大気汚染への長期暴露はサルコペニアのリスクと関連しますか

大気汚染は10年以上にわたり、先進工業国で公衆衛生上の問題となっています。長期の曝露はがん、心血管疾患、脳血管疾患、骨粗鬆症などのリスクを増大させます。

一方、サルコペニアは加齢に関連する多因子性症候群であり、大気汚染との関連も指摘されます。骨折や死亡リスクが高まるため、特にがんや慢性腎臓病などの患者は注意が必要です。しかし、サルコペニアの病因や病態は未解明です。炎症反応の誘発や酸化ストレスが発症に関与していることが示唆されており、大気汚染物質との関連も報告されています。

中高年対象の過去の研究から、大気汚染がサルコペニアのリスクを増加させる傾向が見られました。しかし、若年成人でもサルコペニアが10％以上診断されています。そこで大気汚染とサルコペニアのリスクを評価するため、台湾全国のコホート研究が実施されました。

〇プロローグ
👩サルコペニアとは、主に加齢によって起こる全身の筋肉量減少と、それに伴う筋力低下、身体機能の低下を指します。大気汚染とサルコペニアの関係については、直接的な研究結果はまだ見つかっていませんが、以下のような可能性が考えられます。

①炎症反応の誘発：大気汚染に含まれる微粒子や化学物質は、肺などの組織に炎症反応を引き起こす可能性があります。この炎症反応は全身に影響を及ぼし、筋肉の合成を阻害し、筋肉の分解を促進する可能性があります。これにより、筋肉量が減少し、サルコペニアが進行する可能性があります

②酸化ストレスの増加：大気汚染により体内に取り込まれた有害物質は、体内で酸化ストレスを引き起こす可能性があります。酸化ストレスは、筋肉の機能低下や筋肉量の減少を引き起こす可能性があり、これがサルコペニアの進行に寄与する可能性があります。

③生活習慣の変化：大気汚染がひどい地域では、屋外での活動が制限される可能性があります。これにより、運動量が減少し、筋肉の使用が減ることで、筋肉量が減少する可能性があります。

👩以上のように、大気汚染がサルコペニアの進行に影響を及ぼす可能性がありますが、これらのメカニズムはまだ完全には解明されていません。今後の研究により、大気汚染とサルコペニアの関係についてより詳しい知見が得られることが期待されます。

はじめに
大気汚染は、過去10年以上にわたり、先進工業国における重要な公衆衛生上の問題となっています。長期にわたる大気汚染への暴露は、組織特異的な炎症を誘発し、酸化ストレスを増大させ、その結果、がん、心血管疾患、脳血管疾患、神経変性疾患、骨粗鬆症などのリスクを増大させます。

サルコペニアは、運動量の低下、栄養摂取不足、性ホルモンの変化、酸化ストレスによって引き起こされる加齢に関連した多因子性症候群です。主に骨格筋量と筋力の低下として現れます。特に固形がん、腎機能障害、糖尿病、肝硬変の患者において、骨折、機能低下、虚弱、死亡を引き起こすことが少なくありません。とはいえ、その病因と病態はまだ解明されていません。

炎症マーカーや酸化ストレスは、サルコペニアの発症に関連することが証明されています。過去のサルコペニア関連の研究は、中高年を対象としたものがほとんどでした。

例えば、ある横断研究では、大気汚染物質が1単位増加するごとにサルコペニアのリスクはPM2.5、PM10、SO2、O3でそれぞれ11.1％、4.3％、22.6％、9.3％増加しました。また、Zhihanらは、以下の大気汚染物質において、四分位範囲が増加するごとに、中高年（平均年齢：59.71）におけるサルコペニアのリスクが有意に増加することを観察しました。

大気汚染物質とサルコペニアとの関連性（調整済みモデル）
・PM2.5（OR：1.06；95％CI：1.04、1.07）
・PM10（OR：1.15；95％CI：1.13、1.17）
・粗PM（OR：1.02；95％CI：1. 01、1.03）
・PM2.5の吸光度（OR：1.08；95％CI：1.07、1.10）
・NO2（OR：1.12；95％CI：1.10、1.14）
・NOx（OR：1.06；95％CI：1.05、1.08）

しかしながら、ほとんどの民族で、若年成人の10％以上がサルコペニアと診断されています。空気は生きていくために必要不可欠な物質です。ホルモンや栄養状態、活動のように、年齢や性別の違いによって変化するものではありません。そこで著者らは、大気汚染への長期曝露に関連するサルコペニアのリスクを評価するため、18歳以上の台湾人住民を対象とした全国規模のレトロスペクティブ・コホート研究を実施しました。

エビデンス
「台湾の成人住民における大気汚染への長期暴露とサルコペニアのリスク：全国規模のレトロスペクティブ・コホート研究」