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【月刊pic-step9月号】池上幸輝先生インタビュー

こんにちは!月刊pic-step編集部です。
今回は、イラストレーターの池上幸輝先生にインタビューさせていただきました!


池上幸輝
X(Twitter)フォロワー数約15万人の人気絵師。背景や人物、キャラクターなどジャンル問わず幅広く依頼を受ける。細かい描き込みと繊細なタッチが特徴。絵を描く時に使える技法や考え方をまとめた本「絵の勉強おたすけノート」を出版。Amazon/楽天ブックス/honto/ヨドバシ.com/7net等で発売中。



復讐心がきっかけで絵の世界へ

夢を持っている人が羨ましかった

ー改めてよろしくお願いいたします。まず、池上先生がどのような活動をされているかお聞きしたいです。

池上先生:そうですね、幅広くお仕事を受けているので、一言で表すのが難しいですが、背景グラフィッカーのようなこともやったり、人物を描いたり、背景以外にもキャラの塗りだけやったり、背景の線画だけやったりとかしていますので、ご依頼いただければなんでもやりますというスタイルで活動しています。

ーありがとうございます。先生が絵に触れるきっかけとなったことからお聞きしていってもよろしいでしょうか。

池上先生:絵を描くこと自体は高校1年生と2年生の間の冬ぐらいに始めたんですけど、当時の自分には夢がなくて。何らかの夢を追いかけてる同級生に憧れがあったんですけど、平々凡々と過ごせればそれでいいというか。自分はそういうタイプじゃないと思って勉強ばっかりしてました。

ー勉強はされてたんですね。

池上先生:家も貧乏だったんで、公立高校行かないと費用がしんどいというのもあって。勉強だけ必死にやってきたんですけど、やっぱり夢を持ってる人に憧れがあって。

それでも自分も夢みたいな、情熱的に追いかけられるものが見つかるって勝手に思ってました。

なので、高校に入る時に家族に、「家族に負担がないように頑張って中学校3年間勉強ばかりしてきたし、公立高校に受かってお金に負担はあんまり掛けないようにするから、何か夢を見つけたら見守ってほしい。その時成績はすごい落ちると思うし、なんなら登校率も下がると思うけど、それに目をつぶってくれないか」っていう話を前もってしていたんですよ。

それから高校に入ったんですが、結局すぐには夢は見つかりませんでした。

クラスメイトにやっかまれて火がついた

ー夢を見つける前からもう家族に宣言していたんですね。

池上先生:そうなんです。ただ結局夢は見つからなかったので、高校1年生の終わりぐらいまでずっと勉強をしてたんです。

するとある時に、古典の授業で絵を描かなきゃいけない場面があって。古文が昔の言葉で分かりにくいから。各シーンの絵を描いて紙芝居を作ろう、という授業内容だったんですね。

僕が担当したのは狐が出てくるお話で、狐を描けって言われた時に、何かの教科書に狐のかわいい絵が載っていたことを思い出して、それをそのまま透かしてなぞって描いたら、プロみたいな絵が描けてしまって。

そこから、池上くんって絵が上手い人なんだ、という印象がついちゃったんです。絵なんかやったことないのに、何となく絵がうまい枠に入っちゃったんですよ。

そしたら、クラスの中の絵が上手いポジションだった子がそれを見て、すごいやっかみを言ってくるようになったんですね。「あんまり本当は上手くないだろう」とか、「何なんだお前」って。それがすごくムカついたんです。

架空の画力とはいえ、人が頑張って描いたものを腐すような、そんな人がイラストレーターをやってほしくないと思って、復讐というか噛み付きたいと思ったんですね。

ーなるほど。

池上先生:そこから、1か月ぐらいちょっと空いた時間に練習して、そいつよりもうまくなってやろうって思ったのが最初なんですよ。

ーそういうきっかけだったんですね。見返してやろうじゃないですけど。

池上先生:それからインターネットで「絵の描き方」とか「初心者」とかで検索して一生懸命練習してたんですけど、全然上手くならないんですよ。最初は綺麗な円すら描けませんでした。何回練習しても全然うまくいかなくて、いかに自分が絵のことを舐めてたのかを思い知りました。でも、難しいなと思ってやってるうちに、だんだん楽しくなってきたんですよね。

