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カレーで結婚した話(カレーのパースペクティブ #4)

SNS全盛の現代、カレーに関するコミュニティはライトなものからヘビーなものまで巷にたくさん溢れている。


カレーには謎の吸引力がある。カレーの元には自然といろいろな人々が集まり、交流が生まれ、"コミュニティ"と呼べるものが発生する。
カレーのコミュニティで出会った人と関わるうちにいつの間にか人生が変わってしまっていた。そんな経験があるひとも居るかもしれない。


第4回「カレーのパースペクティブ 」では、カレー活動を通して知り合った人同士が結婚にまで至った経験談を伺いつつ、「なぜカレーは人々を結びつけ、コミュニティを形成させる力を持つのか?」というテーマで対話を行った。


カレーのパースペクティブとは?

カレーについて考えたことのある人なら誰でも参加可能な対話イベント。カレーについて、「対話」を通して様々な角度から探究していきます。

方法論として「哲学対話」のやり方を応用します。哲学対話はディベートでもディスカッションでもなく、「対話」です。

色々なルールがありますが、基本的に何かの結論を出すものではありません。

・ゆっくり考える。結論を急がない
・何を言ってもいい。聞いているだけでもいい
・人を否定したり茶化したりしない
・相手に伝わるような言葉を使う
・話がまとまらなくても、途中で意見が変わってもいい
・「人それぞれ」で終わらせない

「カレーのパースペクティブ 」は本物の哲学対話よりかなり緩いですが、こういうことを大事にしながら、カレーに関して深く考えていき、そのプロセスを共有しあうものです。漠然としか持っていなかった「思い」を言語化することによって自分を見つめ直すきっかけになったり、カレーに関する考え方がアップデートされたりする、いつも新たな発見があります。


ちょっとハードルが高いかもしれないが、もし興味があったら聞いているだけでもOKなので是非参加してみて欲しい。過去のアーカイブはこちらのマガジンにまとめている。


このnoteは、「カレーのパースペクティブ 」プロジェクトにおいて行われた、カレーにまつわる哲学対話の個人的なアーカイブである。



Q:なぜカレーという共通の趣味は人々を結びつけ、コミュニティを形成するのだろうか?

話題提供者:まさおさん

今回のゲストはまさおさん。幼少期よりインドカレーが好きで学生時代にサークルを立ち上げ、そこで今の奥様と出会い結婚するまでに至ったという話を伺った。まさにカレーが結びつけたご縁と言っても過言ではないだろう。



カレーで結婚に至る4ステップ

①小学生:インドカレーに初めて出会う
まさおさんの実家ではお父さんがたまにインドカレーを作り、いつもそれを楽しみにしていた。初めて外で食べたのはスリランカのカレーだが、小学生の頃に出会ったインド料理は大好物となり、よくチーズナンを食べていた。


②中高生:インドカレーを作りまくった
初めてカレーを自分で作ってみるきっかけになったのは、ニコニコ動画に投稿された動画「スパイスから作るインドカレー『チキンマサーラー』」を観たこと。
通販サイトでスパイスを買い揃え、暇があればこの「チキンマサーラー」を作っていたという。調理器具にスパイスの色と香りが染み付き、家族からクレームを受ける。


③大学生:インドカレーでサークルを作った
転機が訪れたのは大学生の時。インドカレー好きな社会人にターゲットを絞ってサークルを作った。南インドケーララ州の珍しい料理を出してもらうマニアックな貸切イベントを開催したり、研究を重ねたバターチキンカレーの教室を開いたりする活動を行う。そこで現在の奥様となるカレー意識の高い女性と出会い、同じ食の趣味から交流が深まりとんとん拍子に交際がスタート。


④インドカレーで結婚した
二人とも食の趣味が同じなので、食事に出かける際は基本的にはインド料理店に行き、時々パキスタン料理やスリランカ料理、ネパール料理なども食べるようになっていった。何かしらの記念日には、表参道のシターラや銀座のグルガオン、バンゲラズキッチンといった高級なインド料理店でお祝い。

そしてめでたく令和元年5月1日に入籍。ハネムーンはもちろんインド。コルカタ、ベンガルール、ハイデラバード、デリーと約二週間かけて各地を巡ってインド料理を食べまくってきたという。


すごいカップルもいたもんですね。まさにこれは、「カレーで人生が変わってしまった経験」と言ってもいいかもしれない。


今回のカレーのパースペクティブでは、カレーという趣味を突き詰めた結果として結婚するまで至ったエピソードから話題を広げ、「なぜカレーという共通の趣味は人々を結びつけ、コミュニティを形成するのだろうか?」というテーマで対話を行った。


対話

哲学対話はその場ですぐに結論を出すようなものではない。しかし、だからと言って「人それぞれ」では終わらせない。偉い人が使うような難しい言葉を使って、込み入った話もしない。

日常的な場面で、疑問に思うようなことって、実はたくさん溢れている。
あえて人に話さなくても、そういった感覚は誰もが持っているのではないだろうか。身近なカレーに関しての疑問を真剣に語れる場として、「カレーのパースペクティブ 」はある。


