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アンナチュラルを駆けこみで見たお話(ドラマ感想)

 飛ばしてもいい自分語り  

先日、アマゾンプライムビデオ内で有料会員見放題だったドラマ『アンナチュラル』を一気見した(現在は見放題から外されている。"駆け込み"とはそういうことである)。

 プロフィール掲載のブログを見れば分かるように私には基本的にドラマを見るという習慣はない。基本はアニメ視聴、特撮ドラマや気に入った海外ドラマを溜めて見ることがあるぐらい。あとは家族が夢中になっているのを横目に見るぐらいか。

 このドラマはとにかく評判が良く、ネットでも大好評だったと思い出したのはアマゾンプライムで適当な作品を探して本作の名を見かけた時。脚本家・野木亜紀子の名も最近まで放送していた「MIU404」の感想と共によく見かけた憶えがあったので視聴してみた。

 その結果はと言うと……とこんな前置きがなくても「面白いから感想を投稿しているのだろう」と大体見当がつかれていることとは思う。実際そうだったので事実上更新が停止していたブログから心機一転するためnoteのアカウントを取得し、記念すべき最初の記事としてこれを書いている。

 どうせ場所を変えるなら&出来れば独自色を出してバズってみたいという欲もあるのでどのようなスタンスでの感想を執筆するか一応悩んでみた。
放送から丸3年経とうとしている作品なので全体を総括するような感想は既に手垢がつきまくってる手法だろう。これは没。
前回のブログが長続きしなかったのはこの点にあるだろうとの反省もある。
やはりここは、シンプルに自分が語りたい事だけを語るのがベストだろう。
一応創作をしている、というか私は創作する者でありたいという想いが強いのでそれら勉強をする中で育てていった観点も織り交ぜながら、本作の魅力を分析&レビューするという形式にしたいと思う。
 まぁ長々自分語りで文字数を稼いでいて何を言うか、と思われるかもしれない。
 

 これが本題(アンナチュラル感想)


 一応断っておくが、ネタバレ全開で語らせて頂く。
これから見ようと思われている方は本項はともかく、次のステップである「本題その2」は閲覧に注意されたし。

" 「 不自然な死は許さない! 」
亡くなった人だけでなく、今を生きる人々を救い、
未来への希望を見出すために…
彼らは死因を究明し、
未来の誰かを救命する!!"
(『アンナチュラル』番組公式サイトより)

 これが本作の物理的な意味でのテーマとなる。
ここで言われている『不自然な死』とはドラマ架空の設定ではない。
これは日本社会の現実である。

"「この異状死で亡くなった人のうち、事件性の有無を調べるために司法解剖されるのは4〜5%、約8000体です。事件性がないと判断された死体を扱う行政解剖を含めても、全体で12%程度。つまり異状死の約9割が、解剖もされずに荼毘に付されていることになるのです」"
デイリー新潮 異常死の9割解剖されず… 石原さとみ熱演で分かった日本の「アンナチュラル」より

 ドラマ放送時は先進国でも極めて低い解剖率とされていたが念のため調べてみると、019年においても

"死因究明の解剖率に地域格差 神奈川41%、広島は1%"
朝日新聞DIGITAL

と数字はあまり改善されていないようだ。

 本作ではこの現代社会の問題に対応する為設立された架空の研究機関「不自然死究明研究所(通称UDIラボ)」を舞台とし、そこに勤める法医解剖医・三澄ミコトを主人公にして物語は展開していく。
突然の家族の急死を信じられずラボに解剖依頼をする遺族もいれば、遺体を傷つけてまで真相究明をする気のない遺族もいる。
捜査の手間を惜しみ事件性のない解剖結果を望む警察官がいるかと思えば、死人を扱う法医学そのものを見下す医療関係者……とドラマの中では個々の事件の不可解性以上に『死因究明に鈍感な社会性』が大きな壁として立ちはだかっていることを何度も伝えようとしてくる。
またドラマ中盤では所長・神倉の東日本大震災後での体験がUDIラボ設立のきっかけになったことも語られている(※注1)。

