見出し画像

<第13回>いまこそ読むべき「ビジネスと文化の予言書」!?

『ロングテール――「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』 
クリス・アンダーソン著/篠森ゆりこ訳(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

イントロダクション~生き馬の目を抜く時代を、新たな古典として生き延びる

本書は2006年に単行本として発刊、2014年に文庫化された、『WIRED』誌の元編集長クリス・アンダーソン氏の世界的ベストセラーです。アンダーソン氏は2007年、米『TIME』誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれるなど、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

また、同氏の著作は、『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)も世界的ベストセラーとなっており、こちらも記憶にある方が多いと思います。

今回も、本書の「はじめに」から、気になった部分を抜粋してみました。

"いまいちばんの売れ筋は何か、国中が追いかけている"
ヒットはもう威力を失ってきた。いちばん売れる商品はあい変わらずいちばんだけど、販売数が減っている"
"「全員にフリーサイズ」時代は終わりを告げ、マルチ市場が見えてきた
"98パーセントの法則"
"①商品のテールは思ったよりずっと長い。②経済的に、テールの商品にも手が届くようになった。③全部足せばニッチは重要な市場になりうる
"「ロングテール」のコンセプトについて、著作権を主張できるのは、ジェフ・ベゾスだろう"

ところで、「ロングテール」とは、主にネットにおける販売現象、と思っていませんか? 売れ筋のメイン商品の売上げよりも、あまり売れないニッチな商品群の売上げ合計が上回る現象のことをいうので、「無制限のカタログ」を持っているネットショッピングで主に当てはまるのは、間違いありません。代表的な事例である、AmazonやNetflixのビジネスモデルはイメージしやすいですね。
しかし、テール商品の在庫は売れ行きを考えれば、少数しか置けないため、在庫切れで補充できなければチャンス・ロスにもなるなど、致命的な弱点も存在します。

じつは、この弱点を克服し、ロングテール戦略を採り入れているリアル店舗もあるんですよ。

では早速、読み解いていきましょう!!

❷独断と偏見のお勧めポイント:ジェフ・ベゾスの分析と思考法がわかる

「投資分析家としてのベゾスは、ただの数字オタクではなかった」

まずは、本書のなかでも、私たちにも身近なAmazonについて、触れていきましょう。

Amazonのビジネスモデルは、eコマース(電子商取引)だけでなく、さまざまな分析がすでになされていますし、本書でも展開されている事業の説明がありますので、ここでは、「ベゾスのもくろみ」をあらためて見ていきましょう。以下は、2005年2月にチャーチル・クラブで行われた、ジェフ・ベゾスの講演内容からの引用のようです。

1994年、ベゾスは勤務先のD・E・ショー(ヘッジファンド)の上司から、インターネット関連のビジネス・チャンスを見つけるように言われていました。なぜなら、1年で2300%もインターネット販売が伸びていたからです。そして、それは通信販売をモデルにしたものでしたが、とくに「インターネットで売れるものは何なのか?」を見つけることでもありました。
若き"数字オタク"のベゾスは、ダイレクトマーケティング協会に出向き、早速、「通信販売で売れているものリスト」を手に入れます。1位は衣料、2位はグルメ食品。本は、かなり下位にありました。調べてみるとこれは、人気の本をキチンと紹介する紙のカタログが実際にはなかったことが原因でした。
ちなみに、90年代初めのアメリカの出版業界は好景気にありました。日本とは違い、再販制度もありませんので、ディスカウントストアの登場や超大型書店の出店ラッシュなど、本はどんどん安く、しかも豊富になりつつありました。本の購買者にとって豊穣の時代の幕開けとなっていることも、調べていくうちにわかってきました。

再び、ベゾスは頭をひねります。「あとは何が求められているのだろう?」
いろいろ整理をしていくと、ある考えが浮かびます。
カタログや店のほうがいい買い物ができるもの(衣料など)ではなく、まだ使いにくいインターネットでも、客の満足度を実質的に向上させるカテゴリーは何か、それは「本」ではないだろうか、と。

大型書店でも当時、1年間で発刊される10万タイトル以上の本をすべては置けません。当然、すべてを網羅した商品カタログもありません。そこで、「考え」は決まりました。

インターネット上の膨大な品揃えに加え、ほかの人の感想も読めるので、「本」というカテゴリーなら、本当にほしいものを見つけやすく、新しい顧客を獲得できると、ベゾスの頭にはすでに浮かんでいたことでしょう。

また、本の流通を取り仕切っている取次業者は2社で、需要を満たすためにアメリカ全土に倉庫を配置していたことも、ビック・チャンスに見えたはずです。

「ロングテール」の事例としてもよく紹介されていますので、聞いたことのある方も多かったかもしれませんが、この「考え」に至った分析および論理的思考は、とても参考になると思います。

Amazonのビジネスモデルについては、ほかでもたくさん紹介されていますので、もっと詳しく知りたい方は、ぜひ調べてみてください。


❸深掘りの勧め:テールの未来とは?

「本当にほしいものは何か? が、問われはじめている」

現在、デジタル商品であれば、家にいて購入することが簡単にできます。海外のサイトで販売されている商品も、リアルタイムで買えますし、自動翻訳が進んでいるので、言葉の壁はありません。曖昧な商品も、検索すれば、見つかるいま、ほしいものはだいたい手に入る世の中になったと言えるでしょう。
無限の選択肢のなかから何を選んだらよいのか? そこにもいま、新たなビジネスが生まれてきています。
刊行時にはなかったAIをはじめとした「超高生産性の世界」では、"ニッチ"こそ新たな市場の宝庫かもしれません。
分析と思考法が導く未来のビジネスが、そこにはあるはずです。


◆今回の名言◆

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
オットー・フォン・ビスマルク(1815年~1890年/プロイセンおよびドイツの政治家。プロイセン王国宰相、ドイツ帝国・初代帝国宰相)

あなたが語るのは、「経験」ですか? それとも「歴史」ですか?

★おまけ★最近読んでいる本

『会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』
渡部清二著 (東洋経済新報社)

「20年以上、毎号2,000ページ超の会社四季報を長編小説のように読んだ達人が教える」に、引かれました。いったい、何が見えてくるのか? キーワードは「過去の出来事を知る=歴史を知る」「風が吹けば桶屋が儲かる的発想」。ここから、新しいビジネスが見えてくるかも!? お勧めです。