そもそもコミュニティって何なのか

コミュニティについて考えてみる上で、こちらのnoteを参考にさせていただいた。

コミュニティを運営・管理する人たち=コミュニティ・マネージャーを対象に書かれたものなのだが、先人達のコミュニティに関する研究や実際の運営経験を交え、コミュニティをこんなふうに定義している。

▼コミュニティの定義
・何かを核として自然発生的に集まった集団
・メンバーがお互いの存在に価値を感じ自分の貢献がほかの参加者にプラスに波及していると信じられる状態を有する
・特定の目的に限定されない

これによれば、コミュニティというものは自然発生的に生まれるものであって、人為的に「作る」ものではないということ。また、参加者同士のコミュニケーションは必須要素ではない、ということ。

特定の目的を持たない集まりがコミュニティであり、ある特定の目的のために人為的に作られたプロジェクトやチームなどはアソシエーションという。
しかし、当然ながらコミュニティにはグラデーションが存在し、両方の要素が混ざり合うことが多い。

要約すればこんなところだろうか。


カレーのコミュニティ

この定義を試しにカレーのコミュニティに当てはめてみたらどうだろうか。

・カレーのコミュニティは、カレーを核として自然発生的に集まった集団である。
・カレー探究をする上で、食べ歩きの情報やレシピ、カレー作りの上での疑問点の解決など、お互いの存在に価値を感じ、自分の貢献がほかの参加者にプラスに波及していると信じられる状態を有する
・カレーが核としてはあるが、おいしいカレー屋さんを知りたい、カレー作りを上達させたい、カレーについて語り合いたいなど、目的がたくさんある。

こう考えて見ると、カレー関連の活動というのは、確かにコミュニティを形成しやすい条件が揃っているように思える。その理由を考えてみたい。


第一に、カレーは集団生活に向いた食べ物という感じがする。

日本的なカレーはそもそも軍隊の食事として取り入れられたものだし、給食やイベントごとの食としてまず思い浮かぶのはカレーだ。これはルウを使えば簡単にたくさんできてしまうからだろうが、スパイスから作るカレーも一人分を作るのは難しく、ある程度の分量がないと味が決まらない気がする。

カレーの炊き込みご飯であるビリヤニという米料理があるが、それもやはり大鍋で大量に炊きたくなるし、その方が美味しくなる。ビリヤニを大量に炊きたいからという理由でビリヤニの元に人が集うスタイルのシェアハウスも存在する。

また、カレーを作り始めると人に振る舞いたくなるというのは誰もが持つ自然な感情かもしれない。そこに自然発生的にコミュニティが発生するのだろう。



第二に、カレーに関するコンテンツの多さ、知るべきことの多さがあげられる。カレー沼にハマったときの底無しの知的欲求と言い換えられるかもしれない。

カレーの奥の深さに一度気がついてしまうと「もっと知りたい」という欲求が溢れ出して止まらなくなってしまう。さらには欲求に応じてどんどん新しい世界が開けてくるのがカレーの面白いところだし、まさに世界は自分の知識の解像度に応じて開けてくるのだと実感する。

カレーは色々な楽しみ方ができる。食べるだけではなく、自分で作ったり、こういう風に文章を通して考えたり、など楽しみ方は多岐に渡る。しかし、いずれにしても自分一人での活動には限界を感じる時が来るのではないだろうか(ずっとソロの人もいるかもしれないが、何かしらの外部情報には触れていると思う)。

そこで交流というよりはカレーの情報交換や収集を主目的とした、居場所ともなりうるようなコミュニティが自然発生的に生まれてくるのではないだろうか。人類は結託してカレーに立ち向かう。そこではカレーは常に目的であり、手段ではない。

自分自身、カレーのコミュニティへの参加や運営を通して日々刺激を受けているし、新たな挑戦にもつながっているように思う。


結婚生活における食嗜好の重要性

最後に結婚生活とカレーについての考察。

カレー好きなら誰もが通る道だと思うが、カレーを探究し日々向き合う暮らしを送っていると、いずれ恋人より「私(俺)とカレーと、どっちが大事なの?」と質問を受けることになる。(ベストアンサーは「そんな質問させてごめんな...」と言って優しく抱きしめることらしい)

カレーを毎日のように作り続けていたら、奥さんに「あなたは狂っている!」と泣きつかれたという話も聞いたことがある。

某有名なカレー活動家の方も、毎日大量にカレーの情報発信をし、日々カレーを作っているのに奥さんは全くカレーを食べてくれないという。

これは全く冗談ではなく、共に食事をする機会の多い共同生活において違うものを食べ続けるのは難しく、食の嗜好が合わないと苦労する。そういう意味では今回お話を伺った夫婦は全く問題がなく、むしろ食の好みが一致したからこそ結婚まで至ったのだろう。

ただ、別にカレー好きじゃなくても相手の趣味はそれはそれとして認め、自分は付き合わないまでも否定はしない、そういうスタンスだったら一番すばらしいと思う。



次回の「カレーのパースペクティブ」(※実施済み)

カレーのパースペクティブ第5回は、カレーを表現するときの言葉にフォーカス。普段どんな言葉を用いてカレーのことを表現しているのかに着目していることで、我々がカレーのことをどんな風に理解しているのかが見えてくるのではないでしょうか。


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