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日本人におけるBMIと循環器・代謝系形質: メンデルランダム化研究

はじめに
心血管疾患(CVD)のなかで、虚血性心疾患と脳卒中はどちらも世界の主要な死因です。虚血性心疾患は2019年の世界の総死亡者数の16%を占め、2000年(200万人以上)から2019年(890万人)にかけて最大の増加を示しています。また脳卒中は世界の総死亡者数の約11%を占めています[1]。

観察研究によって、CVDの最も顕著な危険因子は肥満とBMI高値であることが示されています[2]。これらは動脈硬化[3]の進展と関連しています。動脈硬化は、肥満に伴う脂質異常症[4]や2型糖尿病[4-6]、高血圧[4,7]、および腎機能障害[8]によって、炎症[12,13]を含む様々なメカニズム[9-11]を通して進展します。肥満者の炎症レベルは非肥満者の炎症レベルよりも高い傾向があります[14-16]。動脈硬化もまた慢性的な全身性炎症の状態です。

肥満では、脂肪組織が炎症性アディポカイン(例えば、TNF-α、IL-6、MCP-1、レジスチン、レプチン)を産生します[14,15,17]。これらが動脈硬化に直接関与するため、炎症は加速されます[16]。過去数十年間における世界的な肥満の急増に伴い[18]、肥満に起因する循環器・代謝系疾患は、現在進行中の公衆衛生上の大きな負担となっています。新型コロナウイルス感染症2019の大流行を背景に、肥満によるCVDは、身体活動の低下とますます座りがちなライフスタイルの採用により、より重大な問題となる可能性があります。

多くの観察研究により、肥満またはBMI高値と、循環器・代謝系疾患およびその危険因子との有意な関係が証明されています[4-6]。しかしそのメカニズムは複雑であるため、因果関係は完全には解明されていません[19]。行動的因子(例えば、食事、睡眠パターン、座りがちなライフスタイル)や生物学的因子(例えば、ホルモン、栄養、代謝因子)だけでなく、遺伝的因子(例えば、脂肪量や肥満関連遺伝子[FTO])[20]、環境因子(社会経済的地位、文化、身体規範[21,22]、近隣の歩きやすさ[23]、都市性[24]など)、心理学的因子(精神的ストレスなど)も肥満と循環器・代謝系疾患の発症に関係しています。また、両疾患における無意識バイアス(unconscious bias)、逆因果、個人的要因(遺伝的要因を含む)と環境要因の相互作用を考慮することは困難です。

メンデルランダム化(MR)は、遺伝的変異体を操作変数(IV)として用いる新しい疫学的アプローチです。MRは、減数分裂の際に遺伝的変異体(genetic variants)がランダムに組み合わされることにより、交絡因子の影響を受けずに観察データにおける因果関係を推論する手法です[25]。

最近の研究では、ヨーロッパ人における肥満と循環器・代謝系疾患との因果関係が、MRによって明らかにされています[26,27]。しかし日本人を含む東アジア人におけるエビデンスは、現在のところ限られています。

日本(3.7%)と米国(38.2%)の遺伝的・環境的背景や肥満(BMI≧30kg/m2と定義)の有病率の違いを考慮すると[18,28]、それぞれの集団におけるBMIと循環器・代謝性疾患との因果関係を明らかにすることは重要です。

これまでに実施された日本人最大のゲノムワイド関連研究(GWAS)では、BMIと虚血性脳卒中、心筋梗塞、2型糖尿病などのいくつかの循環器・代謝系形質との間に有意な遺伝的相関があることが報告されていることから[29]、これらの疾患に関するMR研究により、日本人における関連因果関係の方向性が明らかになると考えられました。そこで、遺伝的に決定されたBMIで定義される肥満が、日本人のCVDおよび関連する循環器・代謝系形質のリスクに影響を及ぼすかどうかを調べるために、日本人を対象としたMR研究を実施しました。

エビデンス
「日本人におけるBMIと循環器・代謝系形質: メンデルランダム化研究」

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