マイコの場合⑤

ママが夕方に出かけると私はテレビを見て過ごしていた。お笑い番組が好きだったけど、そのうちに何を見ても面白くもなんともなくなっていった。古いアパートで一人で過ごしているとこの世界にたった一人でいるみたいに思えてきた。アパートには何人か住んでいたみたいだけど、みんなママと同じような仕事をしていて、夜になると本当に静かだった。

サヤカに誘われるままに夜に出かけるようになった。私たちとは別の学校の、やっぱりママがフィリピン人のタロウという男の子の住んでいるところにはフィリピン人ハーフ、ブラジル人、ミャンマー人の子供がたくさんいた。

特に何をするわけでもないけど、みんな毎日、そこに集まってきてたわいもないおしゃべりをしたりしていた。テレビもみんなで見ると楽しかった。みんな自分の居場所を探していた。

私もほとんど毎日、そこに通った。ママが帰ってくる前に帰っていたから、ママは私が毎晩出かけていることは知らなかった。たとえ知ったとしてもママが怒ることなんてないと思う。だってママは私のことなんてどうでもいいんだと思う。私はママに利用されただけだ。

そこでマリコという人に出会った。たまにタロウの家に来て、みんなの話を聞いてくれていた。マリコは私たちのような子供たちを支援する団体で働いていた。マリコ自身もフィリピン人と日本人のハーフだった。

私はあまり自分のことを話したくはなかった。だから最初のうちはみんながマリコに話すことをただ黙って聞いていた。親に殴られている子とか学校でいじめられている子とかみんないろいろと事情があった。日本で生まれた子もいれば、私みたいに外国で生まれて日本に来た子もいた。キョウコという子は私と同じ歳で日本で生まれたけど学校には通ったことがないそうだ。

ある時、マリコが私のことを聞いてきた。でも私は自分のことなのに答えられることはほとんどなかった。私は何人で、なぜ日本に来たのか、パパのことも、ママのことも本当に知らなかった。マリコは「自分のことだからね。知らないとね。自分を大切にするためにも知っておいた方がいい。」と真面目な顔で言った。そして「学校は?ちゃんと勉強してる?」と聞いてきた。

ぜんぜん。もう授業で先生が何の話をしているのかもわからない。ちょっと前は先生に当てられることもあったけど今はない。テストもまるでだめだ。ママに学校に来てほしいと先生に言われたことがあったけど、ママは忙しいからと行っていない。

日曜日、珍しくママが昼過ぎに起きてきた。だからこの間マリコに聞かれたことをママに聞いてみた。そしたら「お前のパパはひどい人だ。お前とママを捨てたんだから。」と不機嫌になった。それから私の国籍のことやなぜ日本に連れてこられたのかも聞いてみたが、「全部、お前のためだよ!うるさい!」と怒鳴りそれ以上は何も言えなかった。(続く)



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