ホロヴィッツの魅力に迫る!
今日は、20世紀最高のピアニストの一人と言われるウラディミール・ホロヴィッツについて書きたいと思います。私は若い頃、ホロヴィッツは気になるものの、個性が強すぎて特別好きではなかったのですが、年を重ねるごとに、やっぱり凄いな!ホロヴィッツならこの曲をどう弾くだろう?と、録音があれば必ず聴くピアニストになりました。生で聴いたことがないのは残念ですが、やはりホロヴィッツの演奏には聴く楽しみがありますね♪
一般的に「演奏」については多くの先生が、作品の背景(作曲家の人生や性格、思想、作曲した時の心境、時代・・・)を学び、楽譜から作曲家の意図を読み取り、解釈して表現することの重要性を仰いますが、果たして私の好きなホロヴィッツやフランソワは、それを重視しているのだろうか?どうもそんな感じがしないな・・・と、前から気になっていました。
そこで、ホロヴィッツに関する本を探してみたところ、ありました!かなりのボリュームの伝記が。大きめの本で、縦書き2段に小さな文字がぎっしりと400ページ近くあり、相当読み応えがありました。あまりに壮絶な人生だったので、読後はどっと疲れが(笑)。やっぱりスケールが違うなあ!あの圧倒的に大きなスケールの演奏は、人生とも関係しているのだろうと思いました。
この本の出版時、ホロヴィッツは存命中だったようで、まずそのことにビックリしました。批評や批判に過敏だったというホロヴィッツが、これを読んでどう思ったのだろう!と。そのくらい、いろいろなことが赤裸々に書かれていて、残念な内容もちらほら・・・。魅力的ではあるものの、かなり自己中心的な性格で、ホロヴィッツによって人生を狂わされた人達も少なからずいたことを知り、何とも複雑な気持ちになりました。
演奏には「その人」が表れる、とはよく言いますが、ホロヴィッツの音楽を思う時、私は「嫌」なものは感じません。(我儘な性格が音楽に出ていて嫌い、と言う人はいるかもしれませんが・・。)やはり芸術というのは、その人の実生活とは離れたところの理想や、心の振動、美意識の表れなのだなと、改めて思いました。作曲家でも、モーツァルトやベートーヴェン、シューマンなど、身近に居た人はさぞ大変だったろうと思いますが(笑)、音楽はどこまでも美しく素晴らしいですものね。
とは言え、ホロヴィッツは非常に神経質なタイプで、独特のユーモアがあり、お洒落で、美術品等の収集にも熱心だったようですが、そこは繊細で軽妙、研ぎ澄まされた美しい演奏に通じているのだな、とも思いました。また、本には、インタビューや数少ない弟子に語った音楽に対する考えが記されていましたが、それは大変刺激になりました。
他に分かったこととして、母と祖母はアマチュアのピアニスト、叔父は音楽院の院長だったらしく、小さい頃から演奏会に行き、良い教師につくなど、大変恵まれた音楽環境で育ったこと。また、10代の頃からオペラを即興で編曲して弾いたり、作曲をしたり、初見も得意で、難曲を簡単に覚えて弾く等、もの凄い音楽的能力の持ち主だったようです。
デビューしてからは、聴衆を常に意識し、聴き手の集中度や理解度には、かなり敏感だったようですね。私の最初の疑問にも通じますが、作品の背景については、一通り知ってはいたものの、いかに自分の意思を聴衆に通じさせるかが最大の関心事だったようで、やっぱり!と納得でした。演奏している時に聴衆のことを考えるなんて邪道、というピアニストも居そうですが(ミケランジェリなどはそうでしょうね)、ホロヴィッツの場合はそれこそが信念だったのですね。
また、ピアノは「歌う楽器」でなければならない、が一貫した持論で、昔から「ベルカント(18世紀にイタリアで成立した歌唱法)」に興味を持ち、名歌手達がどのようにフレーズを作り、伸縮させ、歌っていたかを絶えず分析していたことも知りました。(ホロヴィッツ自身は、ショパンが大歌手から学んだ話から、研究を始めたようです。)確かにホロヴィッツの旋律の歌わせ方は、絶妙!としか言いようのないもので、聴く楽しみの大きな一つですが、それは熱心な研究の賜物だったのですね。
ホロヴィッツの素晴らしさや技術は、そう真似できる類のものではないと改めて感じましたが(笑)、ホロヴィッツが研究した「ベルカント」を私も聴いてみようと、早速、「SP時代のテノールたち」という2枚組のCDを取り寄せて聴いています。20世紀前半の歌手達の歌声は、時代も感じられ、心に響きます。今は、ホロヴィッツが「忘れられた天才」と考えていたバリトン歌手マッティア・バティスティーニのCDの到着を待っているところです。ホロヴィッツがとりつかれたように熱中した歌手、興味津々です!今まで旋律の歌い方など特に意識せず、好きなように弾いておりましたが(汗)、ここで昔の名歌手達の歌をよく聴き、何か学ぶことがあればいいなと思っています♪
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