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楽譜を読むということ、読めるということ

楽譜を読むと一言で言っても色々な段階があります。つまり読めるということには色々なレベルがあるということです。今日はフォルマシオン・ミュジカルで目指している楽譜が読めるということはどういうことなのかについて考えていきたいと思います。

楽譜を読むステップ

音の高さとリズムを読む

楽譜を読むと言われたら、まず音の高さを読むことが頭に浮かぶはず。小学校の音楽の授業ではドレミで書き込んで読ませることもしていますよね。ただ、楽譜は音の高さとリズムが合わさって一つの音符を形成しています。音の高さだけを読むのは英語で「Cat」を「シーエーティー」と読むようなものではないかな? と考えています。音符は音の高さとリズムを同時に読むものです。
大人になってから楽譜の読み方を学び始めた生徒さんに「リズムと音の高さを一度に読むのが大変なので、まず音の高さを読んで弾いてもいいですか?」と聞かれた時の私の答えは「No」。慣れるために音の高さだけを読むのはアリですが、楽器で音にしてしまうとそのリズムになっていないリズム(間違っているリズム)で弾いた音が記憶されてしまうのです。一度記憶されたものを訂正するのは大変!

拍子、調号を読む

曲の冒頭には拍子を表す記号があります。まずはそれを見て曲の拍子を把握します。拍子がわからないとどうなるか? リズムが崩れます。
その次に調号を見ます。この記号はこの曲の調が何であるかをつかむためのキーポイントとなります。調号だけでは調性を判断することはできませんが、調号を見ずに調を判定することはできません。この調号に従って譜読みを始めていきます。

強弱記号、表情記号を読む

楽譜に書かれているのは音の高さとリズムだけではありません。その曲のその部分をどんな風に弾くかということについても書かれています。強弱や速さの指定、表情を伝えるさまざまな記号が書かれています。
これらの情報は正しい解釈のために重要な位置を占めています。強弱も速さも計量できるものではないですし、表情を伝える記号、例えば Cantabile(カンタービレ:歌うように)と書かれているのをどういう風に歌うかというのは最終的には演奏者の選択です。
楽譜に書かれていることを守らなければ間違いにはなりますが、一つの正解はありません。

曲の構造を読む

小説を読む時、最初からつらつらと読んでいきます。では書く時はどうでしょうか? 最初から最後までただひたすら書くでしょうか? いえ、小説を書く時は結果的に予定通りにいかないにしても、ここでこんなことを書く、などある程度の構成を作ってから書きますよね。そして、小説を味わう時、その構成があるからこそ小説の内容がわかりやすいということもあります。
音楽も同じ。むしろ音の芸術だからこそ作る時には構成をきちんとしないと何を演奏しているのか伝わりにくくなります。では弾く時はどうでしょうか? 構成を理解しないで弾くと、文章を棒読みしたようなものになってしまいがちです。
曲にも句読点があります。句読点を意識し、同じ音型、同じフレーズを見つけることで、どういう風に曲が作られたかを理解します。

曲で表現されていることを読む

これは音型や音の並び方から「どういう風に弾くのか」「どういう風に歌うのか」を決めていく作業です。音の高さとリズム、強弱記号に表情記号からここまで読み込んでいけるようになれば、どんな曲が来てもある程度自力で形にできるようになります。
ここまでできるようになるにはかなりの時間を必要としますが、フォルマシオン・ミュジカルで音楽を学んでいけば少しずつこの域に近づけます。

楽譜を読めるってどういうこと?

音の高さなどを読めるのは前提条件

ひらがなを知ったばかりの幼児が絵本を拾い読みするところから始めて本を読めるようになるように、音の高さとリズムを表している、五線に書かれた音符をまず正しく読めるのは、楽譜を読む前提条件です。
音楽を学び始めた人に、楽譜を深く読むことを最初から要求はしません。英語を学び始めた小学生に、英語で書かれた小説をすぐに読ませたりはしませんよね? 楽譜を読むということもそれと同じです。まずは音の高さを「リズムも一緒に」読めるようになりましょう。
五線の中の位置で読み取るのは文字を読み取るのとは違ったややこしさがありますが、全ては規則的にできていて、これに関しては例外というのはありません。まず覚えて、見て判断できれば読めるようになります。
この時に楽譜にカタカナで音の名前を書き込むのはお勧めしません。ある程度進んだ学習者でも、加線が多い音符で間違って読んでしまうものは目印として文字で音名を書くことはありますが、譜読み練習の問題として文字を書き込んでも、読む楽譜に音の名前は書きません。カタカナで音名を書くのは、英語の単語の読み方をカタカナで書くようなものです。

