[未発表原稿]山奥という自由
『人生の土台となる読書』のために書いたけど使わなかった原稿です。
生活費のうち、食費や衣服や娯楽などはいろいろ削る方法があるけれど、削るのが難しいのは家賃だ。
特に都会の家賃は高い。なんで暮らすだけでこんなに何万円も取られてしまうのだろうか。理不尽だ。
田舎に行けば家賃は安いのだろうけれど、住んだことのない田舎に行って新しい生活をやっていくのは不安だ。田舎っていろいろ面倒なことが多そうだし。
家賃に縛られない生活をしている人たちは実際にいる。石井あらた『山奥ニートやってます。』は山奥の廃校の校舎にニートを集めて住んでいる人たちの話だ。
僕が住んでいるのは、最寄り駅から車で2時間の山奥です。
もちろん周りにお店はありません。徒歩圏内に他に住んでいるのは5人だけ。
それも爺さん婆さんばかりで、平均年齢は80歳を超えます。
そんな限界集落に、平屋建ての木造校舎があります。小学校として使われていたのはもう何十年も前のことです。
ここに、15人の若者が暮らしています。年齢は10代から40代。女性もいます。
もともとの村の住人が5人で、ニートたちが15人なので、今ではニートのほうが多くなっている。
そもそも住む人が絶えてしまいそうな限界集落だったので、新しく若い人たちが住むことは歓迎されているらしい。
街からは遠く離れているけれど、人との繋がりは強くなりました。
山奥では人間が少ない分、大切にされます。換えがないのです。
地域の爺さん婆さんに出会うと、あいさつするだけでいつも喜んでくれます。
家賃はタダ。そして食費や光熱費として、月に一万八〇〇〇円を払えばそれで生活ができる。
収入源としては、近所の梅の収穫やキャンプ場の手伝いをしている人が多いらしい。山奥は働き手が少ないのでニートでも貴重な労働力だ。労働が苦手なニートでも、月に一万八〇〇〇円分のバイトでいいならなんとかなりそうだ。お金に追われることのない生活がここにある。
山奥でもインターネットの回線は来ているので娯楽は十分ある。仲間が周りにいれば、一緒にゲームをしたりアニメを見たりしていればいくらでも時間が潰せる。
みんな暇だから、遊び相手には事欠きません。
すべてを捨てたつもりだったのに。
やっていることは、ひきこもりだったころと同じなんです。
アニメ見て、ゲームして、SNSして、寝る。
実際に山奥に移住するのはなかなか勇気がいるけれど、都会で行き詰まってもいざとなったら山奥に行って暮せば死なない、ということを知っていれば、生きるのが少しラクになる気がする。
これから日本の人口はどんどん減っていく。限界集落や廃村も今よりさらに増えていくだろう。
だけど、限界集落や廃村というのは、住んでいる人が少ない分だけ好きなことが自由にできる余地があるのだ。そう考えると、この先、日本の山奥や辺境からいろいろ面白いものが生まれてくるのかもしれない。
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