その時はまだ将来の夢にするとは思ってなかったですが、夢中になれるものにようやく出会えたという感覚があったので、そのぐらいの時期から勉強をお座なりにしつつ(笑)、絵に注力するという日々になって、それで結局半年ぐらい学校は本当に赤点続きで、たまに休む日も増えていって。それくらい絵にすごい注力したんですね。

学校は基本ずっと寝てるか行ってないかで、家に帰ってきたらそのままアルバイトを夜までして、そこから朝まで絵を描いて、また学校で寝て…というう生活を送ってました。

そうなるとさすがに周りも心配したんですよ。毎回平均点くらいは取ってるおとなしいタイプだった僕が、急に赤点ばかりになって、学校も来なくなってたので…周りはびっくりしていたんですけど、逆にあんまり怒られなかったんです、心配というか不安すぎて。

なのでそれをいいことに絵を黙々続けていたら、ちょっと上手いくらいの人には追いついたんですよ。そりゃ、他の人は多分1日に1〜2時間ぐらいしかできないところを、7〜8時間くらい練習してたんで。

そして半年後に、前やっかみを言ってきたクラスメイトに作品を見せて、「僕が描いたんだぞ」って言ったら、そこからはあまりやっかみを言われなくなりました。

ーずっと描き続けて、認めてもらえたんですね。

池上先生:そうですね。ただ絵を始めたきっかけが復讐心とか何か恨みとか、そういうのから入ってるんで、美しい話ではないですけど。

ーでもそれをきっかけに好きになって、高校卒業されてからはどうしたんですか?

池上先生:高校卒業後には、美術系の専門学校に入りました。ただ、入ったら入ったでまた劣等感を抱くんですけどね。
やはり小さい頃から絵を描いてて周りにも絵を描く友達に恵まれて、みたいな人もいっぱい入ってくるし、もちろん先生はプロですからね。あまりにも差があったんで、そこもまた劣等感で描くようになって。結局何か劣等感ばっかりで描いてるんですけど。

ーでもそこで挫折して、僕なんかじゃダメだって諦める方もいると思うので、そこで頑張れるのが才能だと思います。

池上先生:それぐらい、自分の社会性の無さに気がつき始めた頃でもあって、人と話してる時に「うまく噛み合わないな」とか、「こういう話ではこういう流れが欲しい」っていうのが全然分からないんです。それで噛み合わないことが多いなとか、目上の人と話す時は緊張してすごい気を遣わせてしまったり、退屈そうにされたりしたことが多かったんで。

技術職だと多少社会性なくても、もしかしたらカバーできるかもって思っていて。なので、挫折というよりは「僕には絵しかないんだから、もうやれよ」って感じで考えてました。

イラスト1:夏の塔

夏の塔

池上先生:このイラストは、駅の形状は大阪の駅を参考にしているんですけど、縁の乗り降りするギリギリのところの感じとかは別の場所、さらに建物部分は広島の景色で見たビルを参考にしているので、現実には存在しない場所を描いたものですね。

ーなるほど、いろんなところの要素を取り入れているんですね。

池上先生:そうですね。あまりやり過ぎると駅の作りが崩れてしまうので、複雑になりすぎないように要所要所で取り入れています。

ー人によっては背景素材をそのまま使われる方もいらっしゃると思うんですけど、先生は全部手描きされているんですね。

池上先生:背景素材を使うのは全然いいと思います。本当に時間がかかりますし…

ーでも、先生の絵が一から描かれているからこそ、リアリティが伝わりますよね。よく見たら看板にも、会社名まで書かれていて。

池上先生:文字も一応全部手書きです。美術の授業でレタリングという、文字を模写する授業があるんですけど、その要領で、看板に合うフォントを考えて書きました。

ーこの絵はどういうきっかけで生まれた絵なんですか?

池上先生:駅というモチーフを使ったのは、旅、出発、帰路など、駅には何かの始まりや終わりを暗示してる側面があって、見ている人の心を動かしやすいモチーフなのかなと思っていまして。
僕はイラストを描く時に、見てもらう人の感情へのアクセス経路を考えるんですけど、やはり見た時に多くの人が心躍るモチーフと、そうでもないモチーフってあると思うんですよ。
なので、多くの人が共感する、パワーのあるモチーフを、僕のイラストに落とし込んで描く、ということをしていますね。

イラストレーションの側面を大事にしたいと思ってるので、自分だけが好きな景色よりも、多くの人が好きだろうなっていう景色を描く方が、イラストらしい行いかなと思っています。

