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『山崎元の最終講義 予想と希望を分割せよ』制作秘話

2024年1月に惜しまれつつも亡くなった経済評論家・山崎元さんの著書『山崎元の最終講義 予想と希望を分割せよ』が好評発売中です。その発刊経緯を、担当編集者が語ります。

 著者・山崎元さんに初めてお目にかかったのはおよそ20年前のこと。山手線・新橋駅にほど近い、銀行系のシンクタンクを訪ねました。第一印象は「シニカルな人」。今年1月、松も明けないうちに届いた訃報に接し、他社の編集者も同じような印象であったと知りました。

 その後、なぜか同じ飲み屋に通っていたこともありますが、「今日は木曜日だから山崎さんもいるかな。河岸を変えておこうか」なんて思ったこともあります(ただし酒で乱れた姿を見たことはありません)。難しい方だとは思いながらも、独自の視点から分析した、切れ味鋭い原稿はいただきたい。内心ビクビクしながらやりとりを続ける中、昨年のクリスマス直前にいただいたメールには、動画のURLとともにこう記されていました。

「この話は『我々の本』に役立つから文字にしてほしい」

 このとき初めて、山崎さんはちょっとシャイだけれども、ひと言ひと言に気遣いをされる、やさしい方なのだと気付きました。亡くなられる直前のわずか10日間であっても、その機会をいただけたことを私はうれしく思います。まぁ、そのメールの2行後には「PC任せで文字にしても上手く意図が伝わるかわからないから、楽に済まそうとはしないように」という旨の注意書きもありましたが。

 同時に山崎さんはどこまでもまっすぐな、ぶれない方です。本書に「俺は、死に際の今になって発言を先鋭化させるようなケチな人間ではないつもりだぞ」と書かれたとおりです。この本に収録したマネーの話にしても、仕事の話にしても、人生の話にしても同じ。約20年前の取材時に日本最大の純資産高を誇り、その後失速していった投資信託に対して「あんなのはバカが買うもの」と話されたときから、何も変わっていません。

 さて、前出の動画の内容はまえがきに配することとしました。その中で、山崎さんは自身のモチベーションを「正しくて、できれば面白いことを、なるべくたくさんの人に伝えて、ちょっと感心されたい」と語られています。

 山崎元さんの早すぎる死を悼むとともに、できるだけたくさんの方がこの本に触れ、「えげつないことを言う」とでも面白がり、「そういう考え方もあるのか」などと感心されることを心より望みます。「我々の本」から、書店の皆様のお力を通じて読者へ広がる「私たちの本」となれば、これに勝る喜びはありません。

PHPエディターズ・グループ 書籍編集部 野元一哉