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ソルフェージュとフォルマシオン・ミュジカル

今日は、フォルマシオン・ミュジカルで教えられているソルフェージュと、どれだけの力がつくかについてお話します。中学生が扱う課題は、日本の超一流以外の音大レベルだと思います。

求められるソルフェージュ力は? 大切にしていることは?

譜読みの力

楽譜の音の高さを正しく読めるのは大前提です。フォルマシオン・ミュジカルでは音符フラッシュカードのように、音符1つだけを見せて何の音かを当てるような訓練はせず、前後の間隔で音符を読めるように練習していきます。
楽譜を読めることが目的なので、歌うのではなく音の名前を読んでいきます。中学生が主体のクラスになると、ハ音記号の読み方もやります。直接に楽器の演奏に使わなくても読む訓練をすることで、楽譜の見え方が変わってきます。

リズムを正確にできる

リズムと拍は、1年目の課題から大切にされています。リズムはパターンで少しずつ読めるようになっていきます。そして新しいリズムパターンが出てくる時は必ず楽曲で聴いて確認しています。
つまり、リズム打ちはただリズムを叩くだけにとどまらず、楽曲に使われている例を確認することで、音楽の中での役割を経験していきます。同じリズムを学ぶのであっても、音楽と密着した形で学べば、生徒さんたちはリズムを学ぶ意味を理解できます。
まずは、拍を一定にします。拍というのは心拍という言葉もあるように、規則正しく打つことです。曲の盛り上がりに合わせて「少しずつ速く」「少しずつ遅く」「直前より速く」「直前より遅く」といった指示はありますが、それ以外は一定の速度で打つものです。
次に、拍の分割を正確に行います。拍は二分割、あるいは三分割が基本です。速い部分は音の粒を揃えて、ということをよく言われますが、これも拍の分割を正確に行う作業の一部です。粒を揃えるのは身体的なテクニックももちろん必要ですが、それ以前に正確に分割をするとどういう流れになるかを把握しておくことで粒を揃えることができるようになります。
ソルフェージュ的学習におけるリズム打ちの課題は、複雑なリズムを身につけた上で音の高さをつけることで、譜読みをする時に早く読めるようにという目的があります。正確な分割を身につけることで、さらに演奏を美しくする効果を狙っています。

正しい音程を聴き分けられる 声に出したものを修正できる

絶対音感をつけるという意味ではありません。出された音の高さと自分の出している音の高さが同じであるか違うか、違うのならどのように修正すれば正しい音の高さになるのかを判別できる耳を育てるのです。
個人的に絶対音感は「あれば便利かも」というもので、それよりも相対音感や音を聴く力の方が大切と考えています。ピアノのように平均律で調律されている楽器ならともかく、他の楽器は楽譜上の一つの音でもいつも全く同じ音程で演奏されるとは限らないのです。「ここは音の間隔がこうだから、自分はちょっと高めに」など、微調節できる力が必要とされます。
耳が育てば、音程の正しさ、音のミスを聴き取って修正することができます。
音楽は音に出して表現する芸術です。正しい音程を聴き分けた上で、まずは声に出して歌えることが大切です。そのためには聴き取った音程を正しく声に出す能力が必要になります。

歌うことを重要視

譜読みの力をつけるための訓練は歌うものではないと書きましたが、歌うことが蔑ろにされているわけではなく、むしろ歌うことは重要視されています。なぜなら、声は誰もが持っている楽器で、歌うことは誰もができる音楽表現だからです。
自分が歌うことで、音楽を歌うということを学んでいきます。自分が歌えることで楽器の旋律を歌わせることができるというわけです。

音楽を聴き取る力も大切

フランス語で 聴音のことを「Dictée musicale」といいますが、音の高さをただ聴き取るのではなく、この場合は音楽を聴き取ることになります。ですから実際の楽曲(ベートーヴェンのピアノ協奏曲が使われている例を見たことがあります)を穴あきで書き取ったり、間違いを探したりという形が多いです。1年目の最初からできそうな課題をいくつも取り上げた課題集もあります。
Dictée そのものは、学校教育におけるフランス語の授業で読み上げられた文を書き取るもので、文脈や内容を聞き取りながら文法的に正確に書き取ることが目標とされています。言語学習で行われいる Dictée を音楽に取り入れたのが Dictée musicale で、流れている音楽がどういうものなのかを理解した上で書き取るのが聴音のあり方です。聴音は「音の高さ、ピッチを聴き取る」ものではありません。音楽を聴き取るものです。

学習開始数年後にできるようになっていること

第一課程終了試験(小学校終了か中学入学直後で受けることが多い)の例

課程終了試験は、筆記テストとして理論(楽典)と聴音の試験、実技試験として譜読み(リズム読み)課題と準備して暗譜で歌うテストがあります。
この準備して歌うテストの課題曲が結構難しいです。音の高さでも半音の違い(臨時記号がついている音が出てくる)があったり、途中で転調したり、あるいはリズムがちょっと複雑だったりで、練習しないと歌えません。
課程終了試験は正式な試験なので実技試験は試験官の前で行われるものですが、この歌う試験で歌うことを拒否した子が試験不合格になった(当たり前と言えばあたりまですが)という話を聞いたことがあります。

