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おたよりコーナー #16で読まれました

いくらのシャンパンタワー。どうも、神山です。

今回はおたよりコーナーで読まれた郷土愛溢れるメールになります。ずっと鮭のターン!


こんばんは、神山です。年の瀬なはず、もしかしたら年明け回かもしれないですが…。さて、前回はさやわかさんにおすすめの水族館を訊ねるという平々凡々な質問おたよりだったわけですが、なんと、おたよりコーナーの翌日、オリコンニュースでまさかの水族館について中村元による、次の記事がアップされていました。『水族館ブーム火付け役語る、加速する“商業化”への危機感「命を展示する覚悟ない者が増えている」』

子供向け科学館だった水族館が、大人向けのデートスポットへと変わる契機を作った火付け役として中村氏が紹介され、記事には「科学的展示が主流だったなか、1990年の鳥羽水族館のリニューアルを機に、デートができるような、おしゃれな大人向けの水族館というイメージを打ち出しました。」ともあります。中村氏は商業化を成功させた一方で、現代のプロジェクションマッピングや、実態の生態とは異なる生物展示など、エンタメ性を前面化したことにより、生体を扱っていることを忘れているのでは、という危機感を露わにしていました。先日神戸にオープンした「AQUARIUM×ART átoa」も生育環境の不備などの指摘が多く上がっており、確かに「映え」優先のアクアリウムには生体を扱うミュージアムとしての性格が弱いのかもしれません。
……ここからTikTok云々の話もしたいと思いましたが、TikTokについてはえっちなダンスと面白おじさん動画ばかりがレコメンされ、パーソナライズをどう回避すれば文芸動画が見れるのか悩んでいるので、今度にします(TikTokの使い方回などは需要があるのでは?なども思いました。カルチャー!)。

ということで、今回は僕のおすすめ水族館である「サケのふるさと千歳水族館」の紹介をお送りします。

サケのふるさと千歳水族館とは、北海道千歳市にある水族館。主な展示はサケ科の魚と淡水魚。基本的に海水の水槽は、人工海水を使用した小さめのものであり、大型の水槽は全部淡水槽である。水族館といえば海水魚のイメージが強いかもしれない。たとえば、タイ、イワシ、ヒラメ、サメ、エイ、マンボウ、ウツボ、クラゲ、タコ、タラバガニ、イルカ。どれも海水槽で育てられている水族である。しかし、千歳水族館は輸入魚もアマゾン川などに生息するピラニアやガー、デンキウナギなどの淡水魚がメインであり、海で生活するサケについても卵~流下前の稚魚と、遡上後の成魚のみを展示する。いわゆる銀毛(ギンケ)、海で獲られる脂があり旨いと言われるサケは展示されていない。このように河川のサケがメインの展示なのは、千歳市の地理や歴史はサケと切り離せないからである。

千歳市には摩周湖やバイカル湖に匹敵する透明度をもつ支笏湖という温泉街に面したカルデラ湖があり、国内では秋田県の田沢湖に次いで2番目に深い日本最北の不凍湖である。プランクトンが少なく透明度が高いことから、太陽光が深くまで届き水の青が際立っている。この青はシコツブルーと呼ばれる。ここでは明治27年からヒメマスの養殖を行っており、漁の時期になると「支笏湖チップ」として温泉街などで食べることができたり、レジャーフィッシングをすることができる。

この支笏湖の生態系について千歳水族館は研究をしており、支笏湖の環境を再現した水槽が水族館には置かれている。また、支笏湖から石狩川へと流れる千歳川の流れを再現した水槽もある。このような地理的条件や自然環境を再現した水槽展示は、水環境を水槽の形に切り出したような展示とは違う趣がある。その再現水槽の一つには赤い水車「インディアン水車」の模型が置かれている。これもまた、千歳水族館の名物のひとつである。

千歳川は水族館の裏側に流れており、近くには遡上するサケを捕獲するための水車が置かれている。これこそ、インディアン水車である。中川翔子の高祖父である北海道庁初代水産課長・伊藤一隆がアメリカより設計図を持ち込み、サケマスの孵化事業のため親魚を捕獲する目的で明治29年に設置された。水車設置の背景として、明治21年に官営の千歳中央孵化場(現在のさけますセンター千歳事業所)が建設されたということが挙げられる。北海道ではこの孵化場の設立を契機として他の孵化場も建設されるようになり、資源保護の方策として捕獲規制や産卵保護といった死亡数の管理ではなく、人工孵化放流による生産数の管理という転換が図られていった。

