きらきらひかる

一週間後に隕石が降って、地球が滅亡するらしいです。そのニュースを聞いたのが一週間前。今思えば、なんだかその日の仙台の街は浮き足立っていたような気がします。人間なんて、安定を望む一方で、結局非日常を望んでいるんですよね。
らしいなんて伝聞調で話していいことなんですかね。もうあと数分で隕石は地球に着弾するわけですけど、ぼくは自分の面倒な性分を終ぞ変えられずに、そう思います。ニュースで事実を伝えるアナウンサーだって、それは自分の身にも降りかかる事実なわけですから。もっと切羽詰まって、焦る権利があるはずなんですから。でも、一週間後なんてへんに猶予を持たせたから、かえって冷静になったのかもしれないですね。ぼくも一週間前は、そんな感じだったようにおもいます。馬鹿正直に大学に通っていたし。普段は気分が乗らないなんで理由で、平気で休んでいたはずなのに。
ぼくがそのニュースを知ったのは、大学についてからでした。テレビが家にはあるんですけど、まあ点けないんですよね。一年生のときは、突然一人になった寂しさを紛らわせるために、興味もないチャンネルをつけていたはずなのに。大学に行って、いつも通りなんの得になるかもわからない実験をしようとして、その日はやけに欠席の人が多くて、それから教授に聞いたんです。世界、終わっちゃうらしいよって。
それからの日本、いや、世界の方が正しいかな。それからの世界はそれまでの普遍的なそれとは大いに違っていました。化合物が反応直前にわかりやすく変化するのと同じですね。万引きをしてみたいという気持ちが合法になりました。タバコを吸ってみたいという気持ちが合法になりました。人を殺してみたい、という気持ちが合法になりました。
そう考えると、ぼくがこの日までに殺されなかったのは運が良かったのでしょう。出不精な性格なのに、どうせならなんて行く当てもなく仙台の街をぶらぶらと歩いていたわけですから。
万引きをしたいと思ったことはないですし、煙草はすでに合法で吸える年でした。人を殺したいなんて考えたこともなかったぼくでも、唯一ひとつだけ、大麻とか、LSDとか、そういうものをやってみたいという願望がありました。ああいうのは本に影響されてるんでしょうかね。考えても答えはでません。そういうもんです。自分の考えすらわからないんですから、他人がなにを考えてるかは、もっとわからないですよね。ああ、結局昔に大げんかした友達とは和解できなかったな。今はそんなことを考えています。
隕石は日に日に大きくなっていました。一週間前は綺麗だな、なんておもっていたそれが、気づけば月よりも大きい天体として空でその身を主張しています。どんどん大きくなるな。結局違法の薬の類は見つかりませんでした。この後に及んでなにを怯えているんだろう。いっそ憤りさえ覚えます。
海外の偉い学者さんが推定した結果によると、あと3分で地球は滅びるみたいです。
死後の世界に興味はあるんですよね。地縛霊とかって、そもそもの地球がなくなったらどうするんでしょう。宇宙に漂い続けるんでしょうかね。それは、なんだか可哀想。お化けにも意識があるなら、せめて宇宙の好きなところに行かせてあげてほしいな。
JPSが美味しいです。たばこなんて吸わないと思っていたのに、大学に入ったら当たり前みたいにそれを吸っています。競馬とか、パチンコとかもやってみたかったな。今になってそんなことを思います。
隕石のでこぼこすら目に見える位置に来ました。彗星とか、そういうのに憧れてたはずなのに、実際に見てみたらあれは石の塊以外の何者でもないですね。曲にだってしたのに、実際みたらこんなものなんですね。温度が高いだけで、河原に転がってるそれとなにも変わらない。つまらない。つまらない。つまらない。
あ、煙草の火が消えました。隕石も頭上で輝いています。とても綺麗。目に写るものが綺麗なものだけだったらいいのに。これは僕が生きている間にずっと考えていたことです。人間の理性ってすごい汚いんですよ。恋とか、お話の題材で使われるものって全部結局は損得の感情でしかないわけですから。
あ、読みたかった本があったな。でも、時間切れです。ばいばい、地球。

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