 本作に登場する解剖医らは現実に通ずる問題の解消に尽力する者達である。目の前に広がる死の謎を解くために汗をかき、時には誰かと衝突し、自身の感情の置き所に悩む。複雑な事情で不審死を遂げた遺体を多く見ることになる以上、その裏に隠された死を知って満面の笑みや納得が得られる機会はほとんどないだろう。その死の真実を知る度に彼らは今自分に出来ること、未来をより良い物へと変えるためにと追求し続けるのだ。

 唐突に個人的な話をするが私は東映特撮ドラマの「レスキューポリスシリーズ(※注2)」が大好きだ。高度化した犯罪や災害に対処するために警察内に設立された特殊部隊に属するヒーローたちの活躍を描くTVドラマシリーズだ。
レスキューポリスはメタリックな色彩で数多くのハイテク機能を搭載スーツで戦うこともある。だがあくまでもその本分は「人を救う」ためであることが作品内で強調されており、犯罪被害者のみならず事件を起こした犯罪者やその傷つけられた心と真正面から向き合う人間ドラマを持ち味としている。

 違う、という人もいるだろうが私はこのレスキューポリスとアンナチュラルで描かれた職業人たちのプライドとより良い未来を求めていく信念は近いものがあると感じた。だから、私は魅せられたのだと思う。
未来の希望を求めて奮闘する作中のキャラクターは、現実世界を少しでも良い方向に変えたいと思ったドラマの作り手たちの「願いの結晶」そのものなんだと私は思う。

 本題その2

 前項を物理的テーマとしたのはこの項を強調する為である。
つまり、作中人物たちの 感情的・精神的テーマの魅力についてである。
再び断っておくが、ここから物語の核心に触れるネタバレについて語ろうとしている。注意されたし。

 前項までの紹介だと、このドラマに登場する法医たちは誰かを救う助けるためのヒーローとして描かれているように受け取られるかもしれないが、描かれる人物像は正に等身大である。
時には恋愛を意識し、家族との距離感に悩み、3Kならぬ7Kともされる過酷な職場への愚痴は絶えず、同僚とのバカ話に興じる、挙句ラボ内で持ち上がったパワハラ騒動が訴訟一歩手前まで進むという展開も描かれる(笑い事ではない)。
 法医学者も日常を謳歌する普通の人間として描かれているのだ。
併せて、人間なら誰しも他者に言えない秘密を抱えているということも。

 本作の狂言回しを担当するアルバイトの記録員・久部六郎というキャラクターである。
素人の彼の目を通すことでUDIラボや司法解剖の現実を視聴者に知らしめる役割……と同時にドラマを劇的に引っ掻き回すジョーカーも担っていた。
六郎は医者の家系に生まれたものの「自分の目標」を見つけきれず、医大で浪人し続けていたのだがひょんなことから週刊誌「週刊ジャーナル」と繋がりを持つ。週刊ジャーナルはネタ集めのためUDIラボへ六郎を送り込む。
つまり六郎はUDIの中のスパイであり、それが他者に言えない秘密なのだ。

 そして、主人公の三澄ミコト、同じくUDIで解剖医を務める中堂系、両キャラはより複雑で苦しい過去を背負っていた。
 ミコトは母親が起こした一家無理心中事件に遭いながらも唯一奇跡的に生還した過去を、
 中堂は恋人・糀谷夕希子を何者かに殺害された上自身に犯人の疑いをかけられたこと、未だにその犯人が見つかっていないという過去を(※注3)、それぞれ胸の内に秘めながら生き続けていた。
当然彼らはそれを大っぴらに公言するわけもなく、秘密を秘密のまま隠し通すべきか、あるいは知ってしまった他者の秘密にどう寄り添ったらいいのかと悩みながらも、心に影を持つミコト、六郎、中堂はそれぞれ接近していく。職場恋愛、三角関係的なニュアンスを感じさせながらも人の内心に近づいていくスリリングなドラマ運びが序盤ドラマの原動力となり視聴者を引き付けていくこととなる。そして、この時期は良くも悪くもUDIラボに安定が訪れていた時期と言えよう。

