final MAKE1を毛糸でチューニングしてみる
承前
事の始まりは、先日秋葉原の final STORE を訪れた時に聴かせていただいた「猫の毛MAKE1」でした。これは、スタッフのナタリーさんが飼っていらっしゃる猫の毛を音導管フィルターに使ってみたという、ユニークなチューニングを施した MAKE1 でした。ネタかと思いきや、実際に試聴してみるとこれがなかなか侮れないものがありまして、多少能率が低くなるのですが、BA らしい高域の伸びがある一方で低域の量感も増しているという興味深いものだったのです。例えるなら、ちょっと final A3000 に似た感じの鳴り方だったという印象でした。
ですが、この猫の毛フィルターにはいくつか弱点があると思われます。
・猫の毛の量を左右均等にするのが難しい
・動物の毛なので、衛生面や耐久性にやや難があるかもしれない
・そもそも猫を飼っていないと作れない
アイデアとしては非常に面白いものの、こういった点で再現性が低い部分があるように思えました。
で、帰宅してからこの猫の毛フィルターの話を妻にしたところ、とても受けてくれまして。で、いい音だったんだけど、(上記のような)弱点があるんだよねー……と話していた時に、ふと頭にひらめくものがありました。
定量的に正確に加減することができて
誰でも入手できて
衛生的で
毛で出来ているもの。
「あ…毛糸だ!」
というわけで、唐突に MAKE1 毛糸フィルターチューニング実験を始めることになったのでした。
チューニング実験の手順
今回用意したのは、ウールの毛糸です。太さは直径3mm程度のいわゆる「並太」。
今回用意した毛糸は4本撚りなので、これを2cm程度に切って、撚りを解いて2本ずつの糸にします。
(適当な毛糸の種類や長さについては後述します)
糸を分けたら、手やピンセットを使って、それぞれの糸が繊維状になるように軽く割いてほぐします。これは、フィルターとしての密度を均質化させるためです。
ここまで準備ができたら、ほぐした糸をピンセットで音導管に詰めていきます。
ある程度まではピンセットだけで詰めることができるのですが、しっかり詰めようとするとピンセットでは先が鋭すぎてうまくいかなくなる場合があります。
ここで、MAKE シリーズ付属のドライバーの登場です。このドライバーを使って、内側に糸の繊維を折り込むようにして詰めていきます。
これがなかなかいい感じの太さでして、慣れるとこれだけで詰め切ることができます。
うまく詰められない時は、今度はピンセットのキャップの出番です。このキャップの太さもいい塩梅で音導管にはまるので、糸を奥に詰めるのに便利です。
使えるものは何でも使います(笑)
こうして、フィルターAを貼る縁が見えるくらいまで糸を奥に詰めます。
あとは、いつも通りにフィルターAを貼って完成です。厚いフィルターを使うと音がこもるので、フィルターA-1で蓋をするだけにしておくのがおすすめです。
なお、その他の部分のチューニングとしては、
ドライバーベント:マスキングテープ無し
フロント筐体内側ベント:フィルターC-7
としました。毛糸フィルターは音がこもりやすいので、フィルターCはデフォルトの C-11 より薄いものがよいかと思います。高域を重視される方は、もっと薄くしてもいいかもしれません。
実験結果
さて、これで聴いてみると…… BA らしい中高域の伸びや抜けのよさは維持されたまま、低域の量感がグッと増して、BA のみのイヤホンであることを思わず忘れそうになるような音になりました。これが毛糸(ウール)フィルターの効果のようです。正直言って、驚きました。低域好きな私は、初めて聴いた時に思わずガッツポーズしてしまったくらいです。MAKE1 では特に難しい低域の増量に、こんな形で成功するとは思いませんでした。
低域の量感は糸の量で変わる(増やすと多くなる)ようなので、追実験される際は何度か試してみてご自身の好みに最適な量を探ってみてください。詰め過ぎると低域が強くなる代わりに音が詰まった感じになるので、適宜減らすなどして調節してください。
毛糸の種類と長さについて
今回、私は並太の毛糸を使いましたが、これから挑戦される方にはより細い毛糸をおすすめします。細い糸にするのは、長さの調節がしやすくなるからです。太い糸を1mm単位で刻むよりも、より細い糸を切る方が量を細かく調節しやすいのはわかっていただけるかと思います。今回の並太の毛糸は、冗談抜きで1mm違いで音が変わったので、神経を使いました。
あと、撚りのない毛糸もあるそうなのですが、左右均等の長さに分けることができる、という点で2本撚り以上の毛糸をおすすめします。
(正直なところ、私は毛糸にはまったく詳しくないので、別のより良い選び方があるのかもしれません……)
詰める毛糸の長さは、一概には言えません。お好みの低域の量感もあるでしょうし、毛糸のタイプや他のチューニング要素(特にフィルターC)との絡みがありますので、適宜試しながら加減していただくしかありません。ただ、毛糸フィルターは思ったより多く詰めてもさほど高域を妨げないようなので、割とみっちり詰めても大丈夫です。今回試した4本撚りの並太の毛糸の場合は、1.5cm〜2.5cm程度が目安になるかと思います。
今後の展開について
毛糸には、素材によっていくつか種類があります。ウールの他には、
・カシミヤ
・シルク
・コットン
・リネン
・アクリル
・ポリエステル
などがあるそうです。
柔らかいカシミヤやシルクを使うと柔らかい音に、繊維が硬いコットンやリネンを使うと、シャープな音になるかもしれません。アクリルやポリエステルといった化繊ものがどういった鳴り方をするのかも興味深いところです。
今回の実験はとりあえずウールのみでしたが、余裕のある方はぜひ違う素材の毛糸も試してみてください。
面白い結果が出た際は私のツイッターアカウント(@pherkad_gamma)へ教えていただけますと幸いです。
以上、MAKE1 毛糸フィルターチューニング実験のご報告でした。
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