第二課程(中学生が主体)の授業課題の例

リズム読みも歌も難しくなります。リズム読みは拍子が途中でコロコロ変わるものもあり、複合拍子と単純拍子の切り替えなど非常に頭を使います。歌は、たとえばワーグナーのオペラからの抜粋を先生が編曲したものなど、技術的にも音楽的にも高度になっていきます。
この頃から比較的大きい曲をじっくりと学習することも始まります。スコアを購入してそれを見ながらの学習になります。長男はそこで複合拍子の二連符を覚えてきました。
音楽の全てをフォルマシオン・ミュジカルで学ぶことはできませんが、こうやって音楽を深く学ぶ経験をしておくことは、先へ行っての学習に良い影響を及ぼすことは間違いないです。

リズム課題は本当に難しい

リズムの正確性を求められることを上に書きましたが、第二課程のリズム課題は本当に難しく、私でもいきなり見て(予見時間なしで)一発で正確にやれないことがあります。この難しい課題を中学生でやれるのは、初心者のうちから拍とリズムの違いを認識して、音の高さと同時にリズムを読む習慣をつけているからとは思います。それにしても音楽をやる人は頭がいいといわれる理由はもしかしたらこういうところにもあるのではないか? と思いたくなるような複雑な課題が次々に出てきます。

フランス人のソルフェージュ力が高い理由がわかる

フォルマシオン・ミュジカルは音楽で音楽を学ぶ課題ではあるがまずはソルフェージュ力

音楽で音楽を学ぶ、楽曲を利用した学びであるフォルマシオン・ミュジカルですが、日本人にとっての国語や英語の学習で文法の問題練習、国語で漢字の練習をするように、ソルフェージュの力をつけるための課題がないということではありません。ただ、そのソルフェージュの課題が「楽譜の音の高さとリズム」を読み取るだけではなく音楽を読み取れるようなものになっているため、フォルマシオン・ミュジカルのソルフェージュ課題をやることは音楽表現力を高める良い手段となります。

楽器の演奏は音楽言語に熟達している、つまり高いソルフェージュ力があるのが前提

音楽表現をするために、まずは音楽言語の取り扱いに熟達する必要があります。それができて、初めて効果的に表現をすることができるようになるのです。
音楽言語に限らず、ある技術に熟達するということは、その技術を端正に行うことができることです。料理でも包丁を上手に使えるようになれば、切り方が綺麗になります。空手の型の演武は黒帯の人がするものの方が初心者がやるものより美しいものになります。つまり音楽言語を正確に運用できることは、音楽美に繋がるのです。
音楽言語における端正さとは自分が出す音におけるリズムと音程の正確さです。そのためには自分が歌っている(自分の声に限らず楽器であっても)ものを常に確認する必要があります。
こうして得られる正確な音楽的思考をもとに、音楽の文法を学んでいきます。母国語における文法は、実際の運用から規則を抽出してそれを少しずつ整理することで、正しく言葉を使えるようになるというものです。音楽においてもそういう順序で言語を学んでいこうというわけです。

習得できてない場合の留年は納得

コンセルヴァトワールのフォルマシオン・ミュジカルはクラス授業で、毎年クラス編成がなされます。一年の終わりには課程修了ではなくてもクラス内テストがあって、その点数が悪ければ次の学年に進めません。
留年というと否定的な雰囲気ではありますが、ソルフェージュ力は積み重ねなのでその年の課題ができていない状態で進級したらその生徒はもっとできなくなります。生徒の力を本当に伸ばすためには留年という措置は必要ではあります。
個人レッスンで取り入れている場合は、その生徒さんが本当に習得しているかを見極めつつ次に進んでいくことが大切です。

ソルフェージュは毎日学習するもの?

フォルマシオン・ミュジカルは音楽言語を学ぶ科目、ソルフェージュはその中でも言語の取り扱いの中心的な部分を担うものです。日常に使用している言語は、毎日否応なく触れることになりますし、ほぼ間違いなく発します。その繰り返しで言語を覚えていきます。学校の授業だけで言葉を覚えるわけではありません。ある程度の学びをすれば、言語で自己表現ができるようになります。
音楽も同じです。表現をするためには音楽言語を学ぶ必要があります。その音楽言語は日常生活では使わないため、自発的に触れる必要があります。
英語を学ぶ時に「1時間週に1回学ぶより、1日10分毎日学ぶ方がいい」と言われるのも、毎日積極的な態度で触れることからくる学習効果を狙っています。音楽の言語も毎日触れる方が効果があります。
とはいえ、コンセルヴァトワールに通う生徒さんたちはさまざまで、毎日復習をやっているかと言ったらそうとは言い切れません。それでもフランス人音楽家は元々の教育のおかげなのか、高いソルフェージュ力を持っていますよね。

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