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【Phidias Trio vol.6】 演奏曲目紹介その1

いよいよ今週7月16日、Phidias Trio vol.6 "SOLOs ―ジャチント・シェルシの軌跡”を開催します。

今回は当日の演奏曲目から、ヴァイオリンソロの《Divertimento No. 3 for violin》(1955)、《L'âme ailée for violin / L’âme ouverte for violin》(1973)をご紹介します。

《Divertimento No. 3 for violin》(1955)

この作品はシェルシの創作中期にあたり、数々の器楽独奏曲が作曲された時期に書かれました。
作品は4つの楽章に分かれ、エキゾティックな旋律で作られており、超絶技巧風のパッセージが随所にみられます。

楽譜は、拍子の指定こそありませんが、複雑ながらも一般的な方法で記譜されています。
いずれの楽章も中心となる音があり、その音をめぐって限定されたいくつかの音が、幅広い音域で即興的に展開していきます。鍵盤楽器で発想されたと思われる即興的なパッセージは、ヴァイオリンという楽器に置き換えられると、奏者の限界に迫るようなアクロバティックなものへと変化し、この楽器のもつ技巧性や音色の多様さを引き出していきます。

ローマのイザベラ・シェルシ財団には、シェルシ自身の、オンディオラの即興演奏テープが所蔵されています。その演奏を忠実に聴取して新たな楽譜を書き起こし、1枚のCDに演奏を収めたイタリアの現代音楽ヴァイリオニスト、マルコ・フージは、出版されている楽譜とシェルシの即興演奏録音には大きな隔たりがあると、自身のライナーノートで言及しています。楽譜は、拍子の指定こそありませんが、複雑ながらも一般的な方法で記譜されています。しかしこの、いわば後期ロマン派のスタイルによる記譜では、シェルシが思い描いていた極度の緊張感や恍惚性を再現することは困難だったのかもしれません。

シェルシ演奏における難しさとして、演奏解釈の問題があります。現存する作曲家自身の即興演奏録音という一つの解と、「共同作曲者」を介しながらも、自身も最終的な確認を行ったであろう楽譜。それらにどのように向き合うかは、それぞれの演奏者に委ねられる部分が大きいでしょう。とりわけ作曲家や協働した演奏家たちが世を去った今は、残された楽譜や資料を手掛かりに、個々に問いを立てていくしか方法はないのかもしれません。

《L'âme ailée for violin / L’âme ouverte for violin》(1973)

1959年のオーケストラ作品、《1音による4つの小品》で、1つの音を聞き込むスタイルを確立したシェルシは、その後、声楽家の平山美智子をはじめとする、ごく限られた、才能のある音楽家と共同作業を重ねていきました。

この作品は、シェルシの創作後期にあたる作品であり、2つの楽章から構成されています。
いずれも、スコルダトゥーラ(変則調弦)が指示されています。レの音から派生した四分音、八分音といった微分音が、それぞれに干渉しあい、揺らぎながら1つの音響を作り上げます。

1楽章の《L’âme ailée》 では、ヴァイオリンのE線とA線が使用され(E線はレ♭に下げて調弦)、2つの弦が絶えず鳴らし続けられます。常に鳴り響く2つの音は、微分音を含む微細な音程の変化を重ねながら、最終的にミとド♯の音へと変容します。
2楽章にあたる《L’âme ouverte》では、弱音器を装着する指示があり、1楽章よりもさらに弱い音で始まります。スコルダトゥーラはオクターブの2つの音(A3-E4-A4-E5/低いラ 、ミ 、高いラ 、高いミ )に指定され、ヴァイオリンのA線、D線、G線上で、同じ音や微分音程を演奏します。
ヴァイオリンのそれぞれの弦が本来持つ音色の違いや、干渉し合う音の唸りを聴取することができます。

参考文献

長木 誠司『前衛音楽の漂流者たち―もう一つの音楽的近代 』、東京:筑摩書房、1993年。
Fondazione Isabella Scelsi. http://www.scelsi.it/ (accessed July 11, 2022).
Liner notes ‘The Ritual of the Fingers: The Tactile Experience of Scelsi’s Music’, CD ’GIACINTO SCELSI, Works for violin and for viola’, Marco Fusi (Violin and Viola), KAIROS, 2021.

公演詳細

Phidias Trio vol.6 "SOLOs ―ジャチント・シェルシの軌跡”

2022年7月16日(土) 15:00開演(14:30開場)
KMアートホール (東京都渋谷区幡ヶ谷1-23-20 京王新線幡ヶ谷駅より徒歩6分)

Program
ジャチント・シェルシ:
Divertimento No. 3 for violin (1955)
L'âme ailée for violin (1973)
L'âme ouverte for violin (1973)
Preghiera Per Un' Ombra for clarinet (1954)
Ixor for clarinet (1956)
Four Poems for piano (1936 -1939) より No.1
Four Illusrations for piano (1953)

出演
Phidias Trio (フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン: 松岡麻衣子、クラリネット: 岩瀬龍太、ピアノ: 川村恵里佳

チケット
一般 3,000円 / 学生 2,000円 (当日券は各500円増し)
販売ページ → https://phidias-vol6.peatix.com/

お問合せ phidias.trio@gmail.com

主催: Phidias Trio
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業


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