次に「6」、Wi-Fi 6の普及について

次世代Wi-Fi通信規格Wi-Fi 6の標準化作業が2020年についに完了します。これに呼応して、2021年以降、Wi-Fi 6への移行が急速に進むでしょう。一体、これまでのWi-Fiと何が違うのでしょうか?

一言で表現するならば、「最大通信速度の向上と混雑時の通信効率の向上」がWi-Fi 5からの進化となります。Wi-Fi電波の混雑は年を追うごとに深刻化しています。それくらい、ブロードバンド需要が増大しているということでしょう。Wi-Fi 6の普及によって、電波の有効利用が「ある程度」は行えるようになるでしょう。
しかし、あくまで「ある程度」であって、理想とは程遠い、というのが現実です。

なぜならば、Wi-Fi 6の「混雑時の通信効率の向上」は、あくまで、ある周波数帯域をすべての端末がWi-Fi 6規格で占めなければ達成できないからです。しかし、このような環境を構築することは難しいでしょう。これまでのWi-Fiもそうですが、新しい規格が出現したからと言って、過去の仕様にのみ対応している端末を切り捨てるわけにはいきません。

これを、「バックワードコンパチビリティ」と呼びます。

バックワードコンパチビリティは、急速に進化する通信技術の発展を支えてきた重要な経験則です。

例えば、もし、あるエリアではWi-Fi 6にしか対応してないとなると、少なくともWi-Fi 6の普及当初はほとんどの人がそのエリアで通信を行うことはできないでしょう。

新しいモバイル通信インフラを設置する場合に常にバックワードコンパチビリティを担保しておくことは、折角設置したWi-Fiアクセスポイントが、利用されることなく自滅してしまうことを防止するための自衛策とも言えるでしょう。Wi-Fi 6が利用できる周波数帯は、これまでのWi-Fi 5以前の通信規格に割り当てられた周波数帯と全く同一です。

すなわち、Wi-Fi 6対応のアクセスポイントは、そのほとんどが、それ以前のWi-Fi規格の端末も等しく収容できる様に設計されているのです。しかし、これでは本来のWi-Fi 6が提供できる「高い通信効率」が犠牲となってしまいます。

最後に「7」、新しい周波数帯を割り当てられたWi-Fi 6 通信規格

そこで、登場しようとしているのが最後の「7」、すなわち、Wi-Fi 6Eと呼ばれる、新しい周波数帯を割り当てられたWi-Fi 6 通信規格なのです。Wi-Fi 6Eでは、新たに6~7GHz帯がWi-Fi 6の通信規格専用で割り当てられようとしています(注:現時点で、日本での審議はまだこれからの様子です)。Wi-Fi 6までは2~5GHz帯でした。

そうです、Wi-Fi 6E以降は、5Gと同様に、
より高い周波数へと移行が進むのです。
偶然ではありません。モバイルトラフィックの増加に伴って、
周波数が足りなくなってきています。

そのために、広い周波数帯域の確保が可能なより高い周波数の利用が、いずれのモバイル通信規格でも、進行しているのです。ますます、1つの基地局あるいはアクセスポイントの守備範囲は狭くなります。

このように、利用する周波数領域の上昇に伴う基地局守備範囲の縮小を「スモールセル化」と呼びます。

スモールセル化は深刻なエリア不足、敷設コスト増大といった問題を引き起こします。モバイル通信の未来は決して安泰ではありません。
生活の必需品となり、トラフィックは増大の一途です。
周波数不足はどんどん深刻化しており、苦肉の策として高い周波数の開拓が必要となってきているのです。

しかし、高い周波数は「電波の飛びが悪い」という本質的な問題を抱えています。

ちょっと最後にPicoCELAのことを宣伝

PicoCELAは、この問題を解決するために生まれた会社です。
基地局のLANケーブル配線を不要にすることで、基地局設置の手間を下げる・・・とてもシンプルな目標を持って生まれた会社です。

多数の基地局を設置することは逃れられない、ならば、そのための敷設コストを如何に下げるかに焦点を当てようと、生まれた会社なのです。

創業前の準備期間を含めると18年におよぶ歳月をかけて磨き上げた無線多段中継の技術が競争力の源泉です。数百サイトの導入例、中には10年目に突入した例もあります。ほとんどの導入サイトで、LANケーブル配線量を7分の1以上削減してきました。これによって、通信インフラの敷設コストを削減し、より安価で高品質なモバイル通信の提供に貢献したいというのが、我々の思いです。

「5,6,7」が進展するこれからモバイル通信。

スモールセル問題は、セルラー、Wi-Fiいずれのモバイル通信においても、より深刻化してきます。

人類に与えられた唯一の資源である電波。
携帯電話の爆発的普及が始まったのはほんの30年前です。

人類史上、これほどに電波が利用される時代は、かつてありませんでした。かけがえのない電波の有効活用は、決して妥協してはなりません。

これこそがPicoCELAの使命。
我々はロマンをもって技術的困難に立ち向かい、そしてその成果が人々の役に立つことにこの上ない幸福感を感じる組織でありたいと常に考えています。