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73928751975回目

 「ぎゃん細かぎ、子ども産めんろ!」

 これは、私が職場で週に一回は認知症の患者さんに言われる言葉である。標準語に訳すると「そんなに細かったら、赤ちゃん産めないでしょ!」。週一ペースで言われるのでこちらも慣れているし、同じことを何度も話してくるのは認知症の症状の一つなので「そーですねー」くらいで流せる。
 そんなわけでこういった言葉は今まで体感的には739287519724回くらい言われているのだが、先日流せないタイミングで言われた。

 流せないタイミングとは、産婦人科の待合室である。妊婦の付き添いで来ていた妊婦の母親らしき女性の隣のソファに座ったら、上記のようなことを他の待合室に居る人達に聞こえるくらいの大声で言われたのだ。
 生憎、私は妊婦ではない。妊婦ではなくOC(低用量ピル)を処方し貰いに来た月経痛女である。
 しかし、もし私が不妊治療で来院していたら。もし望まない妊娠で不安いっぱいの中来院していたら。もし子宮がんの治療で来院していたら。もし流産を経験していたら…。この女性のお節介は、どれくらい私を苦しめるだろうか。

 私が不快になるだけならまだいいが、ここは産婦人科の待合室。私が不妊治療をしてなくても、望まない妊娠をしていなくても、子宮がんでなくても、流産していなくても、私の他にそういった事情で来院している人が居るのかもしれないのだ。そういった意味で、私は瞬時にこう思った。

 (この人を黙らせなければ)
 そう心に決めたのとほぼ同時に、女性は私にこう尋ねた。「体重何キロなの?」

 お節介すぎて、失礼過ぎて、私は呆れきってしまった。適当に「80キロです」と返した。 
 すると、待合室に居た他の女性達が一斉に「ぶふっ」と噴き出した。どうやら皆スマホや雑誌を見ている振りして、私と女性との会話に聞き耳を立てていたらしい。私はその光景を見て、なんとなく救われた気がした。女性が私に言った「元気な赤ちゃん産めないわよ」の言葉に間接的に傷ついた人や不快になった人がもしあの場に居たとしたら、そんな人たちを少しでも笑わせられたのなら良かったと思う。

 ちなみにその失礼な女性は私の申告した体重に面食らった表情で、私の身体を頭のてっぺんから足の指先までをジロジロ見てきた。何か言いたげだったが、私は無視を決め込んでスマホを開いた。

 ちなみにこういった「細いと産めない」系の言葉は、近所のスーパーや道端でも言われたことがある。全て見知らぬ年配の方からである。本人達は心配だったり、助言のつもりで言っているのだろう。しかしそもそも、他人の体型についてコメントすることは失礼なことなのだ。
 女性が私に行ったことは、内科の病院の待合室で隣に居た人に「あなた、太ってますね。そんなんじゃ糖尿病になりますよ」と面と向かって言うことと同義であることに、女性はいつか気づくだろうか。

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