その音楽を形作るものを読む

リズムと音の高さをスラスラ読めなくても、音楽を形作るものを読み取ることはできます。曲の最初にフォルテと書かれていれば「ああ、ここは強く弾くんだな」ということがわかりますし、重くどっしりと、と書かれていれば「どっしりした音を出すんだな」と思うことができます。明らかな間違いはありますが、ただ一つの正解はなく、ここで解釈が生まれ、個性を出すこととなります。
耳コピで弾いている人、弾けてしまう人に楽譜を見ることをお勧めしたいのは、五線でドレミを読むためというよりは、この曲の中に潜んでいるものを知ってもらいたいからです。音の高さとリズムは耳コピを使うにしても、楽譜にどういった指示があるのかは耳コピでは掴みきれません。
ここは、文学作品を本で読むのとは違うところです。絵本は絵が描かれていますが、文学作品はイラストが入ることがあっても基本的に文字情報です。楽譜は音符以外の情報が入っているので、こういった使い方ができます。
音符をスラスラ読めないとしても、音の動きや数などで「なんとなくどこなのか」がわかります。音の動き方を見ることで「同じものが繰り返されている」などの情報を得ることもできるようになります。
楽譜に書かれているのは音の高さとリズムだけではないのです。

音楽の背景にあるものを読み取る

楽譜から音楽の構造を読み取ることでわかることや音楽の時代によるスタイルを読み取って自分の演奏に生かします。音楽を形作るものを読むことと同様、ただ一つの正解はありません。
音楽の構造を読み取るのは何故必要なのか? 演奏中に迷わないためです。よく知っている場所を歩くとしても、今、自分がどこにいるかを気にして歩いている人がほとんどだと思いますが、演奏中に自分が今、どこにいるのかを知るためには音楽上の地図、道標が必要となります。
また、音楽の構造は音楽の表現方法の指標ともなります。音楽における句読点の処理の仕方、異なるフレーズの取り扱い、これらは音楽の構造を読むことで「これ」という演奏法が決まることがほとんどです。

読み取れるのが理想ではあるもの

音楽が表す情景や感情を楽譜から読み取れるようになれば怖いものなしです。音符の並び方やリズム、音の表情を表す記号から読み取れることはありますし、タイトルが付いている曲なら、そのタイトルの助けを借りて読み取って行きます。
タイトルがない曲の場合、楽譜から読み取った情景や感情を逆に自分の思った具体的な言葉や絵にしてみて、そこから音楽の解釈を生み出すということもできます。タイトルがない分、言語化するには音楽言語の助けが必要になります。その音楽言語は音楽をたくさん、質の良い聴き方をすることで身についてきます。

楽譜を読むことは音楽を読み取ること

これらができて、初めて楽譜から音楽を読み取ることとなります。つまり真の意味で「楽譜を読んだ」ことになります。書かれていることから、作曲者の頭にあっただろう音楽をある程度想像して演奏できるようになります。楽譜を読むということは音の高さとリズムを読んでおしまい、ではなくそこからさらに踏み込むことで音楽を読み取るのです。
文字が情報や思想を伝えるために生まれたように、楽譜は音楽を伝える手段として生まれたものです。最初は音とリズムの覚え書きだった記譜法がなぜ発達したかといえば、作曲家が楽譜を書くことで自分の頭にある音楽を記録し、それを作曲者以外が演奏するためです。作曲者以外が演奏するためには、楽譜から音楽を読み取った上で、それをどう表現するかという作業が行われます。
楽譜から自力で曲を演奏をするためには音楽を読むことが肝要です。フォルマシオン・ミュジカルで行う様々な課題はこの音楽を読むために行われています。

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