イラスト2:君は愛嬌の振り方が上手なんだね

君は愛嬌の振り方が上手なんだね

ータバコ休憩中のメイドさんですかね。野良猫との関係性が何を意味しているのかなって想像が膨らむような作品なんですけども、コンセプトをお聞きしてもよろしいですか。

池上先生:僕のこれ以前の作品は、景色が綺麗で女の子がいて、なんとなく雰囲気が良い、っていうところに落ち着いて描いていたんですけど。

イラストレーション、いわば色と図形の組み合わせで伝えるっていうことを考えたら、伝えたいものははっきりしておかなきゃいけないなと思って、この頃から、「伝わる伝わらないはさておき、伝えたいことをしっかり決めておこう」という心構えになったんです。

ーテーマを持って、しっかり決めてから描こうと。

池上先生:そうですね。このイラストのテーマは、「生ぬるい嫉妬心」なんですけど、絵の活動をしていると隣の芝生が青く見えたりとか、人の作業環境がすごく裕福に見えたりとか誰でも経験あると思うんですよ。

そこだけ見るとすごい羨ましいなって思うけど、実際はその人その人の苦労があるし、努力があるし色々あるんだろうな、でもやっぱうらやましいな、みたいな。生ぬるい嫉妬心をテーマに置きたいなと思ったんですよ。

そこで考えたのは、メイドさんと猫です。メイドさんは、職業的には愛嬌が大事なのかなと思っているんですけど、無条件で愛嬌がある猫に対して、「お前は生きてるだけで愛嬌あって、生き方が上手だね。私にはできないや」みたいな、生ぬるい嫉妬心というか。

猫に嫉妬するって現実的ではないし、猫だって色々大変なんだからってわかってんだけど、何かちょっと話しかけるような感じで嫉妬しちゃう、みたいなのって、結構あるあるの感情だと思うんですよ。

そういうあるあるの感情をテーマにするっていうのをやりたかったので、試してみた作品でもありますね。

ー建物のこの経年劣化した感じも、どこかやさぐれたメイドさんとマッチしているというか。

池上先生:これ結構横から見たらすごくいびつな階段なんですよ。無理矢理画面に収めようと思ったんで結構形が汚いんですけど、歪んだ感情を表現してますとかで何とかなるかって勝手に思って(笑)。結構ニュアンスで描いたんで、すごいぐにゃっとしてます。

逆にガスのあたりとかは、ガスのタンクとかなんかのその辺の近所の路地とかで見かけたやつを参考に写真撮って描いたんですよ。文字の部分は自分で考えた架空の社名とかなんですけど。

ーガスタンクの文字が消えかかっているのとかすっごいリアルだなと。

池上先生:さすがに電話番号は載せれないので、やらざるを得ないんですけど、090-×××-××××とかにするのは僕的にはダサく感じるので、もう削るしかないなと思って。

これ嬉しいことにガス会社で勤めてる人からリプライもらって、すごいリアルだって褒めていただいたんです。

ー「禁煙」って書いてるのに、堂々とタバコを吸っている感じも性格を表していて、細かいですね。よく見ると、ゴールデンウィークの営業案内とかも書き込まれている。アップにして見ることで、2度楽しめてすごく素敵です。

池上先生:自分に才能がないっていう感情がずっとつきまとってるんで、じゃあ描き込み量ぐらいは頑張らないと、という気持ちで描き込んでいます。
センスあふれる色彩設計とか、独自の世界観がないんだったら、描き込みくらいはサボるなよ、と自分に向けてやっているところもありますね。僕はそこは、なるべく欠かさないようにやりたいなと思っています。

イラスト3:あの子の描く絵が素敵な理由

あの子の描く絵が素敵な理由

ーこれも大作ですよね。細かくスケッチブックが並んでる様子とか、棚に入っている小物とか、アップにしてびっくりしたんですけど。

池上先生:そうですね。ぶっちゃけ背景小物とかはコピペでいいと思うんですよ。ペンにしろ、1本書いて色をちょっと変えながら増やすっていうコピーアンドペーストで全然いいと思うんです。本もスケッチブックも。ただこの絵が、頑張って絵を描いてる人がテーマなので、テーマ性に合わせました。

ー夢に向かって頑張っているのが伝わりました。

池上先生:どっちかというと自分への戒めとして書いた感じはありますね。最近なんてもう、基礎画力だけ見たら僕とあんま変わんない高校生とか全然いますから。

僕、専門学校でいくつか講師の枠をさせてもらっているんですけど、出張授業で高校生向けのセミナーに出席した時に、画力だけで見たらあまりプロと変わらないような人もたまにいます。
そういう人もいっぱいいるんだから、お前はちゃんとやってるのか?という自分に対する戒めも込めて描き込んでいます。

ー特にこだわったポイントはありますか?

