リサイタルはもうすぐ
空が白み始める朝4時過ぎ、一番鳥が鳴く。いつも聞こえてくるのは、ヒヨドリの声だ。
ヒ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒーヒーヒー!
音階は、「ミ、ミ、ド、ミ、ソ、ドードード!」だろうか。音感がないので何とも言えないが、だんだん音階を上げていき、興奮気味に歌い上げる。それを何度も繰り返す、朝っぱらから。その熱心さ、中高生の運動部の朝練さながらだ。
日中は、気つけばいつも、ヒヨドリが歌っている。そんなご近所シンガーを、我が家では「ヒヨちゃん」もしくは、「ヒー様」と呼んでいる。
最初は誰が歌っているのかわからなかった。ヒヨちゃんの鳴き声と言えば、「キエーッ、キエーッ」とが一般的だったからだ。
だから、この時期のヒヨちゃんの朗らかな鳴き声は、平和で楽しい。
その昔、万葉の人々は、ヒヨドリの美しい鳴き声をしばしば歌にしたためたという。
「キエー」という鳴き声しか知らなかった頃は、「美しい鳴き声」という表現に違和感があり、イソヒヨドリのことではなかろうか、と思ったが、今ならヒヨドリの歌声を詠みたくなった気持ちがよくわかる。愛嬌があり、一生懸命さも伝わってくる。
はて、何に一生懸命なのか。恋の季節でもないだろうに。
我が家の家族会議の結果、リサイタルだろう、という答えに落ち着いた。
コンサートじゃなくて、リサイタル。
なぜかというと、ヒヨちゃんは冬、メジロのために置いたミカンを「オレのもの」と独り占めするからだ。ジャイアンといえば、リサイタル。だから、リサイタルなのだ。
小雨の降る今も、相変わらず近くの林で同じ歌を歌っている。
その林が、来年の夏から開発されてマンションが建つことを、ヒヨちゃんは知っているのだろうか。
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