final MAKE1を毛糸でチューニングしてみる Part2
前回はウールの毛糸をフィルターにしたMAKE1のチューニング方法をご紹介しました。
今回はそこからさらに踏み込んで、毛糸の素材ごとの特徴を分析して、どんな毛糸がフィルターに最適かを探っていきたいと思います。
素材について
まず、今回試すことができた毛糸の素材は
・ウール
・コットン
・シルク
・アクリル
の4つです。
以下、それぞれのフィルターとしての特徴を試せた範囲で述べていきます。
◇ウール
前回の記事で使用したのが、ウール100%の毛糸でした。ウールは、音導管にみっちり詰めても、中高域にほとんど影響を与えません。そのくせ、ある程度低域の音の量感が増す、というなんだか都合のいい素材です。前回チューニングがうまく行ったのは、たまたまウールの毛糸を使うことができたからかもしれません。
◇コットン
コットンも、ウールと近いくらい中高域をよく通し、また低域に量感をもたらします。ただ、ウールに比べると若干低域寄りの音になるので、入れすぎると音が少しこもりがちになります。
◇シルク
繊維が非常に細く密度が高いためか、中高域を抑える効果が強いです。安易に使うと音がこもるだけに終わります。その代わり、低域の深いところを通す傾向があるので、うまく使えば低域パスフィルターとしての役割を果たします。今回の実験では、この特性がチューニングの鍵になりました。
◇アクリル
アクリルも繊維が細く密度がそこそこ高いためか、使うと低域寄りの音になります。その分高域がやや減衰するので、チューニングしづらい素材です。傾向としては、コットンとシルクの中間くらいでしょうか。
こういったように、素材によってそれぞれ特性があることがわかりました。
戦略
これらを踏まえた上で私が考えたのは、ウールとシルクを混合することによって、中高域の減衰を抑えたまま低域の量感を増やす、という戦略でした。
実際、ウールの毛糸とシルクの毛糸をほぐして目分量で混ぜ合わせてから音導管に詰めてみると、なんとなく戦略どおりの音を出すことができそうでした。
しかし、この「ほぐして混ぜ合わせる」という方法は本当に目分量で割合を合わせなければならず、かつ均等に混ぜ合わせるのはほぼ不可能です。これでは再現性がなく、実験とは呼べません。
そこで目をつけたのが、ウールとシルクの混紡の毛糸です。これを使えば、ある一定の割合でウールとシルクが混じり合ったフィルターを安定して作ることができます。前回チューニングを行なった時のように、毛糸の長さによってフィルターの効果を調節することも可能です。
混紡の特性
というわけで用意したのが、ウールとシルクの割合が6:4、7:3、8:2の混紡の毛糸です。
以下、それぞれを使ってみた感想です。
◇ウール60%シルク40%
シルクの割合が最も多いので、工夫のし甲斐がありました。ある程度音導管に詰め込んでA-1フィルターで蓋をするだけでもいいですし、あえて詰める量を減らして、その分Aフィルターを厚くして音の響きを変えてみたりと、いろいろ試してみるのが楽しかったです。
ただ、シルクの量が多い分、毛糸の長さを少しでも長くし過ぎるとすぐに高域の抜けが悪くなるという難しさもありました。
(毛糸の長さの調節については後述します)
◇ウール70%シルク30%
この割合の毛糸が一番扱いやすかったように思います。長さによる微妙な調節がしやすかったので、チューニングを詰めていくにはちょうどよかったです。
◇ウール80%シルク20%
シルクの割合が少ないので、シルクによる低域への効果が出にくいです。音導管にみっちり詰めて、どうにか効果が出るかな、という感じです。そのため、チューニングのアレンジの幅があまりありませんでした。
出来上がったレシピ
様々な試行錯誤を行なった結果、以下の2つのレシピが出来上がりました。
1. 中低域重視のレシピ
使ったのは、柳屋という毛糸屋さんで入手した、ウール60%シルク40%の毛糸です。まずこの毛糸を3.0cmに切ります。3本撚りの糸なので、撚りを解いて3本の糸にして、1本ずつを左右に使います。糸をさらに割いてほぐしてフィルターとして均質化させるのは前回やった手順と同じです。
糸を音導管に詰めたら、これにA-2フィルターで蓋をします。なお、ドライバー内側ベントのフィルターはC-7としました。
このレシピの売りは、Aフィルターのわずかな厚さの違いによる音の厚みと、低域の量感です。通常、毛糸チューニングでは音がこもらないようにA-1フィルターに留めるのですが、ここではあえて毛糸の量を減らして、その分やや厚いA-2フィルターをつけることで、音に厚みを持たせるようにしてみました。反面、BAらしい高域のキラキラ感はやや落ちるので、その辺りはご承知おきください。
2. バランス重視型のレシピ
使ったのは、小糸屋という編み糸屋さんで入手した、ウール70%シルク30%の毛糸です。まずこの毛糸を3.6cmに切ります。この毛糸も3本撚りなので、撚りを解いて左右に1本ずつほぐして入れるのは上のレシピと同じです。糸を詰めたら、こちらはA-1フィルターで蓋をします。なお、ドライバー内側ベントのフィルターは上と同じくC-7としました。
このレシピの売りは、BAらしい高域の抜けの良さをキープしつつ低域の量感も十分味わえるというバランスの良さです。BAオンリーのMAKE1の持ち味を活かせるようにしてみました。
糸の長さと詰め方について
前回の記事では、ピンセットのキャップまで使って糸をぎゅうぎゅうに詰め込むという方法をご紹介しましたが、今回いろいろな素材の糸を様々な長さで詰める作業を繰り返した結果、2つのことがわかりました。
1. ピンセットで詰め切ること
ピンセットだけで糸を詰めてもどうしても詰め切れない時は、糸が長過ぎると判断しましょう。その場合は、少し短い糸にしてリトライしてください。道具を使ってぎゅうぎゅうに詰め込むと、糸の素材によってはフィルターの効果が強く出過ぎてしまいます。ピンセットで詰め切れるくらいが、フィルターとしての密度はちょうどいいようです。
なお、ピンセットを使って糸を詰める際は、音導管の奥に見える半月型の穴に差し込むようにしてまとめるとうまく入ります。
2. 長さの調節はミリ単位で行なう
いろいろ試してみてわかったのですが、糸の長さが1mm違うだけでも、詰めた時の密度が変わるので、フィルターとしての効果が思った以上に変わります。糸の素材にもよりますが、1mm違うとB-1フィルター1枚分くらいの影響はあると考えた方がよさそうです。わずかな差ではありますが、糸の長さは慎重に測りましょう。
終わりに
以上で、毛糸によるMAKE1のチューニング方法のご紹介はひと区切りにしたいと思います。こうして書きながらも、毛糸を使ったレシピがいくつも思いついているのですが、試しているときりがないので、レシピ作りも一段落にしようかと思っています。
誰かの参考になったのかどうかまったくわかりませんが(笑)、MAKEシリーズの楽しみ方のひとつとしてこんな方法もあるんだ、ということでご笑覧いただけたのであれば幸いです。それではまた。
ふぇるかど(@pherkad_gamma)
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