池上先生:まずリアリティですね。絵を描く時にリアリティは最低限ないといけないなと思うので、この量のスケッチブックでいいのか、何回も考え直しました。

高校3年生で今、例えば美大受験に向けて頑張ってる、秋に差しかかったぐらいの季節って考えたら、何歳からどれぐらいのペースで描いたら、このスケッチブックの数で整合性が合うのかとか。
結構何かその空いた時間に計算したりして。ギリギリ無理ではない数にはなってます。絶対に人間ができない数ではない冊数には収めたかなと。

あとは、「このイラストの女の子は恵まれてる環境だ」って思う人もいると思うんですよ。
僕も私も、こういう環境で絵にこう一生懸命なりたかったっていう人も出てくるだろうなと思って。スケッチブックも別に安くはないですから。

そう思わせないために、カレンダーに本当に小さく、バイトの予定を入れてるんです。ほぼ見えませんけど。バイトの日には赤丸が付いてます(笑)。この子はお金は自分で何とかしようとしてるよっていう表現として。

ー本当に細部までよく考えられていますね。

最後に

ーちなみに今後、イラストレーターとしての目標はありますか?

池上先生:ただ綺麗な景色、ただ女の子がいるっていうだけで終わらないような作品作りをしていきたいですね。目標っていうにはちょっと漠然としてますが…。

とりあえず、最近取り組んでる「感情にフォーカスした作品作り」と、今まで通り「生意気な描き方をしない」。細かいところもちゃんとサボらないで描いて、サッと描かない。それを目標にしています。

あとは、余裕ができてきたら恩返しもしていきたいです。
お世話になった先生、影響を受けた人がいて、その人たちがいつか「こいつに影響を与えたんだぜ」って言いたくなるぐらいの人間になりたいんですよ。

ー活躍することで、恩返しに繋がるような活動をして行きたいということですね。

池上先生:そうですね。相変わらず自信もないし、自分に才能も感じてないので、できるかわからないですけど…

ー最後に、ファンの方に向けたメッセージをお願いします。

池上先生:僕は、僕にファンが付いてるっていうのが何か生意気な言い方に感じて、全然飲み込めないんですよ。そんな、ファンだなんておこがましいので…

でも、やっぱり見てくださってるだけでありがたいです。本当にありがとうございます。

実は、自信がなさすぎる自分が、密かにちょっとだけ好きな部分もあるので。自信があったらこんなに描き込まないだろうと思うので(笑)。
別に自信がない自分が好きではないんですけど、役に立ってるところもあるんだろうなっていう気持ちも無きにしもあらずなんで。このまま自信なく、やってきます。応援よろしくお願いいたします。


以上、池上先生へのインタビューでした!
「元々絵を描くのが好きだった」「小さい頃からイラストレーターになりたかった」等、絵が好きでイラストレーターになった方が圧倒的に多い中、クラスメイトへの復讐心から燃え上がって絵を描き始めた、というのは驚きでした。

ちなみにこのクラスメイトは、たまたま池上先生とは相性が合わなかっただけで、問題児とか悪い子ではなかったそうです^^

その子も悔しかったんでしょうね。自分は好きでイラストを描いてきたのに、絵を描いたこともない池上先生の絵が、うまいうまいと囃し立てられているのを見て、すごく悔しかったんでしょうね。私もその気持ちはわかる気がします。

先生が劣等感からここまでのめり込んで努力されてきた結果、イラストレーターになれたということも、普通の感覚ではなかなかできないことですよね。イラストを頑張るためには、「好き」という気持ちだけが大事なわけではないのかもしれません。

今回先生のお話を聞いて、「好きかどうか」ではなく、「夢中になれるかどうか」「没頭できるかどうか」が大事なのかな、と思いました。


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よろしくお願いします。
次回もお楽しみに!


インタビュー: 林 真一
記事:橘 爽香

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