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「このぬくもりを君と呼ぶんだ」を読んで

 どうも、ファイφです。以前から気になったり忙しい側でちびちび読んでいた悠木りん先生の「このぬくもりを君と呼ぶんだ」(以下、このぬく)を読了したので感想を綴りたいと思います(相変わらず思ったことをただ書き殴りますのはご容赦ください)。あ、もちろんネタバレ有りなのであらすじより下部分は自己責任で。

あらすじ

 偽物の空、白々しい人工太陽。全てがフェイクの地下都市で、リアルな「何か」を探している少女レニーが出会ったのは、サボり魔で不良少女のトーカ。レニーは彼女に特別な「何か」を感じ、一緒の時間を過ごすようになる。ある日、レニーの前に空から赤く燃える小さな球体が。それを『太陽の欠片』と名付けたレニーは正体を調べる。一方でトーカにも変化が……。ずっと続くと思っていた日常は音を立てて崩れ始め――。

                         裏表紙より引用

感想

 めんどくさい女の子同士のすれ違い好きって感じでした(小並感)。レニーのフェイクに対する嫌悪感やそこからくる自分自身の仮面や空っぽな内面に苦しむ描写は青春だなぁと感じました。自分や世界へ思いを馳せるというのは思春期の人間なら誰もが通る道なんでしょう(?)。また、トーカもレニーに対しては雲をつかませないような立ち回りをして実のところは自分の臆病で弱い部分を知られたくないという一面を隠しているというところがなんと青春みを感じます。レニーにとってはこの街で唯一のリアル、トーカにとっては唯一の居場所。しかし二人はひょんなことから互いの認識を見誤ります。レニーは相手にとって自分は特別ではないのでは?という疑心暗鬼から唯一のリアルだと思っていた人の嘘を知り、トーカは相手の特別な眼差しを知りつつも特別じゃないと謙遜した態度を取り特別な人の幸せを決めつけて。ここまで芸術的に価値観がすれ違うと読んでて口角上がっちゃいますよ。

 ちなみに章構成はレニー視点・トーカ視点という風に4章までは構成されています。そんでもって5章で答え合わせのように収束します。小ネタですが、節をまたぐ際にレニー視点の場合は❁マーク、トーカ視点の場合は🌂マークが書かれています。リアルの「温もり(≒太陽)」を求めるから花のマークで、本来人間がみな「一人ぼっち」だと教えてくれたから(P152)傘のマークなんだなぁと思いながら作者の遊び心を感じました。

 閑話休題、ひょんなことからすれ違ったことに当人たちは気づかずに日常は進みます。トーカの一方的な優しさの押し付けはトーカ成分不足のレニーを追い込みます。「太陽の欠片」からトーカの温もりに似たものを感じていたレニーは、トーカに会わない事への代替行為として「太陽の欠片」での火傷による自傷行為を重ねていきます。最初に火傷したシーンを読んだ私は「癖になってリ〇カみたく繰り返したりwww」となんて軽く妄想してましたが実際そうなりました。そしてあろうことか闇落ち路線に直行してしまいました。自販機から缶を取り出すトーカちゃんもびっくりの放火魔になりました。周りから「オオナギさん(トーカ)とはかかわらない方がいい」と言われトーカとも関係がこじれたり以前より会わなくなり隠し事が増えてますます自分に嫌気を募らせたりとストレス要因たっぷりでした。トーカはこじれた関係に納得しようとしますが引っかかりを感じつつこれが適切な距離だと自分に言い聞かせていました(そういうところやぞ)。そして放火事件に首を突っ込み引っかかりが何なのか答えを出します。そして犯人がレニーであることを詰問せずに自白させようとフェイクを使ってしまいます。真実を確かめるために魔が差したのでしょう。しかしそれが引き金になりレニーに完全に拒絶されます(そういうところやぞ)。レニーはリアルだと思っていたトーカのフェイクに耐えられなくなり思い出を、フェイクを焼き尽くしてやるという思いに駆られ最も大切な場所である屋上を燃やすことを決意します。止めようとしたグレイスさんに対して噛みつくような物言いは「優等生」の欠片も感じさせない正に闇落ちしたような感じでした。…ただの闇落ち好きとか言わない。で、屋上で最終決戦(?)なのですが、その時の扉絵で笑ってしまいました。レニーの表情は冷たく目元が暗く光を失った目をしていました。完全にラスボスです。その後トーカが想いをぶつけて大団円エンドでした(レニーちゃんチョロくない?)。

 流れをなぞりながらざっっっくり感想書きましたので全体的な感想(批評?)に移ります。私も多様しますが「()」を用いた文の補足が多く使われていてちょっとくどい感もありました(食べ物が出ると「人工の素材で~」といった趣旨の文がこの説明のように続いきます)が、レニーのフェイクへの想いを移入を促す意味では強力な表現だったと感じました。またSFとしての面はそこまで強くなく舞台装置程度の感覚だったので本格的なものを期待した人にはちょっと肩透かしかもしれません(例えば「太陽の欠片」の動作原理は、フェイクに価値を見出した研究者とリアルを探し求めるレニーという曖昧な差で作動するしないと説明されただけだった)。また、百合かと言われても「特別」な関係である描写はありましたが個人的には百合と呼ぶのかどうか悩ましいなぁと感じます。なんというか「女同士の友情以上百合未満」といった塩梅です。まぁ最近百合に対する見方が揺れつつある私の大げさな感想かもしれませんが。この辺の価値観だけでこの感想と同等かそれ以上書けそうなので割愛しますが、「ガッツリとした百合」というか「ゆるい百合」って感じです。しかし心理描写がとても丁寧だったように思います。先ほど挙げた「()」を用いた補足技法は私的には好印象で斬新な作品だったんじゃないかと思いました。人間ドラマとして非常に濃い内容だったのでいい作品だと思いました。

以上、終わり。世の中の夏休みの終わりを感じつつ、実際の夏休みの長さに複雑な思いを抱きながら執筆するファイΦでした。

P.S. レニー同様、物語ラストまでハンナちゃんのことをクソ重友人だと勘違いしてました。自分のことを助けてくれた友人が他の誰かとつるんでるのを見ると妬いちゃう系女子ですね。間違いない。エピローグでオチをつけるのは狙ってたな?見事にハメられました(勝手にハメられながら)。

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