サケが生まれた川に戻ってくるということは、本州では明治以前から知られており、安定した収穫のための産卵の為に戻ってきたサケの漁獲規制などを行う漁村もあった。北海道では明治以前は和人到来以前、つまりアイヌの時代である。ゴールデンカムイでもカムイチェプ=神の魚として、サケ料理が振る舞われていた。アイヌは基本的に食べる分しか獲らないという文化の為、大量捕獲する道具などはなく、遡上するサケを一匹ずつ引っ掛け捕獲する漁を行っていたことから、結果として本州と同時期に既に資源管理ができていたと推定される。

千歳水族館は水槽や生体の展示だけでなくサケマス孵化事業の歴史やアイヌにおけるサケをとりまく文化はもちろんのこと、生体展示はしていないものの遠洋漁業などにおけるサケ漁の歴史についても展示を行っているのだ。

ここまで、千歳の自然環境を再現した展示、サケ文化史の展示について述べた。しかし、千歳水族館はそれだけでは終わらない。河川そのものを真横から見ることができる観察窓が設置されており、これこそがメインディッシュである。基本的に、ミュージアム的な水族館や動物園は生育環境を再現し、展示空間を作り出す。水族館の水槽、動物園の温室や檻のなかの環境は、外環境とは切り離されて存在している。観察窓はそうではない。海底200マイルやゴジラ キング・オブ・モンスターズといった作品の、潜水艦の大窓から海中を望むような、というのは大げさに過ぎるが、自然そのものを直接見ることができるのだ。もちろん日によってはなにもいない、流れる落ち葉が見えるくらいだったり、濁って窓から先1cmくらいしか見えないということもあるだろう。9月や10月といった秋=サケの産卵期では、窓を埋め尽くす大量のサケを見ることができるかもしれないし、何匹かのサケが産卵行為をしていたり、その卵を捕食せんとするアメマスといった魚を見ることもできる。他にも多くの魚や水生生物を季節によって眺めることもあるだろう。

千歳水族館の観察窓は館の最深部に存在しており、元来の自然がどういったものなのかを提示する。そこまでの水槽で見てきた展示が偽物・嘘だ、ということではなく、どのようにしてコントロールできない自然を、生体を扱いながら理解できる形で、美しく魅せながら、好奇心を喚起できるかという試みの場であることが体験できるだろう。

千歳水族館は単なる「北海道の豊かな自然」の象徴としてサケを扱うのではなく、千歳市とサケにまつわる様々な歴史や文化、すなわちカルチャ―と不可分であることを前提に、展示をデザインしている。また、孵化事業との縁が深いこともあり、展示だけではなく様々なかたちの体験によってサケカルチャーに接近することができる。そこでは、稚魚の放流体験だけでなくサケの採卵や受精をも体験したり、間近で見ることができる。サケマスの誕生について学べる水族館であるだけでなく、捕獲したサケをどのようなかたちで食べることができるのか、利用することができるのか、という死後のサケとの接し方までをも学ぶことができる「サケのふるさと」を冠した水族館なのである。

北海道には前述の中村氏がプロデュースした「山の大地の水族館」(北見市)も淡水の水族館として有名ですが、北見はさすがに遠い…。千歳水族館は新千歳空港駅から電車で8分、徒歩15分程度で訪れることができ、巨大というサイズでもないので、2時間もあれば(水族フリークやシャケ狂いでなければ)初回でも満喫できると思います。

1994年の開館から2015年のリニューアルまで館の名前は「サケのふるさと館」であり、千歳水族館とは名乗っていませんでした。個人的にはこの名前の付き合いが長いので、いつもそのように読んでいる、というか「さけふる」って呼んでいますね。

さけふる、是非お越しください。

お読みいただきありがとうございました。


※サケマスに関わる文化については『サケをつくる人びと』(福永真弓,東京大学出版会,2019年)が詳しいです。北海道よりも東北におけるサケマス漁業の話が中心の本ではありますが、おすすめです。


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