HER2低発現乳がんの治療にT-Dxが有望

こんにちは、薬剤師Bです。
普段は病院で主に化学療法に関係する業務を行っています。
普段はなかなか文章を書く機会がありませんが、このnoteはアウトプットの練習になればと思い始めてみました。

普段論文を読んだりしても「ふーん」とか「へえ」で終わってしまうことが多いんですけど、なんか勿体ないなあと思い。。。
時たまあった院内の論文抄読会もコロナ禍で全滅。。。
仕方がないので、読んだ論文をこうしてnoteにまとめて”ひとり抄読会”をしようという試みです。
続くかなー?
ほとんど独り言みたいなものですが、もし興味を持っていただけたらぜひお付き合いください。もちろん、勉強中の身なので「読み間違ってるよー!」ということがあれば教えていただけると幸いです。


さて、今日の論文です。
せっかくなので最近ホットな話題の論文を。


Trastuzumab Deruxtecan in Previously Treated HER2-Low Advanced Breast Cancer.

N Engl J Med. 2022 Jun 5. doi: 10.1056/NEJMoa2203690. Epub ahead of print. PMID: 35665782.

DESTINY-Breast04試験の結果になります。
少し前にプレスリリースが出てニュースになってましたね。
今ちょうどASCO2022が現地で開催されているところですが、そちらでも大変大きな話題となっているようです。
では内容をPECO形式に則って確認してみましょう。
(PECOって何? という説明はここでは端折らせていただきますね。わからない方はググったら出てくると思います。いろいろと成書も出ておりますのでちゃんと勉強したい方はそちらも参考に)

P:Patients
遠隔転移ありまたは再発乳がん患者で、1つまたは2つ以上の化学療法歴のあるHER2弱陽性の患者
E:Exposure
Trastuzumab Deuxtecan (T-Dx)
C:Control
医師の選んだ化学療法(Eriblin, Capecitabine, nab-paclitaxel, paclitaxel, Gemcitabine)
O:Outcome
主要評価項目(ホルモン受容体陽性患者におけるPFS)
→10.1か月 vs 5.4か月(HR 0.51; p<0.001)
副次評価項目①(ホルモン受容体陽性患者におけるOS)
→23.9か月 vs 17.5か月(HR 0.64; p=0.003)
副次評価項目②(全患者におけるPFS)
→9.9か月 vs 5.1か月(HR 0.50; p<0.001)
副次評価項目③(全患者におけるOS)
→23.4か月 vs 16.8か月(HR 0.64; p=0.001)

ああ、これが”Game changer”か。
そう感じさせる試験結果でした。
本試験が対象にしたのはHER2弱陽性の患者です。
通常、免疫化学染色(ICH)で3+または2+かつFISH陽性でHER2陽性(=強陽性)と判定されます(簡単に言えばHER2マシマシの人だけHER2陽性と分類されていた、ということです)。これはTrastuzumabの有効性が得られるか否かに基づいた分類で、HER2の発現がこれ未満の乳がんではTrastuzumabは有効性を示せませんでした。しかし、本試験で対象となったHER2弱陽性はICH 1+または2+かつFISH陰性であり、今まではHER2陰性と分類されていた患者です。
この、Trastuzumabでは有効性が示されなかった患者集団に対し、T-DxはOS・PFSともに有意な延長を示しました。
この、HER2弱陽性の患者集団は抗HER2療法をうけることができず、ホルモン受容体陽性であればホルモン療法を受けることができるものの、陰性であればいわゆるトリプルネガティブ乳がんであり、治療選択肢が少なく予後不良の集団でした。本試験の結果はこのような人たちへの光明といえようかと思います。


さ、中身を少し詳細に見ていきますね。
患者背景としては、CDK4/6使用歴のある患者が70%くらい、殺細胞性の化学療法歴はほぼ100%です。治療ライン数はMedianで3レジメンとのことなので、臨床的には、ホルモンは使い切り化学療法もアンスラサイクリンもしくはタキサン又は両方でPDになって、という方がほとんどかと思います。7割程度の患者さんで肝転移もあり、こうなると治療効果を望むのはなかなか難しい状況かな、という感じですね。厳しめの患者集団を対象としている印象です。この中でPFS・OSの延長を示したのは、これだけ話題になるのも頷けるなあ。

Grade3以上の有害事象はT-Dx群で52.6%、化学療法群で67.4%とほぼトントンです。若干化学療法群が多いかな?
ただ治療期間が8.2か月 vs 3.5か月とT-Dx群のほうが倍以上長いわけで、単位時間当たりと考えるとT-Dx群の安全性が高いように思います。
T-Dx群のほうで多かった有害事象は悪心嘔吐、倦怠感、脱毛、そして間質性肺炎(ILD)ですね。化学療法群は50%以上はEriblinですし、ほかのレジメンもそんなに吐き気が出るレジメンではないので、まあ妥当かなという印象です。逆に好中球減少は化学療法群で多め。
しかし、というか、やはり、というか、ILDは怖いですね。T-Dx群の12.1%にILDが生じ、Grade1が3.5%、Grade2が6.5%、Grade3が1.3%でGrade5が0.8%。治療関連死もT-Dx群が若干多めです(3.8% vs 2.9%)。患者さんが外来に来たらまずSpO2は測ってもらいましょう。


内容としてはこんな感じでした。
試験デザインも明快なので、そこまで疑問点などもなく。
強いてあげるなら、アンスラサイクリン又はタキサンの使用歴有無は有効性に影響与えるのか、ということですね。
本試験ではおそらく両方使い切ってる方が多いんでしょうけど。
将来的にはもう少し早い治療ラインで使う試験も出てきそうですね。

今後は、HER2陽性、という考え方も強陽性・弱陽性と細分化されていきそうです。添付文書はHER2陽性の~という書き方なのですが、現時点ではHER2弱陽性は適応外なんでしょうか。。。?今までなら間違いなく保険償還で切られてそうですけどね。
この前はT-DxとT-DM1のガチンコ試験で圧勝したばかりですし(そういえばあの論文もNEJMでしたね)、今後ますますT-Dx活躍の機会は増えそうです。

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