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ニコラス・ジャコメリ ピアノリサイタル

2024年6月5日(水)
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

PROGRAM
メトネル/忘れられた調べ 第 1 集 回想ソナタ イ短調 Op.38-1
ブラームス/7 つの幻想曲集 Op.116
シューマン/クライスレリアーナ Op.16
スクリャービン/ピアノソナタ第 5 番 Op.53

~ 考えさせ 夢をみさせてくれるピアニスト ~

快晴となった初夏の夜に、2023年「第4回Shigeru Kawai国際ピアノコンクール」の覇者ニコラス・ジャコメリによるピアノリサイタルが行われました。

ツアーのために再び来日し、本日の会場でありセミファイナルの会場でもあったパウゼを、コンクールで使用されていたフルグランドピアノSK-EXの歌声が包み込みます。

彼自身が「技術だけではなく楽しく人間味のある演奏を心がけたい」と語るように、時に激しく鍵盤を打ち、力強くペダルを踏む振動が伝わり、時に彼の息遣いすら聞こえる静かな音色と、多彩な演奏を聴かせてくれました。

一曲ごとにたくさんの拍手が送られ、躍動感あふれる今回のリサイタルは会場にいた皆様にとって素敵な想い出となったことでしょう。


~ 感想 ~

表参道・パウゼ

日々の社畜から逃げ出すべく表参道へ向かいました。
連日の締め切りによる心身の疲労と、万年エラーを連発している自律神経のためにフラフラとゾンビのように職務質問寸前でおしゃれな街を歩きます。

場違い半端ないです。
通りを歩くおしゃれな若者や陽キャな観光客に混じると、普段は忘れている自らの陰キャ具合を実感させられます。一秒でも早く隠れたい。

それはさておき、カワイ表参道の二階にあるコンサートサロン「パウゼ」。
大きなホールではありませんが、こじんまりした隠れ家的な会場で好きです。もちろんカワイのお店なのでたくさんのピアノが置いてあり、覗くだけでも楽しいです。(宝くじ当選したら買いに行きます

やっとの思いで着席すると、目前のステージに鎮座するグランドピアノ。
魔界…いや天界の力が込められたような漆黒の光りを放つ「フルコンサートピアノSK-EX」なんと驚愕の2300万円!!
マンション買えますね…

叩き出されて出禁になるだろうなあと思いつつ、弾いてみたい気持ちが止まりません。でも触れた途端にバチンッと拒絶されて「め、目がー!!」とかなりそうなのでやめておきます。
一生触れることが出来ないと思うと、憧れと切なさが交じり合って変な声が出そうです。


登場と演奏

そんなこんなで注意力散漫でボンヤリしていると会場が暗くなり、ステージ奥のドアが開きました。

姿を見せたニコラスさん。
黒くシックにまとめた上下に、髪を結んで豊かな髭を蓄えた風貌。まさに選ばれた美男にしか許されないスタイルです。
男性の魅力に溢れた立ち振る舞いで、ピアノに片手をついてお辞儀をする様がとてもエレガントです。

ああ、神様はなぜこうも不公平なのでしょうか。ニコラスさんが出てきた時点で、もう私のHPはとっくにゼロよ!!
とても終わりまで持ちそうにありません。

彼が静かに座りながら、神聖なる儀式のように集中します。
そんなステージの近くに、勝手にダメージを受けて魂がすこし出ちゃってる陰キャがいるとは夢にも思わないでしょう。

ニコラスさんの手がすっと鍵盤に触れ、演奏が始まります。

一曲目はメトネル?
名前は聞いたことありますがよく知りません。ミーハーでライトクラシック好きにも受ける曲目にして欲しいです。
すでに満身創痍で帰りたい気持ちになっているところに、知らない曲目だと寝てしまいそうです。
などと言う罰当たりなことを考えていた瞬間もありました。

一音、ピアノの弦が揺れました。

その指から紡ぎ出された音色に、ゆるみ切っていた私の自律神経が引き締まり、あっという間に飲み込まれたのです。
静寂に流れはじめた旋律により、世界は色を失ってモノトーンに見えました。胸を内側から氷の刃で貫かれたようで、会場内は少し暑かったはずなのに手足が冷たくなりました。

なんと孤独で、なんと美しいのでしょう。

目を閉じると、瞼の裏を通り抜けて表にまで様々な情景が浮かび上がります。ロシアの作曲家であるメトネルが残したかったであろうその空を、ニコラスさんの演奏を通して見せてもらえた気持ちになりました。

お前、ロシアに行ったことあるのか?
さっきまで知らなかったくせに。
とかいう無慈悲な突っ込みはやめてください。

初めて聴いたメトネルですが、大好きになりました。この曲を知れて本当に良かったです。

そして、なにより最初から最後まで切なく情熱的な音色で、私の疲れ切った心身にジンジンと響くエモエモな演奏で、至福の時間を過ごさせてくれたニコラスさんに心から感謝いたします。


リサイタル後

さて、エモエモな余韻に浸りながら帰ろうとした時に、ロビーから華やかな声が聞こえました。

見てみると、ニコラスさんが出て来てくれてサインや写真撮影をしている様子。
手厚いファンサービス。
まさにジェントル紳士。

もちろん、私もお願いしました。
男子で写真をお願いしたのは私だけではないか? こんなイケメンジェントルが一緒に撮ってくれるのにもったいないです。

お礼を言うと、穏やかな声で「ありがとうございます」と返してくれました。演奏中はとても力強く情熱的なのに、話すときは優しく落ち着いているなんてギャップ萌えですよね。

優しい笑顔で一緒に撮ってもらい、ホクホクで帰路へ。
平日なのに日曜日のような素敵な一日となりました。

おわり

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