 潮目が変わるのは5話だ。
この回は恋人の死に疑問を抱いた彼氏がUDIラボに解剖を依頼するというストーリー。彼女の遺族に理解されないなどの彼氏の境遇を自分と重ね合わせた中堂は業務の範疇を超えて必死に死の真相を解き明かそうとする。中堂の事情を既に知っているミコトも積極的にサポートする。
 だが、この物語は中堂から真相を知らされた彼氏による犯人への報復殺人(結果的に未遂となったが)を招くという後味の悪いラストを呼び寄せてしまう。
後味を悪くさせている最大の要因は、中堂が報復に走ると見抜いた上で彼氏に解剖結果を知らせているということだ。理由は明確だ。
中堂自身も犯人への復讐を望んでおり、恋人が死んだ世界で自分が生き残っている事実を悔いているからだ。
母親に殺されかけたミコトだから、その心情が理解できるのだ。

 このエピソードをきっかけにドラマは夕希子殺害の犯人を見つける、という方向に大きく舵を切っていく。
同時に、犯罪の被害者であり、自分だけが生き残ってしまった事実に苛まれ続ける者たちがどのように生きていくのか、生き続けていくのかという視点が始動していく。

 (既に気軽に読める文字数ではなくなってきたため多少端折らせて頂くが)
終盤は正に怒涛の展開で話筋は凄まじく加速していく。
六郎がスパイであることの露呈、序盤から暗躍していたフリージャーナリスト・宍戸と夕希子殺害事件の関わり、真犯人・高瀬の異常性と彼を裁けぬ司法の矛盾。
 ミコトたちはUDIラボは最大のピンチを迎えることとなる。
高瀬は夕希子を含めた実に26人もの人間を手にかけたシリアルキラーだが、宍戸と共謀した彼は物的証拠の一切を隠滅しており、法的に殺人の罪を問うことが困難となっていた。
解剖結果を高瀬の不利へ働くよう改竄するか、あるいは暴力的な復讐へと走るか。
 ミコトは、中堂は、UDIラボは決断を迫られる。前項にて触れた職業意識と個人の感情が激しくぶつかり合う。海外で土葬されていた夕希子の再解剖によりこの苦境は逆転されるが、決定打となったのがミコトの法廷での煽りだというのも面白い。
 公判で高瀬は幼少時に母親から躾という名の虐待を受けていたことが明かされる。彼もまたミコトらと同じく犯罪被害者だったのだ。
だが、ミコトは高瀬に「同情する」と声をかけ、高瀬を激昂させる。
先に挙げたドラマのターニングポイントである5話でミコトは中堂に「同情なんてしない」と言っており、対応が全く対照的になっている。
 

 その違いとは何なのか?
それは降りかかった不幸を理由に絶望したか、しなかったかにあるのだろう。
ミコトと中堂は生き残ってしまった事実に苦しみながら、不条理に心を揺り動かされながらも包囲解剖医としての正しさから逸脱せず、未来の誰かを救命するための法医学、そのプライドと使命を守り抜いた。
だが、不条理に絶望した高瀬は逆に多くの人々の未来を奪ったのだ。
不条理は誰にでも襲い掛かってくる。そんな世界で生きるということ、それ自体がとても難しいのだ。だが、生き続けている以上は負けていない。

 最終回のサブタイトルは「旅の終わり」。
それはドラマの終わりであり、中堂と夕希子を巡る物語の終わり……であるように思える。どこか寂しげに思えるものだ。
しかし、劇中にて補足される「旅の終わり」はただの終幕を意味していたものではないことが分かる。
 夕希子の遺品であり最後に描いた絵本ピンクのカバは、
「2匹のカバが離れて旅を始めるが、最後にはまた寄り添い二匹で旅をする」内容だったと明かされる。
 中堂は夕希子の父に「夕希子の旅は終わったけれど、あなたは生きてください」と言われる。
 情報漏洩のため辞職した六郎が包囲解剖医を目指すため、UDIラボのアルバイトとして戻ってくる。
 中堂のパワハラを訴えた検査技師の坂本がUDIラボに復帰する。「(中堂を)スナフキンと思えば愛せる」とのこと。

