プラネタリウム

ふわふわ、ゆらゆら、きらきら。
それら一つでは意味を持たないことばが、二つになれば途端に足し算以上の意味を持つ。イメージされる情景は人によって様々で、ぼくの場合は街灯のひかり。
もうまともじゃないのは自覚しないといけないけど、それに耐えられなくなったとき、ぼくはなにかに取り憑かれたみたいにドアを開ける。吸いたいのかもわからないたばこに火をつけて、ぷかぷか煙をふかせながら、眼鏡を家に投げいれる。矯正されてないぼくの視界はほとんど全部がぼやけて見えて、世界の境界線がどろどろに溶けてしまう。不便だとは思うけど、見たくないものを見ないで済むから、ぼくは存外その景色を気にいっています。かけらほどの見なければいけないものと比べて、見たくないものは世界には溢れかえっているんです。
足取りはふらふらで、でもなんだか機嫌は良くなって。通りに出て最初に目に入るのが、馬鹿みたいに真面目な街灯のひかりなんです。
人なんていやしないのに、背筋を伸ばして足元を照らして。どこまでも等間隔で続いてるそれは、なんだか星の光みたいに見える。空を見上げても暗いばかりで、星なんて見えないぼくのために、真面目な彼らが用意した偽物のひかり。星なんて見分けもつかないぼくからすれば、そのひかりはほとんど星だ。等間隔だから星座にならないのが残念だけど、名無しのひかりはぼくが名前をつけることで、それ以上の意味を持つ。星の名前も、案外適当につけられてるのかもな。その星団はぼくのためだけにきらきら光ってて、そこでようやくたばこの火が消える。
そんなものでぼくの気持ちが落ち着くわけじゃない。依然としてぼくの心臓は何かに怯えたみたいに早鐘を打ってるし、ぼくの頭の中も子供の絵みたいにぐちゃぐちゃで。だけど、ちょっとだけ残ってるまともな部分だけが、もう少しって奮起する。それがあれば、人間なんて十分に生きられる。
扉を閉めて、眼鏡をかけて。輪郭を取り戻した世界は、ほんのちょっとだけ綺麗に見える。

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