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crabhouseをやりました

札幌カニ本家、本社は愛知。どうも、神山です。

一年ほど積んでいた本をやっと読めたんですが、あまりにも面白かった…。

そう、カニの本です。著者は1949年生まれの女性であったことから、出版時には多少インターネットでも話題になっていたかと思います。なんにせよ、海の生き物と人間の関係性としての入門書として、このカニ本はベターな選択です。

この本は基本的に「どうしてこんなに蟹がもてはやされるようになったのか」ということを、関西(大阪市街地など)と産地(北陸~兵庫~鳥取北部の日本海沿岸)を行き交う人々とカニ、そしてカニと海について語ることで導いてゆきます

ぼくは北海道の人ということもあり、カニといえばタラバガニ(厳密にはヤドカリの仲間)と毛ガニの文化にいますが、この本で語られるのは基本的にズワイガニについて。北海道、というか北大水産学部におけるフィールドはおおむね太平洋とオホーツク海やその沿岸の漁業であることから、あまり日本海の話はされないイメージがあります。船によるアクセスの問題もありますし、乗船実習では新潟-函館を往復したので、その限りではもちろんありませんが(例えばイカの研究では日本海側もやるでしょう)。それでもやっぱり、北前船的な航路や物流の話-昆布など-はあれど、それより先である関西の食文化や、北陸~京都の陸運での水産物の話などについては特に詳しいこともありません。

カニ、全体重量と可食部を考えると当然重量あたりの値段はエビよりも安く(マリンネット北海道の統計情報を参照)、高級「魚」と言われると鯛やキンキをイメージするし、高級「食材」「海産物」となればナマコやアワビ……この辺は中国が絡んでくるし、中国におけるカニは淡水のカニとか上海カニみたいなカニなので、タラバガニやズワイカニは輸入するもの、なのかな……ですが、そういう人に対して、何故日帰り旅行にカニプランがあるのか。何故カニに人は惹かれるのか、お金を出してもいいのか、というところから始めていくのが素晴らしい。水産物、海が違えば異なるし、内陸部と湾岸部と都会でも価値観が違う。そういったなかで価値の擦り合わせから始めるというのは丁寧な議論と感じました。

カニの生態から漁獲、卸、流通、加工、調理、提供、食事についてまで、周辺社会の変化も踏まえているという、水産業の第1・第2・第3次作業すべて(僕は六次産業化という言葉は嫌いですし、この本では一括でやりましょうという話ではなく、それぞれについて着目していくというかたちになっている)について触れていて、他の魚種や地方についてどうなっているんだろう、という余地が生まれているのがとてもよい本です。カニ以外でもこういう本が書かれてほしいし、水産学者=理系側の1アプローチとしてこういう人文学的なものを取り入れてやってほしいという気持ちもあり、そういった意味でも知らない海と陸の話を楽しみました。

個人的に一番面白かったのは、単なる生産地・生産者明記=粗悪な業者対策の為に始まったタグ付けが、マスコミによってブランドタグと認識され(単に地物の証明でしかなく、仲買人の目利きや市場でのランク付けが質的な価値の証明)、最終的にトレーサビリティタグとは別のブランドカニのタグを作ってしまうという転倒と、情報を食べてしまうという人間の悪癖が見えたところです。

実際問題、養殖や農畜産物とは異なる、単にそこにいる天然資源にブランド名を付けて売るのはどうなのか(例えば同じ海域で捕っても、漁港や市場が違うとブランド名がつかず、値が付かない、価値が消費者に伝わらない)、何がフェアでサステナブルな漁業なのか、スマートな解決が困難な問題だなと感じられる例かと思います。

一方で都会(カニ道楽)と地方(各漁港と旅館・民宿)がそれぞれ、カニの価値を消費者に伝え、高価で特別で美味しい経験をプレゼンする、というかたちになっているのは、ウナギやマグロにない構造だと思いました。東京中心にカニが流行っていたら、こうはならなかっただろうな、という予感があります。この流れにJRや旅行代理店が関わり、カニツーリズム(著者の造語)が発達、流行していくことが他の水産物でも起こっていればもっと魚食文化が「庶民の味」とか言われず、漁獲が少なくて残念とか、もっと外の海で漁獲せねば、みたいなことにならなかったのでは…

終盤では生態系の話に移ります。カニも当然、サンマやウナギ、マグロのように年々資源量が減っています。浜でのインタビューでは、カニは研究が(ほかの魚に比べて)進んでおらず、いったいいまどれくらいのカニが海底にいるのか、平均年齢がどうなっているのか不明で、体感的にはカニの生態が変わっている気がするが、必要な分を稼ぐためには獲らなければならない、というジレンマに陥っているという話をします。カニは他の魚に比べて漁獲管理はされている方だと思いますが(定置網などに掛からないのでコントロールが効く、マグロは定置網に掛かるので効かないことがある。それらを区別しない行政は本当に酷い…)こと日本の水産行政がうまくいっているというわけではなく、水産業者が自主的な規制・調整をすることによってうまくいっているだけなのです。

水産物の文化については、『魚の文化史/矢野憲一』月末読書会で取り扱っており、古代~現代までの神事や食事などについて、魚類~海産物全体を外観した本でした。カニ本と一緒に、もしくはカニ本のあとに読むのもアリ。個別の魚介類本だと、タコ本も人気(僕は未読)ですし、サケ本(サケより高い)も世にはあるので、好きな魚介類についての本があれば、それを読むのがよいかな。ゴジラも海の生き物だ、という気持ちがあれば怪獣生物学の本もおすすめです。

完全に趣味の本(趣味じゃない本とは?)だったのでひとり読書会をやりましたが、たまにはこういうのもいいですね。水産系読書会でcrabhouse名乗っちまうか?と思ったらアプリがリリースされたので立ち消えにしました。

ではでは。

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