 旅の終わり、とはまた新しい旅の始まりということなのだ。
旅の道中で何かが変わってしまったとしても、人が生き続ける限りその旅は終わらない。
このアンナチュラルは、人の死という発端があって物語が回り始めるドラマであったと同時に人が未来に向かって生きていく姿を描いたドラマだったと言える。
 勇気づけられたのか、共鳴したのか、この感覚は形容しがたいものがあるがこうした人の生を描き切ったドラマに私は惹かれたのだと思うしとても納得出来るのだ。

 ここまで書き終えてだがこの作品の根底は、ウルトラマンネクサス(※注4)にも通ずるものがあるなぁと思う。
とにかく生き抜くこと。
生き抜かない限り、如何なる答えも掴み得ないこと。
生きていれば、いくら苦しくても「人は負けない」ということ。
そして、ミコトを孤門、中堂を姫矢や憐、凪に置き換えると人物配置もばっちりハマるのだ。
 本作を好きな人にもお勧めできる特撮ドラマである。

※注

(1)ドラマ中だけでなく番組公式HPの神倉の紹介文において「東日本大震災」の記述があり、現実とのリンクを強めようとする製作側の意図が窺えてくる。
(2)レスキューポリスシリーズ……『特警ウインスペクタ―(1990年)』『特救指令ソルブレイン(1991年)』『特捜エクシードラフト(1992年)』の三作品を指す。
(3)中堂が夕希子殺害犯として疑われたのは、中堂自身が夕希子の解剖を担当した際に証拠隠滅をした恐れがあるからである。夕希子の遺体を担当することとなったのは全くの偶然だが、身内の中堂が解剖を担当することはタブーであり(解剖結果の公平性・信憑性に疑義を生じさせるため)この時の解剖結果は証拠採用が見送られる。だがこのエピソードは犯人を自分で突き止めようとする中堂の夕希子への愛情の深さを印象付け、更に事件唯一の手掛かり「赤い金魚」を突き止めたため中堂がUDIラボで働いているという理由の説明にもなっている。
(4)ウルトラマンネクサス……2004年から全37話に渡って放送された円谷プロダクション製作の特撮ドラマ・ウルトラシリーズの一作。
主人公とウルトラマンの変身者が別個に存在すること、怪獣による人間への攻撃描写が凄惨であることなど他のシリーズと比べてハードシリアス路線を突き詰めた作品として有名である。だが、その重苦しい雰囲気だからこそ時に描かれる人間の温かみが際立つ作品でもある……というのはあくまでも私の個人評である。


余談

 8割ほど記事が出来た段階で一報が飛び込んできた。

「MIU404」「アンナチュラル」年末年始に一挙放送決定 

"2年続けての年末年始一挙放送となった「アンナチュラル」は、2020年12月30日から2021年1月2日にかけて全話を放送。「MIU404」は、2021年1月3日の午前4時から午後3時にかけて一挙放送されるとのこと。いずれの番組も「一部放送されない地域もございます。詳しくはお住まいの地域番組表をご確認ください」としている。"

 こちらの地域でも見られるかはまだ分からないが、アンナチュラルとのクロスオーバーが展開されている「MIU404」には元々興味があったので視聴できれば嬉しい限りだ。
視聴前提記事ではなくて、まだ見たことのないあなたへ!!みたいなオススメ記事として便乗すればもっとPVも稼げたのかなと思ったりもするのだが、面白い作品が人の目に留まる機会が増えるならそれでいいか。

 もし以前のブログを読まれた方が見ていられるのなら、所謂タメ口形式の文章に驚かれているかもしれないがこれで定着するかは分からない。とりあえず今はこれが書きやすいからこれで通している。
 次回の記事も読んで頂けたら嬉しい。

 ちなみに見出しの画像は中堂系と彼が放った最も印象的な台詞を基に私が描いたイラストである……あまり似てなくてごめんなさい。

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