レアの場合⑦

アキヤマから紹介してもらったフィリピンパブは小さな店だったが、結構お客は入っていた。ほとんどが常連客で、近所の自営業の人が多かった。以前は若いタレントが3カ月おきに入れ替わっていたそうだが、今では日本人と結婚しているフィリピン人女性が3人いた。週に何回かやって来る中国人も何人かいた。オーナーはハヤシという男性だったが、ほとんど店には現れず、ハヤシの妻だというフィリピン人のダイアナが仕切っていた。

着いたその日から働いた。だいたい6時には店に行き、簡単な掃除をする。7時開店だったが、混んでくるのは10時過ぎだった。混むといっても小さい店なので10人も客が入れば満席になった。アキヤマは時給が1300円だと言っていたが、給料をもらったらそんなになかった。ここへ来た移動費も10万円借金になっていて、5カ月で返済しなくてはならなかった。アパート代は自分で支払わなくてはならず、結局、弁当工場にいるときと同じくらいしか手元に残らなかった。

弁当工場を辞めるときに、マイコをちゃんと学校に行かせるようにと工場長に何度も言われたけど、何をどうすればいいのかまったくわからなかった。だから放っておいた。ここに来れば収入も増え、マシな生活ができると思っていたけど、そんなことはなかったことをマイコに責められているような気がした。だからマイコとはなるべく顔を合わせたくなかった。

マイコが近所のコンビニで補導された。突然、家に押しかけてきてマイコを学校に行かせるように言われた時には驚いたけど、その人が紹介してくれた人が手続きを手伝ってくれマイコはまた学校に行くようになった。小学校はすぐに卒業し、中学に入学しなくてはならないと言われたが、制服やカバンがものすごく高かった。私だって小学校しか卒業していないんだから、マイコももう少しお金に余裕ができるまで行かせられないと言ったら、日本では子供を学校に行かせないと捕まると言われたので、店で金を借りて必要なものをそろえた。

私が昔タレントとして働いていた頃のお客さんは帰るときに大抵チップをくれたけど、今はチップをくれるお客さんはほとんどいない。適当な身の上話をしても同情をしてくれる人はいたが、お金はくれなかった。景気が悪いから、とダイアナもお客さんもよく言っていた。

マニラで同居していたジェイソンのいとこが、ジェイソンが浮気をしているとわざわざ教えてくれた。実を言えば、私もお客さんの何人かとそういう関係になったこともあったので、責められる立場ではなかったけれど、私が毎月送っているお金で女と暮らしているとすれば腹が立った。しかしだからといってフィリピンに帰ることもできないし、今は飛行機代すらない。毎日、働かないと生きてはいけない。仕事を辞めれば途端に生活が行き詰まり、誰も助けてはくれないのだ。マイコだっている。そしてまた思う。せめて私一人だったなら、と。


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