メロンパン

「はい、あげる」
ある日の午後に母から差し出されたのは、ハゲハゲになった丸いパン。
「???なにこれ?」
と尋ねると、
「うん、メロンパンのクッキーのところを食べたあとのパン」
との返答が。
「???もう食べへんの?」
と聞くと、
「うん、もういいねん。だからあげる。」
と返ってきた。
母の名誉のために断っておくと、母は決してご飯を子供に与えない虐待をしていたわけではなく、普段のご飯は十分すぎるくらいきちんと用意してくれていたし、そのどれもが美味しかった。
「いやいや、きちんとパンの部分も食べなよ」
と言うと、
「だって不味いんやもん」
という母。
世界の貧困の方々の問題はさておき、内心、子供かー!!!とツッコミつつ、
「なら、なんでメロンパン買ったん?勿体無いやん、こんな食べ方!」
と若干わがままな子を諭すように話すと、
「うん、だから勿体無いからあげようと思って。ここまで食べたら普通のパンやん。ジャムとかつけたら普通に食べれるやろ」
とこちらも子供を諭すように言う母。
おいおい、そう思うなら自分でそうやって食べたらええやん、と思いつつ仕方ないので私が食べる羽目に。
もう一度母の名誉のために断っておくと、普段はそんな風に食べ物をぞんざいに扱う人ではなく、食べ方も綺麗な人である。
納得できないままとりあえず食べていると、母が
「メロンパンのパンの部分って、なんでこんなにパサパサして美味しくないんやろうね?」
と話しかけてきた。
確かに。私もいつもそう思っていた。
しかし、だからといって、一番美味しいところだけ食べて後を人に押し付けてはいけない。
だんだんめんどくさくなってきて、
「そう思うなら、クッキーを買ったらええやん。わざわざメロンパン買わなくてエエやろ?」
と言うと、
「それはちょっと違うねんな〜。このグラニュー糖がかかったサクサクしたクッキーは、普通のクッキーとはまた別」
確かに。表面にグラニュー糖がかかっているクッキーはあんまり見かけない。
しゃーないな、と若干子供の尻拭いをする気分で食べた記憶がある。

このエピソードは、私が大学生くらいのときのことである。
このあと、大手製パン会社から「メロンパンの皮焼いちゃいました」という商品が売り出されたのを覚えていて、ああ、みんなあの"皮"だけ食べたいんだなぁと思った。もちろん、張本人の母も早速買ってきていたけれど、一言「メロンパンの皮はこんなに分厚くないねんな〜」と言っていた。
どこまでも"メロンパン"にワガママな母である。
いや、反対に考えれば、どこまでもメロンパンが好きだったのかもしれない。

さて、数年前からパンのプロに師事を仰ぎ趣味でパンをいろいろ焼くようになったけれど、一番菓子パンで迷走していたのが、このメロンパンである。上のクッキーの部分はザクザク、下のパン部分はその風味を壊さない程度に味は濃すぎず、程よくふんわりしたものを目指していた。
メロンパンのレシピも星の数だけあるので、いろいろ試したけれど、なかなか自分好みのメロンパンは見つからなかった。
迷走しながら、こりゃ私も母に負けず劣らずメロンパン好きなんだな、と思った。
つい先日、ようやくたどり着いたのは、ストレート法で砂糖と水分量をギリギリ金サフで作れる配合のパン生地。そして、大きすぎず手のひらで食べ切れる大きさの手軽さ。市販のメロンパンはどうもパンの部分が多くて途中で飽きてしまうと思っていた。
飛騨に住む友達に嬉しさのあまり送ってみたら、その友達も喜んでくれた。
こうして、ここに我が家のメロンパンが誕生した。


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