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齋藤・田中『ジョン・ロールズ』の読書会をやってました

 今年の5月から半年かけて斎藤純一・田中将人『ジョン・ロールズ 社会正義の探求者』(中公新書、2021)の読書会を行った。

 コロナウイルスの関係で対面での読書会を行うことを控えていたのだが、今回は人数を絞ってクローズドな会にした上で対面で実施することにした。オンラインに比べて議論に集中しやすいし、表情や雰囲気によって伝わるものもあると思うので、やっぱり対面での読書会のほうがいいなと感じた(こういうのもおじさんの意見になっていくのかもしれないけど)。

 かなり読まれている本だと思うので私が紹介するまでもないとも思うが、読書会を行っていてこの本の特徴だと感じた点を2つ書いておく。


①ロールズの伝記的な紹介が充実している
 「はじめに」でも言及されているように、これまでのロールズの紹介は『正義論』などのテキストの内容を理論的に紹介するものが多く、それが生み出された思想史的な背景を記述するものは多くなかったように思う。この本は生い立ちから死没までの生涯をたどる伝記的な形式で書かれており、特にロールズの学生時代(学部生時代のサークル活動から卒業論文、オクスフォード留学時代の交流など)についての記述が詳しい。


②ロールズの思想を前期と後期で断絶したものととらえない点
 この本ではいわゆる前期ロールズ(『正義論』初版のロールズ)と後期ロールズ(『政治的リベラリズム』や『正義論』第2版のロールズ)を断絶したものとして捉えず、さまざまな価値観が存在する社会における正義を探求しようとする点で連続したものとして捉える。そのこともあって、この本では多様性のある社会におけるコンセンサスの形成を目指した思想家としての側面が強調されており、ロールズを(コミュニタリアニズムと対比させる形で)位置づける従来の紹介とはかなり印象が異なる。


 今回の読書会には、学部生が2人参加してくれて、積極的に議論を盛り上げてくれた。彼らはすでに大学でかなり哲学を勉強してくれた上でこの本を読んでいるわけだけど、この本をきっかけに哲学(特に現代正義論)に興味を持って勉強を始める人もいるだろう。伝記的な事実を踏まえた新しいロールズの入門書から学びを始めることができる彼らのことが少しうらやましいなあと思ったりする。
 ロールズのことなんて詳しくないし、俺もこれから勉強すればいいんだろうけどね(まあでもやれないだろう)。

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